単純所持規制って何?
児童買春・児童ポルノ禁止法が1999年に成立した際の議論においてセルフヌードや未成年夫婦間のヌード写真、所持する表現物の一部に含まれている場合の扱い、表現物を大量に扱う報道関係機関や図書館、博物館の扱いなど、未だ十分な議論がなされていなかったこと、単純所持は処罰対象としていない国(フランス、スイス、スウェーデン)が存在したことから、現行法(2011年6月24日施行)では児童ポルノの単純所持(配布等の目的なしに、単に所有していること)は罰せられません。 ただし現在では上記に上げられた国も単純所持を禁止しています(なお「スウェーデンでは憲法を改正してまで児童ポルノを禁止した」とする有力な主張がありますが、同国は4つの憲法典からなる軟性色の強い憲法を持つ国であり、一言一句の改正にも国民投票を要する日本とは事情が異なることに留意する必要があります)。また、児童ポルノの所持を許すことで被写体となった児童の精神的被害が永続的に続くことを考えれば、児童ポルノの単純所持規制を求めることには一定以上の合理性があります。
しかし、その一方で無実を証明するには家宅捜査に加えて全ての電子機器、通信記録の押収が必須であり「無いことの証明(悪魔の証明)」「所持したヌード等の被写体が18歳未満でないことの証明」「性欲目的で所持していないことの証明」 非常に高いハードルが求められるため、これによるプライバシー権の侵害、捜査権の過度な拡大、誤認逮捕(冤罪)による名誉毀損と様々な問題が懸念されています。
既に規制が導入されている海外では以下のような事例があります。
- 盗難されたクレジットカード情報を児童ポルノサイトに登録される。
- 入浴中の我が子を撮影した親が逮捕される。
- 自身を撮影した児童が逮捕される。
- 敵意を持った相手の所持品に児童ポルノを混入させる。
英国で行われた一斉捜査「オペレーション・オー(Operation Ore)※」では、不明確な証拠を元に7,250名の容疑者を特定し1,451人が有罪となったが、その過程において少なくとも35名以上の自殺(一説には累計200人を超える)が発生し、膨大な無実の一般人の生活が破壊されることになりました。生活に大きな影響を与える法案であることに十分注意する必要があります。
→児童ポルノ一斉捜査(海外)
こうした一斉捜査は容疑者情報こそ国家間で共有されつつあるものの、国ごとに法律も捜査方法も異なるため一概に比較できるものではありません。日本国内でも奈良県と京都府にて条例をもって単純所持規制が施行されており、後発の「京都府児童ポルノの規制等に関する条例」においては事前の「破棄命令」を組み合わせるなど濫用を防ぐ試みも始まっています。
1、2、3号ポルノ
現行法の児童ポルノの定義は次の3つです。
- 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
- 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
- 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
1番目は文言通りの解釈となります。2番目は「性欲を興奮させ又は刺激するもの」が事実上空文であるため「手ぶら事件*」などが既に国内で発生しています。また、性器はちくびと肛門を含み男女を問わないため注意が必要です。3番目はさらに分かりにくいもので、水着姿は衣服の一部を着けない児童の姿態であり、グラビアの定番であるため「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であるように思えますが、すべての水着姿が児童ポルノに含まれるわけではありません。
平成21年06月26日の衆議院法務委員会の議事録によれば宮沢りえのSanta feや上半身の服を脱いだジャニーズの写真が児童ポルノに当たる可能性があるようです。
他国における定義
児童ポルノの定義は国、組織により様々です。またCGなどの技術の発展もあり、児童ポルノとは何かということが常に論議の対象となってきました。多くの学者がこれまで児童ポルノ(以外を含む)を分類してきましたが、指標として有名ものの一つがわいせつ性ではなく虐待性の多寡を基準に分類するマックス・テイラー教授らが提唱した
COPINE scaleです。
どんな捜査が始まるの?
単純所持罪の新設により次の3つのことが起こるとされています。1,2については警察が取締りたいものを取締まるといった、不公平、偏頗な捜査が行われる危険性とともに、特に、3については、別件逮捕の口実として利用される可能性があります。
- 児童ポルノの販売等の捜査の過程で判明した単純所持事案を立件
- 警察が内偵情報に基づき特定の被疑者を単純所持で立件
- 警察が、より大きな本件立件へと結びつける目的で「入口事件」「別件」として単純所持を利用
アチョン法
韓国には日本の児童買春・児童ポルノ禁止法と似た目的の法律である「児童・青少年の保護に関する法律」が制定されています。発音からアチョン法とも呼ばれるこの法律では、2011年に青少年に見えるキャラクターの性描写があるマンガ・アニメの頒布等を禁止する法改正を行いました。マンガ・アニメの単純所持も同時に禁止されています。そのため、日本で製作されたアニメをただ単に持っていたという理由で未成年や大学生がアチョン法違反の容疑で逮捕されています。韓国で検挙された性犯罪の件数は2011年の約100件から2012年の2224件へと20倍に増加し、2013年は2012年を更に上回るペースで検挙されています。高麗大学の朴景信教授は、この検挙数の大幅な増加はアニメ・マンガを取り締まるようになったことにあると主張しています。
児童性犯罪者として有罪判決を受けた場合には無期懲役または5年以上の有期懲役が科せられ、子どもが多く集まる場所での就業も禁止されます。アニメやマンガをただ持っているだけの人間にこのような重罰を科すことは、はたして相応の罰なのでしょうか。
最終更新:2013年10月23日 20:59