・・・それは特別な町である。
この町は、死者の魂を呼び寄せ、彼らに相応しい肉体を与え蘇らせる。
町に呼ばれる魂は皆、惨たらしい生を送り、悪霊となりかけていた者ばかり。
『普通の生を送りたかった』
そんな彼らに、ラーバリスは等しく穏やかな暮らしを与える。
そうして気の済むまで静かに暮しながら、彼らは安らかに天へ昇る時を待つのだ。
この町の住人の死は昇天と同じであり、葬儀後、残された身体の埋葬は祝い事としてささやかに執り行われる。
ラーバリスの存在は、協会最高位のネクロマンサーのみ知り得る。
死の谷と呼ばれる、険しい山岳地帯に囲まれた深い谷底に、ひっそりとそれはある。
大昔、旅の賢者が悪霊の発生を抑制するため築いたと伝えられている。
協会最高位ネクロマンサー間の、ラーバリスに関する暗黙の了解が幾つかある。
彼らは完全な人格、凶悪な悪霊と同等の能力を有している。彼らを敵に回すと、並大抵の者は太刀打ち出来ない。
彼らは『変化』を嫌う。中には生きた人間に恐れ、怒りを抱いている者も多い。
昔、当時のラーバリス町長と、最高位のネクロマンサー数名は、この了解を取り交わすために接点をもったことがある。
ラーバリスの北西に位置する、小さなストーンヘッジ。
地面には円状のタイルで装飾が施されている。この町の礎は此処とされている。
中央には賢者の杖らしき物が刺さっており、その手前には祭壇、そして土がむき出しになり盛り上がっている。
杖が悪霊を呼び寄せ、身体を与え、土の中から呼び出されるという。
ラーバリスの町長は杖から剥がれ落ちた装飾である宝玉の一部を持っており、
新しい住人が呼び出される際、同調して反応するそれを合図に迎えに行く。
町の周りを囲む、いつも薄霧に覆われている焼け枯れた黒い林。
炭となった木は自然に倒れる事も無く、切っても同じ木がいつの間にかそこに生えている。時間の感覚が狂う林。
街の住人はこの林を抜ける事は出来ない。行けども行けども霧が晴れないのだ。戻る事は容易いが。
これは外から入ってくる者も同じらしく、余所者からのバリケードの役割も果たしていると言える。
ラーバリスの西に位置する、唯一外界との出入り可能な門。
しかし、この門をくぐれるのは、己の復讐心を捨てたと誓える者だけ。
元々町の外へ出たがる者はそう居ないが、時々復讐心を忘れられない新しい住人が、門から外へ飛び出そうとする。
するとその住人は体ごと一瞬で魂が消滅してしまう。
ラーバリスは悪霊の発生を抑制する町。再び悪霊にならんとする者は、昇天の機会すら与えられないのだ。