京太郎「……はぁ」

京太郎(最近憧に実にショックなことを言われた。実に)

京太郎(俺ってそんな風に見られてたんだな……)


憧『なんかさ、最近のあんたの話(?)を聞いてて思ったんだけど……』

京太郎『なんだ?』

憧『いや、向こうの人に失礼かもしれないんだけどね』

京太郎『だから、なんだー?』

憧『あんた……最近なんか、古市さんに似てない?』

京太郎『あー』

京太郎『つまりあれだな』

京太郎『ツッコミ役で付き合いが良くて賢くて肝が座っててなんだかんだ頼りになる仲間思いの面白いイケメン』

京太郎『照れるな。……それ告白?』

憧『……。……ないから』

憧『ツッコミ待ちの残念ボケで、女の子大好きで残念な妄想してデレデレしてる残念なイケメン』

憧『あとロリコン』

京太郎『ぐはっ』

京太郎『お、お前……! 俺はともかく親友まで……!』

憧『……いや、流石に冗談だけど』

京太郎『冗談かよ……』

憧『でもなんか、あんた最近気遣いとか常識人っぽさがなくなってきてるからさ』

憧『新年になるし、見直してみたら? そーゆー、自分自身を』

京太郎『あー』

京太郎『了解。ありがとな、憧』

憧『……べっつにー』

憧『ファン第1号として、もっと格好いいあんたが好きなだけよ。うん』

京太郎『何にせよ、ありがとな……憧』

京太郎『愛してるぜ』

憧『……。あたしもよ』

京太郎『えっ』

憧『えっ』

京太郎『……憧が大学生のときより成長してる。マジ……かよ……』

京太郎『あの頃なら、「は!? な、な、何言ってんのよバカ! やめなさいよ、変態!」ぐらい言ってんのに』

憧『……あんた、何年前の話してんの? それ大体、2年の始めくらいまででしょ?』

京太郎『そうだったっけな?』

憧『そうよ。……多分』

京太郎『……』

憧『……』

京太郎『……じゃあな。今年一年、ありがとな』

憧『……こっちこそ。おやすみ、京太郎』

京太郎『いや、まだまだ寝ないけどな』

憧『まあ、新年だからねー』

京太郎『おう』

京太郎『……』

京太郎『……今夜は寝かさないぜ、なんちゃって』

憧『ふきゅっ』

京太郎『ん?』

憧『にゃ、な、なんでもないから! おやすみ!』

京太郎『……あ、ああ』


京太郎『……あっ』

憧『なに?』

京太郎『ははぁ……俺の美声でいやらしいこと想像したんだろ? エロ同人みたいに』

憧『し、してない! してないから!』

京太郎『さっすが、酒淫乱の憧だよなー。普段からムッツリですかー』

憧『ちちちち、ちちち、ち、違うわよ!』

憧『た……ただ、あんたからそんなスカした言葉が出てきたのが……!』

憧『ぜんっぜん、似合わなくて! 思った以上に気持ち悪くて! 正直びっくりしただけ!』

憧『以上!』

京太郎『……あ、ああ』

京太郎『俺、そんな風に見られてたんだ……』

憧『そ、そうよ!』

憧『とにかくそこらへん治しなさい、このぽんこつ男!』

京太郎『……はい』

憧『……』

京太郎『……』


憧『……あ、あと』

憧『今の流れからは……変かもしれないけど……』

憧『その……来年も、こーゆー風に連絡とってね?』

憧『あんたの声聞くと落ち着くし……あたしも、頑張ろうって思うからさ』

憧『お願い』

京太郎(……)

京太郎(……かわいい)

京太郎(……)

京太郎(……ハッ)

京太郎(流石隠れ小悪魔セクシャリスト……男の落とし方は心得てるんだな)

京太郎(『えっ、なに? ……フラグ?』)

京太郎(なんて、まんまと乗せられそうになった女性経験の無さが憎い)

憧『……あ』

憧『そ、その……』

憧『一応言っておくわよ? ……勘違いしないように』

京太郎『了ー解』

京太郎(だよなー。憧に限ってないよなぁー)

京太郎『んじゃ、また来年も』

憧『うん』


京太郎(……で、そんなやりとりを経て年越し)

京太郎(二年詣りに行く気力はないからなー。寒いし、相手もいないし……)

京太郎(……歳かも)


咲「京ちゃん、お餅何個がいい?」

京太郎「あー」

京太郎「4つ頼んでいいか?」

咲「いいけど……」

咲「そんなに食べたら、太るよ?」

京太郎「大丈夫、大丈夫。だって俺基礎代謝高いし」

京太郎「それに、アメリカかどっかの論文にな? こう……あったんだよ」

京太郎「筋トレした翌日は7%、ハードなら11%だか14%翌日の代謝が増える、ってさ」

京太郎「だから俺は何にも問題なし!」

咲「……この筋肉バカ」

京太郎「なんか言ったか?」

咲「別にー?」


咲「……ところで、さっきの電話の相手誰? 京ちゃんの彼女さん?」

京太郎「んー?」

京太郎「いや、大学の同級生。結構仲いい奴」

咲「あー、和ちゃんの友達の……」

京太郎「そうそう。新子憧」

咲「……確か、京ちゃんが大学生のとき隣の部屋だったんだっけ?」

京太郎「ああ、そうなんだよなー」

京太郎「その頃……大学三年ぐらいとか、基本どっちかの家で纏めて夕飯食ってたな」

京太郎「段々、アイツも腕が上がってきて……楽しかったなぁ」

京太郎「休日とかは、面倒だからどっちかの家に泊まったりな」

咲(……それって付き合ってるって言うんじゃ)


咲「そこまでしてて、付き合ってないんだ」

京太郎「アイツと?」

京太郎「いやいや、ないないない」

咲「そうなの?」

京太郎「だって初めの頃、俺スゲー避けられてたからな」

京太郎「段々マシになってきたけど……そういう関係になるかなーって、それとなく聞いてみたら全否定されるし」

京太郎「だからさっきのアレは、軽口みたいなもんだよ」

咲「ふーん?」


咲「……まあ、ならよかったけど」

京太郎「どうしてだ?」

咲「彼女さんいるのを差し置いて、私が大晦日一緒に過ごしたら不味いよね?」

京太郎「?」

京太郎「どうしてなんだ?」

咲「へっ?」

咲「……」

咲「京ちゃん……それ、本気で言ってるの?」

京太郎「……?」

京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「……あ」

京太郎「……ああ! そっか! 咲も女だもんな!」

京太郎「そりゃ確かに、彼女差し置いて他の女と――」

咲「――カン!」 シャイニングウィザード

京太郎「ひでぶっ」



京太郎「いきなり何すんだよ! 危ないだろ! 主にお前が!」

咲「……今のは京ちゃんが悪いでしょ」

京太郎「うっ……」

京太郎「確かに、これじゃなんか女扱いしてないみたいで……悪かったな」

京太郎「でも、なんていうかさ……」

京太郎「こう……まあ、それ以上の信頼関係がある……みたいな?」

咲「……」

咲「ばっかじゃないの、京ちゃんは」

京太郎「う……わ、悪い」

京太郎「すまん! このとーりだ! 悪かった!」

咲「……」

咲「……まあ、別にいいけどさ」

京太郎「さっすが、咲! 話が分かる!」

咲「……このお調子者」

京太郎「へっへっへっ」

咲「褒めてないから」

京太郎「……はい」


京太郎「それに……何て言うのかな?」

京太郎「仕事忙しいし……あと、あの……なんつーか、その……」

咲「どうしたの?」

京太郎「俺……からかわれたりフラれたり、残イケとか好い人止まりでモテないんだよな」

京太郎「ハハハ、ハハハ」

京太郎「ハハハ……」

京太郎「……」

京太郎「……言ってて自分で虚しくなってきた」

咲「あー、うん」

咲「まあ、そのうち……いい人が見付かるんじゃないかな?」

咲「うん」

京太郎「その、ナチュラルに『いい人だよ? 私は彼氏にしようとは思わないけど』みたいな言い方やめろよ」

咲「あはは」

京太郎「……おい」


咲「いやー、でもね? そんなことないと思うよ?」

咲「ほら、恋人はともかく結婚相手はそういう人の方がいいって言うから……」

京太郎「……咲」

咲「……何かな、京ちゃん?」

京太郎「そういう話は、俺と目を合わせてから言ってくれ」

咲「あはは」

咲「次からはそうするね」

京太郎「ああ」

咲「……」

京太郎「……」

咲「そこは、『次もあるのかよ!?』ってツッコむところじゃないの?」

京太郎「いや、あえてな……スルーした」

咲「あー、あえてか」

京太郎「おう、あえてだ」

咲「……」

京太郎「……」

咲「……そのあえてって、別にいらないよね?」

京太郎「……面目ない」


京太郎「……はぁ」

咲「まあ、大丈夫だよ? 京ちゃん」

京太郎「ん?」

咲「どうしても相手が見付からなかったら、私が貰ってあげるから」

京太郎「ふーん」

京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「どーも」

咲「いえいえ」

咲「ただ、私はプロやめる気ないからね?」

京太郎「ああ。勿論、俺もなー」

咲「知ってる」

京太郎「知ってたか」

咲「ってなると、共働きかー」

京太郎「正直、どっちか一人で十分家族養えるからなー」

咲「ねー」


京太郎「……なあ、咲」

咲「なーに? どうかした、京ちゃん?」

京太郎「お前も相手が見付からなかったら、俺が引き取ってやるからな」

咲「ふーん?」

咲「……」

咲「……」

咲「……」

咲「そのときは、お願いね?」

京太郎「おう」

咲「まぁ……、期待はしてないけど」

京太郎「おう」


京太郎「……おっ」

咲「……あっ」

京太郎「――あけましておめでとう、咲」

咲「――あけましておめでとう、京ちゃん」


京太郎「それじゃあ俺、初詣に行ってくるけど……咲はどうする?」

咲「……今から? 行くの?」

京太郎「初ジョギングを軽く流してからだな」

京太郎「まだ人多いだろうし、軽く時間潰したいんだよ」

咲「えーっと」

咲「……私はいいかな? 多分、眠くなっちゃうから」

京太郎「そうか?」

京太郎「……っていうかお前、ぼっち気質は相変わらずなのな」

咲「ぼっちじゃありませんよーだ」

京太郎「……どうだか」

咲「むっ」


咲「じゃあ、京ちゃんはぼっちじゃないって言うの?」

咲「どうせ、初詣も一人で行くんでしょ?」

京太郎「……一人だよ、確かに。初詣は」

咲「ほら、やっぱり」

京太郎「でも俺、今日は予定あるから」

咲「ふーん」

咲「京ちゃん、京ちゃん」

京太郎「なんだよ」

咲「仕事はこの場合の予定に入らないからね?」

京太郎「……知ってるよ」

京太郎「ちゃんと、人と会う予定。むしろデートかもな」

京太郎「……いや、デート以外の何者でもない。確実にデートだ」

咲「えっ」


咲「……まさか」

咲「一般的な意味での気遣いはできても、プライベートではぽんこつ気味になってる京ちゃんとデートする物好きが……?」

京太郎「……おい。聞こえてるからな?」

咲「あはは、ごめんね」

京太郎「……ったく」

京太郎「まあ、聞いて驚けよ?」

咲「うん」

京太郎「なんとな」

咲「うん」

京太郎「意外なことにな」

咲「うん」

京太郎「実はな……」

咲「長い。長いんだけど、京ちゃん」

京太郎「……わ、悪い」


京太郎「――やえさんとな、デートなんだよ!」


咲「――うん、それはデートじゃないね」

京太郎「一刀両断!?」

咲「どうせ、デートだと思い込みたいだけでしょ?」

京太郎「うぐ……」

京太郎「い、いや……な?」

咲「図星?」

京太郎「……」

京太郎「……はい」

咲「ほら」

京太郎「いや、マホを連れて小走先輩に会いに行こうと思っててな」

咲「……ああ、マホちゃんの!」

京太郎「そ」

京太郎「アイツも就活真っ只中だからな……なんかアドバイスにならないかと思ってさ」

咲「へー」

京太郎「まあ、三年の一月だと遅いかも……だけどな」

咲「あ、ははは……」


京太郎「つー訳で、変に遠慮なんてしないでお前が来てくれてもいいんだぜ、咲!」

咲「うーん」

咲「気持ちは嬉しいけど……やっぱり」

京太郎「ぼっちか」

咲「う……。積んでる本、読まないと」

京太郎「……そっか」

京太郎「ま、じゃあ仕方ないよな」

咲「うん」

京太郎「じゃあ、俺……行くから」

咲「うん」


京太郎「――今年もよろしくな、咲」

京太郎「――こちらこそ、京ちゃん」








咲「……一人でなにやってるの?」

京太郎「いや、お前の返事が段々おざなりになって眠そうだったから……」

咲「ばか」


◇ ◆ ◇


京太郎「さて……流石にこの時間だと出店も少ないな」

京太郎「それにしても……夜の神社ってロマンティックだな(←のんき)」


京太郎(……嘘だけどな)

京太郎(霞さんは、日中の神社の鳥居って外からの侵入を防いでるけど、夜は“中から出るのを防ぐ”って言ってたよなぁ……)

京太郎(そう考えるとスゲー不気味だ)

京太郎(……)

京太郎(……つーかさ)

京太郎(人が多いんだよ! こんな時間なのに!)

京太郎(ピークに比べりゃ少ないんだろうけどな!)

京太郎(……っと) ドン

京太郎(ほら、混みながら微妙にスペース空いてるから、ぶつかるんだよ)


京太郎「……っと、すみません」

淡「ごめんなさい」

京太郎「あっ」

淡「あっ」

京太郎「……」

淡「……」

京太郎「なんでお前が……」

淡「それこっちの台詞」


淡「……」

京太郎「……」

淡「……この間はありがとね」

京太郎「あん?」

淡「エレベーター」

京太郎「……ああ」

淡「私一人なら、……多分すっごく怖かったから」

京太郎「ん、ま、気にすんなよ」

京太郎「逆にこっちこそ良かったよ」

京太郎「知り合いのそーいうピンチに居合わせられてな」

淡「ばーか」

淡「かっこつけすぎだって。ばーか」

京太郎「うっせー」

淡「……」

淡「その……ありがと」


京太郎「……」

京太郎「へっへっへっ」

淡「……どしたの? 麻雀が脳に回ったりした?」

京太郎「……回るのか、脳に。麻雀って」

淡「知るわけないでしょー?」

京太郎「だよなー」

京太郎「あ、でも髪には回るかもな」

淡「どしてー?」

京太郎「小走先輩」

淡「んゆ?」

京太郎「小走先輩」

淡「……」

淡「……ぷっ」

淡「あははは、ははははは!」

淡「回っ、てる……確かに回ってるよ」

淡「片、側だけ……頭に、麻雀が回ってるよ……ぷっ」

淡「あははは、あははははははは!」

京太郎「おい、小走先輩を笑うな」

淡「へっ」

京太郎「笑うな」

淡「……自分から振ったのに」

京太郎「笑うな」

淡「……」

淡「……ご、ごめん」

京太郎「いや、冗談」

淡「……」

淡「ばーか! 死んじゃえ、ばーっか!」

京太郎「痛ってえ、痛ってえ!」

淡「ふんっ!」


淡「……」

京太郎「……」

淡「……で、なんでそんな変な笑いの取り方したの?」

京太郎「ん?」

淡「だってさ……あんたが7位の居ない場所で、7位の悪口言うわけないじゃん」

京太郎「あー」

京太郎「よく知ってんなぁ」

淡「……。見りゃ判るよ、そんくらいさー」

京太郎「そうか?」

淡「……そーだよ」


淡「で、なんで」

京太郎「あー」

京太郎「なんていうか、新年早々だろ?」

淡「うん」

京太郎「新年早々、雰囲気が悪くなるのもどうかなと思ってなー」

京太郎「ほら、去年は色々あったろ? だから、今年は色々改めようと思ってなー」

淡「ふーん」

淡「ばっかじゃないの? ばーか、ばーか」

京太郎「……んなに言わなくていいだろ」

淡「ばーか♪」


淡「で、あんたなんでさっき笑ったの?」

京太郎「ん?」

淡「笑ったよねー、さっき」

京太郎「ああ」

京太郎「いやー、新年早々ツイてるなーって」

淡「ん?」

京太郎「いやー、あの大星が新年早々素直になるなんてなーって」

京太郎「何だかんだかわいいとこもあるじゃねーかってな」

京太郎「普段からそうしてればいいのに」

京太郎「顔はかわいいんだから、普段からもそういう態度でいればだなー」

淡「……」

淡「うっさい! ばか! ばーか!」

京太郎「痛っ、痛ってえ! 痛いって!」


京太郎(……ったく)

京太郎(ちょっとかわいいなって思ったら、すぐこれだ)

淡「なにか言った?」

京太郎「いや、なにも」

淡「ふーん」

淡(……はぁ)

淡(ちょっと見直したら、すぐこんなんばっか。ばか男)

京太郎「なにか言ったか?」

淡「べっつにー?」

京太郎「……」

淡「……」


京太郎「――あけましておめでとう、大星」

淡「――あけましておめでとう、須賀」


淡「で、須賀は暇?」

京太郎「始発が動くまではな」

淡「ふーん?」

京太郎「ああ、そういう大星は?」

淡「おんなじだよ?」

京太郎「じゃ、参拝終わったらどっか見て回るか?」

淡「屋台、殆どしまっちゃってるけどね」

京太郎「いいんだよ、こーいうのは雰囲気で」

淡「じゃあ、しゅっぱーつ!」

京太郎「ちょ、なあ、急に動くなよ!」

京太郎「それに腕……」

淡「いいからいいから!」

京太郎「なあ! ……ったく」

京太郎(ま、新年初っぱなぐらいは別にいいか)

京太郎(プロやってる以上、長い付き合いにはなりそうだもんなぁ)

京太郎(さて――来年、というか今年はどうなるんだろうな)

京太郎(……流石にそろそろ、彼女ぐらい欲しい)


淡「人多いねー」

京太郎「な」

淡「こんな時間なのに、よくもまあ……」

京太郎「それを言ったら俺らもだと思うけど……」

淡「まったくもって!」

京太郎「……」

淡「……」

京太郎「大星、ほら」

淡「ん? ……なにそれ」

京太郎「手だよ。はぐれたら、困るだろ?」

淡「ふーん」

淡「……んへへ」

京太郎「どうした?」

淡「べっつにー? なんでもないよっ」

京太郎「そうか? ……ならいいんだけど」


京太郎「……」

淡「……」


京太郎「……なあ」

淡「なーにー?」

京太郎「使ってくれてるんだな、そのマフラー」

淡「ん? ああ」

淡「だってほら……。……。……寒いし」

京太郎「ああ、確かにな」

京太郎「最近スッゲー寒いよな、冬とか」

淡「それなのに夏が暑いから、やってらんないよねー」

京太郎「本当だよな」

淡「うんうん。地球は今氷河期に入ってるみたいだからね」

京太郎「そうなのか? でも、地球温暖化って……」

淡「しゅーき的には、氷河期なんだってー」

京太郎「へー」


京太郎「あ、寒いって言えばさ」

淡「なに?」

京太郎「お前、やっぱ手が冷たいな。前に冷え症って言ってたよなぁ」

淡「うん」

淡「……で。やっぱって、どーゆー意味?」

京太郎「ん」

京太郎「いや、心が暖かい奴は手が冷たいって言うだろ?」

淡「……」

淡「……ばーか。口説いてるのかな、それ」

淡「それにしても、センスないけどさー」

京太郎「センスどうこう言うなって……」

淡「いやー、須賀ってセンスないよ? うん、センスない」

京太郎「なんでだよ……」

淡「それは……」

京太郎「それは……?」

淡「……」

淡「……な、なんでもないっ」

京太郎「なんだよ、それ」

淡(私を口説かないから……なんて言えるわけないじゃん! ばーか!)

淡(ま、別に私はこんなばか須賀のこととかどうでもいいし、口説かれたいとか思ってないけど)

淡(でもまあ……。うん、口説かれちゃったらどうしよっかなー?)

淡(ほら、新年早々淡ちゃんと会ってる訳だし、ひょっとしたらひょっとしたでこいつがトチ狂うなんてのも)

淡(そうなったらどうしよっかなー)

淡(……んへへ)


京太郎「どうした?」

淡「……べっつにー」

京太郎「なあ……」

淡「なーにー」

京太郎「寒いんなら、こっちのポケット使うか?」

淡「………………は?」

淡「……それ、どーゆー意味?」

京太郎「手だよ、手」

京太郎「ポケット一緒に突っ込んだら、暖かくなるんじゃないのか?」

淡「……。…………。………………」

淡「……パス」

京太郎「なんでだ?」

淡「……。付き合ってもない奴と、そーゆーことするわけないじゃん」

京太郎「そうか?」

淡「そうだって」

京太郎「ふーん……?」

京太郎(憧とは別に付き合ってなかったけどな)

京太郎(ま、価値観はそれぞれだよなぁ……難しいな、女心)

京太郎(っと……。ああ、あった)


京太郎「じゃあ、いっそ付き合ってみるか?」

京太郎「案外、いい機会かもなー」

淡「――」

淡「――」

淡「――」

淡「~~~~~~~~~~~~~~~!?」

淡「………………。…………。……」

淡「あわわわわわわわわ」

京太郎「なーんつってな」

京太郎「ほら、カイロ。これならいいだろ?」

淡「――」

京太郎「大星?」

淡「ち、誓いますっ!」

京太郎「何を!?」


京太郎「なあ、どうしたんだよ」

淡「うっさいの! こっち見んなっ! ナンパ男! けーはく! しきじょーま!」

京太郎「……ああ、うん、流石に今回は甘んじる」

京太郎(完全なる冗談とはいえ、口説いたようなもんだもんなぁ……)

京太郎(つい憧のノリで……。なんか似てるし)

淡「むー」

淡(なんか考え事してるけど……なんっか、気にくわないっ!)

淡「ちょっと、こっち見ろって!」

京太郎「どっちだよ!?」

淡「こっち!」

京太郎「そういう意味じゃねー! バカかお前は!」

淡「うっさいの!」


京太郎(……まあ、そんなこんなで社に辿り着いたのだった)

淡「須賀はさ、願いをどーすんの?」

京太郎「ん? ああ……」

京太郎「俺と係わりがある人が、ずっと笑ってられるように……かな」

淡「ふーん。なにそれ、ばっかみたいー」

京太郎「ははは」

京太郎(割りと本音だけど……。まあ……)

京太郎(こいつの前で、彼女欲しいとかモテキ来いとか言ったらどーなることやら)

淡「彼女欲しいとか、そーゆーのかと思った」

京太郎(図星です。大星だけに)

京太郎「そういう大星はどうなんだ?」

淡「私? んーと、私はねー?」

淡「今年はキッチリ須賀にリベンジする! と! 須賀を絶対腹上死させるー、で!」

京太郎「ブッ!?」

淡「どしたの?」

京太郎「それ、絶対外では言うなよ! マスコミとか特に!」

淡「言うわけないじゃん。どーでもいい奴に、私のお願いごとをさー」

京太郎「そうか?」

淡「そだよ。そーだって。そーだってば」

京太郎「ふーん」


京太郎「じゃ、帰るか」

淡「始発までどうしよっか?」

京太郎「どっか暖かくなるとこ行こうぜ」

淡「ん。寒いのやだよね」

京太郎「あー、なんか新年だな」

淡「ね! ……あっ! ねーねー、おみくじ引いてこっ!」

京太郎「おう。大吉でないかな」

淡「須賀じゃ出ないーって! 須賀なら……まあ、精々、小吉じゃないの?」

京太郎「また微妙な……」

淡「ま……私は当っ然、大吉だけどねー」

京太郎「くれよ、大吉」

淡「やーだよっ♪」

京太郎「下さい」

淡「やっだよーだ♪」

京太郎「お前、なんでもくれてやるって言ったって話なのに……」

淡「取り返せないものは上げないから」

京太郎「大吉下さい」

淡「そー言われると、大吉だけは上げたくなくなるよねー」

京太郎「……じゃあ、大吉以外全部貰うぞ?」

淡「とれるもんなら、とってみれば?」

淡「ま、須賀なんかにできるなら……って話だけど」

京太郎「……覚えとけよ」

淡「どーしよっかなー?」


淡「あ、須賀」

京太郎「なんだよ」

淡「あれ食べたいなー」

京太郎「そうか。……で?」

淡「大吉」

京太郎「……」

淡「大吉」

京太郎「……行ってくる。ここで待ってろな」

淡「どうだろ? ナンパとかされたら、ついてっちゃうかもね」

京太郎「そんときゃ、奪い返すだけだな。『俺のだ』ってな」

淡「……」

京太郎「大吉をな!」

淡「……。……喋ってないでさっさと行きなよ」

京太郎「お前が話を……。……いや、いい」

京太郎「そちらでお待ちください、お嬢様」

淡「うむっ、苦しゅうない!」

淡「あー、もう、声出ないー」

京太郎「いい声出してたからなぁ……」

淡「うんうん、須賀が聞きたかったら携帯に録音したげるけど」

京太郎「携帯に録音してどうするんだよ……」

淡「……不在着信の声にしたり?」

京太郎「……それなら自分の声でいいって」

淡「でもでもー、急に須賀が私の声聞きたくなったら……こう、ポチっとボタン押して私の声を……みたいな?」

京太郎「寂しくなったら自分の携帯の録音メッセージ確認するとか、軽くホラーだな……」

淡「そーかも」

京太郎「別にいらねーし」

京太郎「あと……お前の声はもう、頭に一杯入ってるよ」

淡「ふーん?」

淡「でもー、そーゆー須賀は声いいのに歌はイマイチだよね」

淡「そのくせー、UVERとか歌っちゃうしー」

京太郎「……うっせえ。ほっとけ」

淡「勿体ないやつー」

京太郎「ほっとけよ。うっせえ」


淡「……」

京太郎「……」

淡「……ね、怒っちゃった?」

京太郎「……怒ってねーよ。安心しろって」

淡「ん……」

京太郎「つーか、そ・も・そ・も・怒・ら・せ・た・と・思・う・よ・う・な・言・動・す・ん・な」

淡「あたたたたた、痛っ、頭、痛っ、いたいよっ、い、いたいっ」

京太郎「ん? 側に居たい?」

京太郎「可愛いこと言ってくれるな」

淡「い、ゃ、ちょっ、待、ぃっ、いたっ、い、いってないっ! わたし、いっ、いってなっ、いたっ」

京太郎「ん? 言った?」

淡「いたいよっ、ばかっ、痛っ、イ、やめっ、や、やだっ、痛いって、痛いのっ、いやっ」

京太郎「んー?」

淡「――痛いって言ってんじゃん! ばかっ」

京太郎「あ、ぉ、う……ぐ……」

京太郎「は、発っ……勁、は、反……則だろ……」

淡「だから、発勁とか知んないって!」

淡「それにー、今のはじゅーにん中じゅーににんが、須賀が悪いって言う!」

京太郎「……二人どっから来た」


淡「だいじょーぶ?」

京太郎「おう、まあ、なんとか……」

京太郎(鍛えてなきゃ即死だったかもなぁ)

淡「じゃーね、楽しかったよっ」

京太郎「おう。……変な車に拐われんなよ?」

淡「――バイバイ、きょーたろー」

京太郎「ああ、またな」

京太郎「……」

京太郎「……ん? 今、須賀じゃなくて……」

京太郎「まあ、いっか。気のせいだろ」

京太郎「へっへっへっ、それより新年早々やえさんと会えるんだなー」


 ◇ ◆ ◇


京太郎「……で」

久「あらー、久しぶりねー。久だけに」

マホ「おひさしぶりですっ、竹井先輩!」

やえ「た、竹井アナか……?」

智葉「新年早々、この面子……」

菫「なんだ? 何か文句でもあるのか?」

京太郎「どうしてこうなった……」

久「どうもー。辻垣内プロ、弘世プロ、小走プロ」

菫「どうも、竹井アナウンサー」

菫「聞けば須賀の師匠とやらで……一度、ちゃんと話してみたいと思ってたんだ」

久「そう? そうは言っても、別に大したことは……」

菫「いやいや、十分基礎以上の基礎だよ」

菫「特にプロとしてやるにはどうしてもアナログな部分が必要になるからな」


マホ「つ、辻垣内プロですか!」

智葉「ん、あ、ああ……」

智葉「そういう君は……」

マホ「あ、ゆ、夢乃マホですっ! よろしくお願いします!」

マホ「京太郎先輩のこーはいです!」

智葉「ほう、京太郎の……後輩か」

智葉「なるほど」

マホ(あ、悪い顔です……)


やえ「す、須賀……」

京太郎(見知らぬ人を警戒するやえさんも可愛いなぁ)

京太郎「やえさん」

やえ「な、何よ?」

やえ「あんた、からかおうっての――」

京太郎「挨拶済んだら、別れましょうか?」

やえ「へっ」

京太郎「元々の予定にないですし、新年の挨拶をして別れても問題ないっすよ」

京太郎「どうします? 俺は、挨拶だけでいいかなって思ってますけど」

やえ「……あ」

やえ「あんたに、任すから」

京太郎「りょーかい、任されました」

京太郎「じゃあ、改めて紹介しときますね」

京太郎「まずこっちが……俺の相棒、M.A.R.S.ランキング7位――小走やえさん」

やえ「ど、どうも……」

マホ「初めまして! よろしくお願いします!」

やえ「よ、よろしく」

京太郎「で……まあ、知らない人の方が多いだろうから先に紹介しとくと――」

京太郎「こっちが夢乃マホ。俺の後輩で、弟子……みたいなもんかな。うん」

マホ「夢乃マホです! よろしくですっ!」

マホ「先輩からは……その、一通りプロについてべんきょーさせて貰ってます!」

菫「ほう、須賀に弟子が居たのか……」

智葉「ああ、弟子が居たんだ。というか、やっと思い出したよ」

菫「お前……その顔……」

智葉「どうした?」

菫「いや……まあ、あまりやりすぎるな」

智葉「ああ、大丈夫だ」


京太郎「……で、次は――そうだな」

菫(まあ、順当に言って私か竹井アナウンサーだろうな)

菫(どっちにしても、須賀の師匠だから……関係性を考えればこのどちらかだろう)

菫(……ふむ)

菫(まあ、竹井アナウンサーか? 須賀の脱・初心者を果たしたというのであれば……そうなる)

菫(それにこいつが言っていた『部長』とやらは、間違いなく彼女だろうからな)

菫(……)

菫(……だが、武器を渡したのは私だよな。うん)

菫(そういう意味では……須賀の中では、私が占めるウェイトもかなり高い筈だ)

菫(いや、別にだからどうという訳ではないし、私はそんな順番などはまったく――そう、まったく気にしないんだが)

菫(でもな、うん)

菫(私と竹井アナのどちらを先に紹介するんだ――)

京太郎「マホ、この人が誰か判るか?」

マホ「辻垣内プロさん……ですよね?」

菫(――なっ、お、おい!? オイ、須賀! 須賀京太郎! どういうつもりなんだ!?)


京太郎「その分だと……ああ、先輩がモード違うからか」

マホ「もーど、ですか……?」

京太郎「先輩、眼鏡を外して髪の毛を解いて貰ってもいいですか?」

智葉「ああ」

智葉「……っと、これでいいか?」

マホ「あ、この間のヤクザさんです!」

京太郎「だよなぁ……やっぱり、なんか変だと思ったんだよ」


京太郎「この間会ってるはずなのに、なーんかよそよそしいと思ったんだよ」

マホ「うぅぅ……」

京太郎「マホが間違えるならともかくとして、先輩はどうして……?」

智葉「ん? いやー、な」

京太郎(――!)

京太郎(しまった、この人――今、俺にその言葉を言わせようとしてたんだ!)

京太郎(や、やば――)


智葉「――あまりにも衝撃的過ぎてなぁ……ちょっと、忘れようとしてたんだよ」


京太郎(やっぱり……!)

京太郎(や、やめろ……! やめてくれ……! それ以上は……!)

京太郎(なんとか、口止めをするか、話を逸らさないと――)

久「――あら」

久「衝撃的って、どういうことかしら?」

京太郎「い、いや……部長? それより、ほら、あっちにロッカーが……」

菫「そうだな、私も聞きたい」

京太郎「弘世先輩? ほら、あっちにおいしそうなドーナツが……」

やえ「……わ、私も」

京太郎「やえさん、あの、あっちにオスのスマトラオオヒラタクワガタが……」

京太郎(……こ)

京太郎(この人数……! 流、石に……フォローができねえッ!)

智葉「いやな?」

智葉「須賀の奴がだな……」

菫「勿体ぶらずにさっさとしろ」

久「気になるわねー、うん」

やえ「……あ、相棒として」


智葉「そこの後輩のマホちゃんにな、『お兄ちゃん』って呼ばせてたんだよ」


やえ「――」

久「――」

菫「――」

京太郎「――」

京太郎(死のう。大星を海に引きずり込んで死のう)


やえ「……」

久「……」

菫「……」

マホ「えっ、えっ? マホ、何か悪いこと言っちゃいましたか?」

智葉「……大丈夫だ。ちゃんと、皆の前でそうやって呼んでやれば」

マホ「はいっ」


京太郎「あ、もしもし? 大星か?」

淡『ふぁぁぁ……なーにー、きょーたろー? これも夢ー? 初夢の続きー?』

京太郎「俺と一緒になってくれ」

淡『――』

京太郎「頼む……!」

淡『う、うん……』

淡『これ、続きだよね……? うん、だって……きょーたろーはあのあと……』

京太郎「――死んでくれ。俺と一緒に。玉川上水で」

淡『――』

淡『………………。…………は?』

京太郎「なあ、聞いてるのか? 聞いてたら、今すぐ来てくれ。それで俺と死んでくれ」

淡『駄目だよきょーたろー、死んじゃったら――!』

淡『私にできることなら、何でもしたげるから! ねえ!』

京太郎「後輩が俺のことを『お兄ちゃん』って呼んでるのが皆に――というかやえさんにバレたんだ」

京太郎「頼む。俺と一緒に死んでくれ」

淡『――死ね。一人で死ね』

淡『これ、変な夢。あはは……寝なおそ』

京太郎「ちょっと! 大星! なあ、淡! おい、淡! なあ! 俺とお前の仲だろ!? なあ! 淡!」


マホ「どうしたんですか、京太郎お兄ちゃん」

智葉「やっぱり大星とは仲がいいんだな、京太郎お兄ちゃん」

久「ちなみに鎌倉の勝越で入水したら男は生き残れるわよ、京太郎お兄ちゃん」

京太郎「――ああ、そうやってやってくると思ったよ畜生!」

京太郎「あと、俺だけ生き残るつもりはないですからね、部長! 小説家気取るつもりはありませんから!」

久「いや、だって玉川上水って時点で……ねえ」

マホ「あ、頭が痛いんですか? 大丈夫ですか、京太郎お兄ちゃん?」

智葉「喜んでるだけだよな、京太郎お兄ちゃん」

久「いやー、須賀君にそんな趣味があったなんて……これは驚きよ、京太郎お兄ちゃん」

京太郎「……」

マホ「あ、あの……本当に大丈夫ですか? 京太郎お兄ちゃん」

智葉「大丈夫だよな、京太郎お兄ちゃん」

久「鋼の心の持ち主じゃなかったっけ、京太郎お兄ちゃん」


菫「――おい」


菫「……辻垣内」

菫「須賀は……京太郎は確かにちょっとやそっとじゃへこたれないと言っても、これはやりすぎだ」

菫「お前、この間はあの後反省してただろう? それとほとんど同じ状態に須賀を追い込んでどうするんだ」

智葉「……ああ」

菫「竹井アナ」

菫「私はあなたと京太郎の関係が、どのようなものかは知りませんが……その、言わせてもらうとすれば」

菫「流石にこれは、やりすぎじゃないのか?」

菫「新年早々というし、やえのように緊張している人間がいるから場を和ませようとした……というのは判るが」

菫「流石にもう少し、須賀の落ち込みようから察してやってほしい」

菫「……いや、こんなお堅い言い方で水を注して悪いとは思うんだが」

久「……いえ、確かに弘世プロの言うとおりね」

菫「いいかな、夢乃マホちゃん」

マホ「は、はい……」

菫「その……私は知らないが、以前の時に京太郎は取り乱してはいなかったか?」

マホ「あっ、はい!」

マホ「確かに、京太郎先輩は見たことがないくらいに慌ててました!」

菫「……うん」

菫「なら、それが答えだ」

菫「別に……言うな――とは言わないが、その、京太郎がそんなことになるというのも覚えておいてやってほしい」

菫「言うなら、その、二人っきりの時にしてやってくれないか? ……私から、お願いする」

マホ「はいっ! りょーかいです!」

京太郎「弘世……先輩……?」

菫「……すまん」

菫「もしかしたらお前は、大げさな態度で笑いにしようかと思っていたのかもしれないが……つい、な」

菫「こういうところが、淡なんかには『ノリが悪い』と言われるのかもしれないが……」

京太郎「……いえ」

京太郎「流石に、わりとマジ凹み寸前だったんで……ありがとうございます」

菫「……なら、いいが」

京太郎「……」

菫「……」


菫「あ、安心しろ! 京太郎!」

京太郎「先輩……?」

菫「お前は私の可愛い弟子だからな! 師匠として、弟子を護るのは当然だ!」

菫「な! あー、そのー、きっと、『お兄ちゃん』呼びもそういう感じなんだろう? うん、そうだろ!」

京太郎「先輩……!」

京太郎「でもあそこに、弟子を弟子とも思わない恐ろしい師匠がいるんですが……」

久「えっ、私?」

菫「あー、うん」

菫「きっと、竹井アナなりの可愛がり方なんだろう。なんとなく、素直じゃなさそうなタイプだからな」

久「ちょっと!?」


菫「そう、お前は可愛い弟子だ!」

菫「例え年下のトランジスタグラマーな少女に、師匠という立場を利用してお兄ちゃん呼びさせているどうしようもない奴だとしても!」

菫「やえにやたらアプローチしているのは身長が低い奴が好きなのかとか! 淡と仲がいいのは実は妹系が好きなのかとか!」

菫「宮永咲は妹だから仲がいいのか、とか! しょせん男である以上は年若い女が好きなんだろうな、とか!」

菫「真面目そうな奴に見えても、やはり意外なところに一面が現れるもんだな、とか! 正直軽くないとも思えるが、人間味があっていいんじゃないかなとか!」

菫「私は、可愛い弟子だからそういうのは気にしないぞ! ああ!」

京太郎「……」


久「……あ、トドメ刺したわ。須賀君が死んでる」

智葉「一言多くて残念なんだよな、弘世は」

マホ「これは、あれです! 『虎乃海星那死(このひとでなし)』ですっ!」

マホ「これがシャープシュート……」

智葉「見事に心臓を射抜いてるな……」

久「あそこまで残虐な追い討ちは私にはできないわ……」

菫「えっ」

菫「いや、私は……その、違うぞ? その、違うんだ、京太郎!」

京太郎「……」

マホ「これが弘世菫プロ」

智葉「これが弘世の無神経とダメフォロー」

久「これが――12位」

菫「おい! クソ! おい! しっかりしろ、須賀! 須賀! おい、京太郎!」

菫「やえ! おい、やえ!」

菫「お前が言葉をかけてやれ! なあ!」


やえ「……」

やえ「……いや、ちょっと」

やえ「私にはー、その、荷が重いんじゃないかしらー……」

京太郎「……」

やえ「うっ」

やえ「……」

菫「おまえ、相棒なんだろう!」

菫「例えこいつが年下の少女にお兄ちゃんと呼ばせるそういう些か常軌を逸した趣味を持っていたとしても、相棒だろう!」

菫「確かにお前としても『正直ないわ……』と思うかもしれないけど、京太郎の仕事には問題ないはずだ!」

菫「プライベートで変な趣味があっても、仕事上では大丈夫なはずだ!」

京太郎「……」


智葉「誰かあいつを止めろ」

マホ「ビクンビクンしてます」

久「あー、なんか心臓を何度も打ち抜かれてるわねぇ……」


京太郎(俺、明日からどんな顔して皆に会えばいいんだろう……)

京太郎(穴があったら入りたい……)

京太郎(人を呪わば穴二つって言うよな……)

京太郎(誰か、人を呪ってる人はいないか……ついでにもう一つ穴を掘ってもらうから……)

京太郎(……)

京太郎(……あ、メール)


京太郎(『FROM:松実玄』)

京太郎(本文……)

京太郎(『もしもし、玄です。京太郎君、元気かな? 無理してない?』)

京太郎(……癒される。結婚しよう)

京太郎(そうだ。奈良に行こう。奈良に)

京太郎(元カノと元カノに囲まれてちょっと胃が痛いけど……もう、いいよな)

京太郎(『ちょっと疲れたと思ったら、松実館におまかせあれ! 温泉とかで、癒されちゃったらどうかな? あ、営業とかじゃないよ!』)

京太郎(……うん。結婚しよう)

京太郎(結婚式には誰を呼べばいいんだろうな……?)

京太郎(『ところで、京太郎君はどんな初夢をみたのかな? 私はね、おもちパラダイスの夢で――』)

京太郎(……)

京太郎(……削除、っと)

京太郎(……)

京太郎(……はぁ)


京太郎「……あ、電話」

京太郎「もしもし! ハギヨシさん!?」

一『ハギヨシさんだと思った? 残念、可愛いボクでした!』

京太郎「一さん可愛い!」

一『へっ、えっ、えっ!?』

京太郎「一さん可愛い! 一さん可愛い! 一さん可愛い!」

一『今のだと1カウントにしかしないからね?』

京太郎「まったまたー、俺と一さんの仲じゃないですかー!」

一『親しき仲にも礼儀ありって言うでしょ?』

一『ところで、何かあった?』

京太郎「えっ」

一『いやー、何か声が沈んでるからさ』

京太郎「……」

京太郎「なんでもないっすよ! まっさかー!」

京太郎「俺はいつだって元気です! 新年からそんな、憂鬱になる訳ないじゃないっすか!」

一『そう?』

京太郎「そうです!」

一『……』

京太郎「……」

一『……まあ、君がそういうならそうってことでいいか』

京太郎「そうっすよ。俺がそう言ってるときは、そうでいいっす」

一『じゃあ、あけましておめでとう』

京太郎「はい、おめでとうございます」


やえ「……ぁ」

智葉「あ、甦ったな」

久「流石オカルトスレイヤーね」

マホ「京太郎お兄ちゃん、かっこいいです! ……あっ」

菫「駄目だぞ、だからそういうのを言っちゃ」

マホ「あ、はい」


一『まあ、君は無理をしても無茶はしないからねー』

京太郎「そっすか?」

一『そーとー根を詰めることはあっても、抱えたまま壊れたりはしないで最後で踏みとどまるでしょ?』

京太郎「いや……まあ」

一『そこらへん、信じてるからさ』

京太郎「まあ、信じられてるうちは裏切りませんよ……一さんのことを」

一『そーいうとこ、本当にお調子者だよね』

京太郎「まあ、女の子の前でくらいは格好つけたいですから」

一『ばーか』

一『じゃあ、また』

京太郎「はい、また」


京太郎「――よしっ」

京太郎「こっからは俺に着せられた汚名を晴らし、信頼を取り戻す時間だぜ」

京太郎「ここからは、俺のステージだ!」

京太郎(……電話だ)

京太郎(なんかタイミング悪いなぁ……)

京太郎「はい、もしもし。須賀ですけど……」

姫子『もしもし、きょーたろ君?』

姫子『今部長とおるんやけど、きょーたろ君は姫初めに興味ば――』 ブツン

京太郎「――通話終了っと」


京太郎「よし、今度こそ……っと、はいもしもし!」

姫子『きょーたろ君、きょーたろ君!』

姫子『新年やけん初雪ならぬ初抜き――』 ブツッ

京太郎「――はいどーも、お疲れ様です」


京太郎「なんなんだよ……あの人? っと、はい! もしもし?」

姫子『きょーたろ君、きょーたろ君』

姫子『書初めってあるけど、どうせやけん白い墨汁で――』 ブツッ

京太郎「――はい、お疲れ様」


京太郎「……いやマジ、なんなんだ?」

姫子『きょーたろ君、きょーたろ君』

姫子『もしかしてそいは、高度な放置プレイ――』 ブツッ

京太郎「――はい、どーも」


京太郎「……はぁ」

宥『あの、京太郎く――』 ブツン

京太郎「……あ」

京太郎「あああ……うわああああああ……」


マホ「また、頭抱えてます……」

やえ「……どーせ、女との電話でしょ?」

菫「どうした? 何か、機嫌が悪そうだが……」

智葉「察しろ、弘世」

久「いやー、須賀君も顔が広くなったわねー」


京太郎「うああああ……マジかよ……」

京太郎「絶対、いきなり電話を切る嫌な奴だと思われたってこれ……」

京太郎「はぁぁぁ、マジかよ……うわぁぁぁ」

京太郎「……いや、待てよ」

京太郎「あの、優しい松実プロに限ってそんなことがあるだろうか?」

京太郎「いや、ない! ないに決まってる! ない筈だ! ないと思いたい! ないといい!」

京太郎「だから、折り返し電話を――」

京太郎「……」

京太郎「電池切れてる……」

京太郎「……そりゃ、昨日の夜からだもんな。うん」

京太郎「……」

京太郎「まだだ、予備のバッテリーが……!」

京太郎「……」

京太郎「……走るのにデッドウェイトになるから、置いてきたんだった」

京太郎「……はぁ」

京太郎「それもこれも、カラオケで淡の奴が充電器を占領するからだよな」

京太郎「やっぱりアイツ、許さん」


智葉「というか、あいつ大星と会ってたみたいだな」

やえ「……へー」

久「あら、これは……ふーん。面白くなってきたわね」

菫「おい……まさか、また私だけ誘われてないとか……! そ、そんなことないよな?」

マホ「……?」

マホ「弘世プロ、カラオケ行きたいんですか?」

菫「ああ、いや……なんというか……その」

マホ「なら、よかったらこの後マホとカラオケ行ってください!」

菫「……!?」

菫「なあ、夢乃マホ」

マホ「なんですか?」

菫「その……あの、私の……妹にならないか……?」


京太郎(……電話を借りるか?)

京太郎(だが、さっきのやり取りのせいで俺の評価は最低に近いのに……)

京太郎(ここで……)


 京太郎『すみませーん! 巨乳で可愛い松実プロに電話したいんで電話貸してくださーい』

 久『やだ……気持ち悪い』

 智葉『モブ須賀』

 菫『キモ須賀』

 マホ『ロリコン』

 やえ『ゴミ』


京太郎(……なんてことになったら耐えられねー)

京太郎(っていうか、よく古市はそれを喰らっても傷付かなかったな)

京太郎(いや、傷付いてはいたんだろうけど……よく折れなかったな。あいつスゲーよ)

京太郎(なんとなく灼の写真見せたら、昔の知り合いに似てるって言ってたなぁ)

京太郎(……)

京太郎(まあ、無いとしても……)

京太郎(流石に、部長がいるし……なんかすぐにネタを提供するのもなぁ……)


久「なんか、今すっごい失礼なことを考えられた気がする」

智葉「……普段の行いじゃないのか?」

マホ「や、ヤクザさんですか……? ぎきょーだいの誓いですか……?」

菫「ああ、いや……その……そんなに怯えさせるつもりはないんだ」

菫「それにヤクザはこっちだ」

智葉「オイ」

京太郎「はぁ……」

やえ「こら」

京太郎「痛っ、な、なんすか……?」

やえ「……」

京太郎「……」

やえ「……」

京太郎「……な、なんでしょうか?」

やえ「……溜息」

京太郎「はい?」

やえ「溜息吐くと、幸せが逃げるっつってんの!」

京太郎「は、はい!」

やえ「あんた、ただでさえ運があれなんだから……迷信でもそういうのには気を配んなさいよ」

京太郎「あー……了解っす」


やえ「……」

京太郎「……」

やえ「……行くわよ」

京太郎「えっ」

京太郎「あの、どこに……?」

やえ「初詣。あと、あの後輩の娘に説明すんでしょ?」

京太郎「あっ、はい」

京太郎(淡ともう初詣に行ったんだけど……ノーカンでいいか。アイツだし)

京太郎「……」

やえ「……」

京太郎「……あのー」

やえ「……何よ」

京太郎「その、怒ってらしたり……引いてたりしないんですか?」

やえ「……何に?」

京太郎「えっ」

やえ「なんか、そんな心当たりでもあんの?」

やえ「何か……あんた、謝らなきゃいけないような後ろ暗いことしてる?」

京太郎「いや、まさか!」

京太郎「後ろ暗いことなんてのは、一切してないです! そりゃもう、一切!」

やえ「……ふーん」

やえ「ま、どうせ……軽く口を滑らせたら、あの子が乗ってきたってとこでしょ?」

やえ「だったら、一々リアクションを取るのも馬鹿らしいわよ」

京太郎「……」

やえ「ま、まあ……その、私の相棒だし……そりゃー、うん、そういうのはないって信じてたわよ?」

やえ「でもまあひょっとしたらひょっとしたであの子結構あるしあんたの好み的にもあり得なくはないかなって思わざるを得ないというか」

やえ「ちょっとばかり、そういうこともあるんじゃないかなーって思わなくもないし、いや私は別に気にしてないんだけど――」

京太郎「なんですか? その、もっと大きな声で――」

やえ「なんでもない! なんでもないかんな!」

京太郎「あ、はい」


やえ「まあ、これだけは言っとくけど……」

京太郎「なんでしょうか」

やえ「少なくとも、世間様から後ろ指さされるようなこと、あんたがしないって思ってるから」

京太郎「やえさん……!」

やえ「だってそうなったら、麻雀打てなくなるし」

京太郎「麻雀っすか。俺の主体、そこっすか……」

やえ「違う?」

京太郎「……まあ」

京太郎「やえさんと相乗りするって決めてますから、途中下車とかはしないっすよ」

京太郎「相棒ですからね」

やえ「……ふん」


京太郎「改めて――あけましておめでとうございます、やえさん」

やえ「――あけましておめでとう、京太郎」

                                                                                                                         ――了

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最終更新:2014年02月02日 10:20