■中部経典第 6 経 「希望経」
〈 和 訳 〉
── このように私は聞きました。
ある時、世尊は、サーヴァッティ近くの「ジェータ王子の林」にある、
祇園精舎〈アナータピンディカ僧院〉に住んでおられました。
そこで、世尊は、比丘たちに話しかけられました。
「比丘たちよ」
「尊師よ」
と、── 比丘たちは、世尊に答えました。
そして世尊は、このように言われたのです。
「比丘たちよ、戒を備え、学処〈戒律〉の集成〈パーティモッカ〉を備えて住しなさい。
〈学処の集成・パーティモッカ〉の防護に守られ、正しい行動と行動の領域を備えて住しなさい。
僅かな罪に対しても恐れを見て、諸々の学ぶべき戒条をよく受持して、学びなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈修行仲間(同梵行者)たちに愛され、好まれ、尊ばれて、見習われる者になりたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎〈おろそ〉かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈修行仲間(同梵行者)たちに愛され、好まれ、尊ばれて、見習われる者になりたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎〈おろそ〉かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋〈森や樹下などの瞑想に適した臥坐所〉にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈衣・托鉢食・臥坐所・医薬品を得る者になりたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈人々から、衣・托鉢食・臥坐所・医薬品を私が受用する時、人々の行為に大果報・大功徳がありますように〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈親族や血縁者、餓鬼、死者たちの心が浄まり私を念ずる時、彼らの行為に大果報・大功徳がありますように〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈不快と快を征服したい。不快が私を征服しないように、生起する不快に打ち勝って、住したい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈恐怖を征服したい。恐怖が私を征服しないように、生起する恐怖に打ち勝って、住したい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈現世の楽住であり、清浄な心である四禅定を、望んで得る者、難なく得る者、容易に得る者でありたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈諸々の色(有対想)を超え、無色界の、寂静なる、諸々の解脱に、名身によって触れ、住したい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈三つの結縛を滅ぼして預流者となり、破滅しない者、決定者、正覚に赴く者でありたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈三つの結縛を滅ぼし、貪・瞋・痴の薄らいだ一来者となり、一度だけこの世に戻って苦を終わらせたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈五下分結を滅ぼして化生者となり、そこで般涅槃し、その世界から戻ることのない者(不還者)になりたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈種々様々な神通を経験したい。一にして多になり、多にして一になり、現われ、消え失せ、
あたかも空中を行くように、障害なく、壁を越え、垣を越え、山を越えて行きたい。
大地においても、あたかも水中におけるように出没し、水上でも地上を行くように沈むことなく行きたい。
空中でも足を組んで、翼のある鳥のように進みたい。このように大神力があり大威力がある月や太陽にも、
手で触れたり撫でたりして、梵天界までも身をもって自在力を行使したい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈清浄にして超人的な天耳通によって、神々と人間の両方の声を、遠くであれ、近くであれ、共に聞きたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈他の有情たち、他の人々の心を、心によって捉えて知りたい。すなわち、
貪りのある心を貪りのある心である、と知りたい。
貪りを離れた心を貪りを離れた心である、と知りたい。
怒りのある心を怒りのある心である、と知りたい。
怒りを離れた心を怒りを離れた心である、と知りたい。
愚痴のある心を愚痴のある心である、と知りたい。
愚痴を離れた心を愚痴を離れた心である、と知りたい。
集中した心を集中した心である、と知りたい。
散乱した心を散乱した心である、と知りたい。
広大な心を広大な心である、と知りたい。
広大ならざる心を広大ならざる心である、と知りたい。
有上の〈より上のある・劣った〉心を有上の心である、と知りたい。
無上の〈勝れた〉心を無上の心である、と知りたい。
統一された〈安定した〉心を統一された心である、と知りたい。
統一されていない心を統一されていない心である、と知りたい。
解脱した心を解脱した心である、と知りたい。
解脱していない心を解脱していない心である、と知りたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈種々の過去における生存を、たとえば、一生でも、二生でも、三生でも、四生でも、五生でも、
十生でも、二十生でも、三十生でも、四十生でも、五十生でも、百生でも、千生でも、十万生でも、
また数多〈あまた〉の破壊の劫でも、数多の創造の劫でも、数多の破壊と創造の劫でも、思い出したい。
『そこで私は、このような名前で、種姓で、階級で、このような色と食べ物を受用し、苦と楽を受け、
このように寿命を終えて、そこから死没し、ここに生まれ変わっている』と、
このように具体的に、明瞭に、種々の過去における生存を、思い出したい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈清浄にして超人的な天眼耳通によって、有情たちが、劣ったもの・優れたものとして、
美しいもの・醜いものとして、幸福なもの・不幸なものとして、死に変わり生まれ変わるのを見たい。
すなわち、『友らよ、実にこれらの有情たちは、身による悪行があり、語による悪行があり、
意による善行があって、聖者を誹謗せず、正見を持ち、正見解による行為(業)を持ち続けている。
彼らは、身体が滅ぶと、死後、苦処・悪趣(悪道)・堕処である地獄に生まれ変わった。
しかしまた、友らよ、彼ら有情たちは、身による善行があり、語による善行があり、
意による悪行があって、聖者を誹謗し、邪見を抱き、邪見解による行為(業)を持ち続けている。
彼らは、身体が滅ぶと、死後、善趣(善道)である天界に生まれ変わった』と。
このように、清浄にして超人的な天眼耳通によって、有情たちが、劣ったもの・優れたものとして、
美しいもの・醜いものとして、幸福なもの・不幸なものとして、死に変わり生まれ変わるのを見たい。
その行為に応じて(業に従って)行くのを知りたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、もし比丘が、
〈諸々の煩悩の滅尽により、無漏の、心解脱と慧解脱とを、
まさに現世において、自ら証知し(よく知り)、証明し(目の当たりに見て)、成就して住みたい〉
と願うならば、
ひたすら諸々の戒を完成させ、自己の心の寂止に努め、禅定を疎かにせず、
観法を備えて、諸々の空屋にて修練を積む者でありなさい。
比丘たちよ、戒を備え、学処〈戒律〉の集成〈パーティモッカ〉を備えて住しなさい。
〈学処の集成・パーティモッカ〉の防護に守られ、正しい行動と行動の領域を備えて住しなさい。
僅かな罪に対しても恐れを見て、諸々の学ぶべき戒条をよく受持して、学びなさい。
── と、最初に私が言ったのは、すなわち、このような大果報・大功徳をもたらすという、
このことに関して説かれているからなのである」と。
このように、世尊は言われました。
彼ら比丘は喜び、世尊が説かれたことに大歓喜したのでした。
〈 和 訳・おわり 〉
● 解 説
ののの
〈 編集中 〉
最終更新:2013年06月01日 02:25