1.児童ポルノ法にまつわるエトセトラ
正式名称 【児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律】
(1999(平成11)年5月26日 法律第52号)
2.何のための法律?
【児童ポルノを禁止する目的】
児童ポルノ禁止法は、児童に対する性的搾取、性的虐待等の性的被害から 児童を保護し、児童を救済する ための法律です。
第一条 (目的)
この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、
あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、
これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、
児童の権利を擁護することを目的とする。
つまり、閲覧する人の道徳を規制するためや、模倣犯が出ることを防ぐための法律ではありません。
もしくは
性を扱うのがダメな「公序良俗」や健やかに育って欲しい「健全育成」ではなく、
PTSDを発症させるような危機から「子どもを守る」ことが目的です。
そのため、性的好奇心を煽る「児童ポルノ」より、
「児童性虐待記録物」("Child (sexual) abuse materials, CAM")と
児童が性的虐待を受けた結果の産物だとわかる名称の方が、その実態を正しく表しているといえます。
(ただしこのwikiでは、すでに用語として定着している『児童ポルノ』の語を暫定的に使います)
3.じつは何がおこってる?
【身近な大人による性虐待 ~ 守ってくれるはずの人が加害者】
児童が性的な被害に合うのは、多くは見知らぬ人間からというイメージが今でも根強いですが、
実際は家庭内での性的虐待が多いことが報告されています。最多は実父、次いで母親の再婚相手、内縁の夫と続きます。
神奈川県児童相談所における性的虐待調査報告書
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/life/82594_84209_misc.pdf
【密室のため長引く虐待】
親からの性的虐待は家庭という密室で行われるため周囲が気づきにくく、認知件数は氷山の一角と言われています。
身近な大人から子供へという圧倒的な支配関係で密室で行われるため、虐待の期間も長期化しやすい傾向があります。
子供からの告白がない限り、性的虐待を発見するのは困難とされています。
周囲が気づきにくいという問題の他にも、経済的・精神的に母親が父親に依存しているため
子供から訴えられても黙認する、被害児童が脅されて口止めされているなどのため、
発見が遅れやすくなっています。
また、児童だという事で判断能力が疑われ、児童からの訴えがあっても本当に虐待があるのか
信じてもらえないケースもあります。
【深いトラウマ】
結果、長いあいだにわたって性的虐待を受けることに加え、一人悩み続ける子どもは、
人格形成期にトラウマとも言える重大な悪影響が及ぼされることとなります。
また加害者に支配された子どもはそれが普通と思い込み、他人の気持ちを考えずに行動し問題児扱いされる。
愛情を得るには性行為が必要と信じて、年齢にふさわしくない性的な行動をとり、
みだりにいかがわしく思われる…といった性虐待が原因の問題行動も、被害の一つと言えます。
4.それで…法律は守ってくれる?
【被害者がいるのに、児童ポルノにならない!!】
「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(通称児ポ法)にも
子どもを性虐待から保護できず、権利を守りきれていない部分があります。
子どもを保護できない一例として、
公衆トイレの個室に連れ込まれた児童が「頭部に射精された写真を撮影された」場合は
明らかに性虐待であり、その記録が作られています。
しかし「性虐待の記録」である写真が流通することを、この法律では禁止できません。
これはこの法律の定義
「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」にそうした写真が当てはまらないためです。
【被害者がいないのに、児童ポルノになってしまう!】
子どもの権利を守りきれない一例として、
18歳未満のアイドルの水着写真が「児童ポルノ」に含まれてしまう可能性が挙げられます。
仕事として納得の上で撮影された写真が「性虐待の記録」として取締られる可能性があるのです。
性虐待でないものが「児童ポルノ」とされ、アイドルという仕事をする子どもを侮辱し権利を侵害しているといえます
(ただし、ジュニアアイドルと言われている少女達が半強制的に過激な写真を撮られているという問題もあります)。
これはこの法律の
「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という「視る側によって判断される定義」によります。
つまり子どもへの虐待があったか否かが「児童ポルノ」かを決める判断材料ではないということです。
それは虐待されているか否かを示す「児童性虐待記録物」ではなく
「児童ポルノ」という名称に、皮肉にも表されているともいえます。
5.だから法改正?…いやいや
【自民案】
- 実際の被害者に向き合っていない(対象は創作の中の虐待)
現在(2013年9月)継続審議になっている自民案では検討規定として、
漫画等と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究が追加されています(附則2条1項)。
そもそもこの法律の目的は性的被害に合った児童を保護するためのものですが、
現実の被害とは何の関係もない創作物を規制しようとするのは目的から逸脱していますし、
現実の児童を救済することにもなりません。
現実に被害のない架空の創作物を製作、閲覧することさえ禁止しようというのは、
思想の取締りと言えるのではないでしょうか。
現在継続審議になっている自民案では、
単純所持の禁止・自己の性的好奇心を満たす目的で所持していた場合の犯罪化が追加されました。
児童ポルノ所持等の禁止(第6条の2)
何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、または第二条第三項各号のいずれかに掲げる
児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した
電磁的記録を保持してはならない。
児童ポルノ所持、提供等(第7条1項)
自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者は、
一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で、
第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により
描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者も、同様とする。
単純所持は禁止になりますが、罰則はありません。
ですが、『自己の性的好奇心を満たす目的』で『児童ポルノを所持・保管』した場合は、
1年の懲役又は百万円以下の罰金が課されます。
6.子どもに必要なもの
加害者に対するイメージ、性虐待の実際など、この問題では先入観と固定観念によって正確な理解がされていません。
存在すら見過ごされている性被害の実態の把握。なぜそのような性虐待が起こっているのか、性被害を防ぐには何をするべきか原因の調査。どうすれば実際に起こってしまった性虐待から子どもを保護し、ケアすることができるのか方法の研究。
これらは実際に被害に遭った児童を救済し、将来起こりうる被害を防止するために、なにをおいても必要な対策です。
「身体の性」「心の性」など性に関する適切な知識も子どもには必要です。
性被害に遭った子どもが正確に被害を説明できるためにも。自分が汚れた存在だと思い込んでしまわないためにも。
子どもを性から遠ざけ、隠してしまう「規制」は、現在の情報化された社会では不適切です。
必要なのは、自分を守るために適切な情報を自身で取捨選択し、判断する能力をきちんと教育して教えることです。
最終更新:2013年10月16日 18:23