「なァリオさん、まだコレ好きなの?」
隣で寝ているエデアがふいに体を此方に向けて尋ねる。
私が不思議そうな顔をしていると、彼は人差し指でゆっくりと己の唇を撫でた。
その仕草が妙にエロティックで、悔しいけれど見入ってしまう。
沈黙を肯定と受け取ったらしい彼は、手を伸ばし、その指を私の唇に這わせた。
垂れ落ちる口紅が、2枚の花弁を汚していく。
「マーキング~」
クスクス、と笑いながら満足そうに彼は言った。
私の頬に手をやり、強引に顔を引き寄せる。
鼻が触れそうな距離で囁かれる低い声。
「不味かったでしょ?」
うん、すごく。
撫でられるのは好きでも、塗り付けられるのは初めてだった。
咥内にじわりと侵入する彼の痕跡は最低の味がした。
・・・とたん、無理やり口づけられる。
態々聞いておいて、私の返事など初めから待つ気もない。
腐肉の味が広がる。
彼は暫くして唇を離した。
えずく私にニヤリと笑みを浮かべ、"続き、やる?"と尋ねる。
今度は返答を待ってくれるらしい。
私は睨む様に彼を見上げるが、正直、少し疼いていた。
頷こうかどうか迷っていると、頬を持ち上げていた彼の手がすっと引かれる。
「時間切れ」
最っ低。
彼は再び仰向けになり、私も同じ姿勢をとる。
熱気が過ぎ去り、すぐにいつもと変わらぬ距離が戻る。
「期待した?」
ややあって、呟く様に彼が言う。
目をやると、彼は顔を此方に向けている。
意地悪なんだか優しいんだかよく分からない表情をして。
・・・・・・。
まあ。
少しは。
癪だから言わないけど。
呆れ顔で彼を一瞥してから、目をそらす。
しかし私の心を見透かしているかの様に、彼はまだ此方を見つめ続けていた。