中学一年――10月憧イベント(EX)

【中学一年 ―― 10月EX(憧)】

―― 新子憧にとって須賀京太郎というのは放っておけない相手であった。

今や幼いとは到底言えない恋心を彼に向ける憧にとって、須賀京太郎は誰よりも気になる対象だ。
授業中や部活の最中にその姿を目で追った回数は一度や二度ではない。
だが、彼女がそんな自分をあまり意識する事がなかったのは、須賀京太郎という少年が自分の事を誰よりも頼ってきてくれたからだ。
年上の仲間たちよりももう一人の幼馴染よりも、新子憧を頼りにしているからこそ…彼女はその感情に振り回される事はなかったのである。

―― だが、その前提がこの半年で崩れてきてしまった。

須賀京太郎にとって一番頼りになる相手は、小走やえという少女に取って代わられた。
勿論、彼は未だに自分の事を頼りにしてくれている事くらい憧にだって分かっている。
だが、それはもう『一番』ではない。
新子憧が望む『一番』では決して無いのだ。

憧「(あー…私…こんなに面倒くさい女だったなんて…)」

そこで一つため息を吐きながら、憧はそっと頭を振る。
憧とて自分が京太郎に恋をしている自覚くらいは今まであった。
誰よりも京太郎の身近にいた彼女にとって、それは今更、覆るものではない。
だが、今やその自覚は、体感という形となって、憧へと押し寄せてきていた。

憧「(別に…京太郎が小走先輩と仲良くしたいたって…どうでも良いじゃない)」

そう内心で呟く少女の心にはっきりと宿るのは嫉妬の感情だった。
今や自分の居場所であった位置に収まった先輩への醜い感情の波である。
勿論、今までそれは幼馴染の少女に対しても微かに覚えていたものではあった。
だが、いまの彼女にあったのは危機感めいた嫉妬の念であったのである。

憧「(しずは…そういうんじゃなかったものね…)」

もう一人の幼馴染は自分の居場所と奪い合うような仲ではなかった。
三人が三人、お互いの居場所を確保して、助け合う関係がなりたっていたのである。
だからこそ、憧は穏乃に対して、危機感めいたものは感じず、今日まで来る事が出来た。
だが、中学に入って現れた先輩は未だ距離こそ遠くても…自分の居場所を奪い合う明確なライバルなのである。
そんな彼女に想い人が傾倒していくのを感じて冷静でいられるほど、少女はまだ恋を知らない。

憧「はぁ…もう…」

そんな自分にまた一つため息を吐きながら、憧は下駄箱の前で肩を落とした。
それは勿論、自身の感情に負けて京太郎に情けないところを見せてしまった所為である。
いや、それだけならまだしも、彼に寂しいと、そう言ってしまった。
優しい彼がそれを気にしないはずがないというのに、つい感情に負けて構って欲しいと言ってしまったのである。

憧「(負担になんて…なりたくなかったのにな)」

憧だって分かっている。
京太郎にとって今はとても大事な時期だ。
三年生がいなくなり、エースとして認めてくれた人たちが去り、部内の評価を得なければいけない時期なのである。
そんな時に自分にかまって欲しいだなんて重いにもほどがある。
だが、そうと分かっていてもどうしようもないくらいに憧は寂しさを胸に湛えていた。

憧「(…ん?)」

その気持ちのまま下駄箱を開ければ、上履きの上に一枚の手紙が置いてあった。
首を傾げながらそれを取り出せば、表面に『新子憧様へ』と几帳面そうな文字が書いてある。
それにさらに気分を落ち込ませながら、憧は3つ目のため息を吐いた。

憧「(…またなんだ…)」

中学に入って半年。
その間、憧は自分に磨きに磨きを掛けた。
京太郎に宣言したような良い女になれるように化粧を覚え、髪を伸ばし、バストアップ体操を始めたのである。
それらは少女としての成長期である事も相まって、急速に実を結び始めた。
今や憧は小学校時代とは比べ物にならないほど華やかで可憐な少女へと成長したのである。

憧「(だからって話した事もないのにラブレターってのはどうなのかしらねー…)」

勿論、憧とて女である。
そうやって誰かに好意を向けられるのは悪い気持ちではない。
だが、それらは全て自分が変わり始めてから現れ始めたものなのだ。
正直、自分の容姿だけが目当てのような気がして良い気はしない。
気持ち悪いとまでは言わないが、告白を断るのが面倒くさいとそう思うくらいには。

憧「(でも…そういう訳にはいかないわよね…)」

例え、相手が外見だけが目当てであっても、こうして自分に手紙を書いてくれているのだ。
それを面倒だからと無碍に出来るほど憧は冷たい女ではない。
面倒だし避けたいのは確かだが、手紙の分の誠実さくらいは自分も見せるべきだろう。
そう思いながら憧が手紙を開けば、そこには目も滑るような恋の文章が並んでいた。

憧「(あー…これは…痛い…)」

勿論、相手が必死に書いてくれた事くらい分かっている。
だが、見知らぬ相手からポエムを貰って喜べるほど憧は気楽なタイプではなかった。
寧ろ、その奥に見え隠れする相手の思い込みの激しさを感じ取り、背筋に嫌なものを浮かばせる。

京太郎「…あれ?どうした?」
憧「あっ…」

そんな彼女に声をかけてきたのは想い人である京太郎であった。
下駄箱の前で手紙を広げて動かない憧に心配そうな視線を送る彼に憧は反射的に手紙を隠す。
それに京太郎は首を傾げるものの、それを誤魔化す言葉が憧からは出てこなかった。

憧「(どう…しよう…)」

正直な事を言えば、こんな手紙を送るような相手と二人で会うのに危機感を覚える。
だが、だからと言って、それを京太郎に話すべきかと言えば、彼女は即答する事が出来ない。
憧にとってこの前、寂しいと口にしてしまった事は決して忘れられない出来事なのだから。
コレ以上、彼の重荷になるような事は出来ない。
その感情が彼女の弱音を堰き止め、二人の間に沈黙を作り出す。

憧「あ…の…先行っててくれる?」
京太郎「え?でも…」

その沈黙を破ったのは憧の言葉であった。
だが、京太郎はそれに逡巡の言葉を返し、憧の顔をじっと見つめる。
しかし、そんな彼に首を振りながら次の言葉を放った。

憧「良いから。…お願い」
京太郎「……分かった」

その言葉に京太郎は頷き、一人で階段をあがっていく。
背中に微かな寂しさを浮かべながらのその姿に憧は申し訳なさを抱いた。
しかし、そうやって誤魔化してしまった以上、もう京太郎には頼れない。
半ば自分をそう追い込みながら、彼女はその手紙を読み進め… ――

憧「昼休みに体育倉庫前で…か」

告白の返事を聞く為に指定された場所。
昼休みには人気のないその場所に行く事に憧は危機感を強める。
だが、持ち前の責任感の強さと気の強さがそれを心の中に押し込めた。
それと共に手紙をカバンの中へと丁寧に入れた憧は… ――

―― 何喰わぬ顔をして自分のクラスへと顔を出し、昼休みまで過ごしたのだった





………



……








憧「(えっと…ここよね?)」

そう言葉を浮かべながら周囲を見回す憧の周りに人気らしい人気はなかった。
今は昼休みになったばかりで、ほとんどの生徒が学食や購買に走っている。
それ以外は教室内で食事をとっている時間に、こんなグラウンドの外れに人が来るはずがない。
来るのはただ一人、憧と、それを呼び出した男だけだ。

「やぁ。来てくれたんだ」
憧「う…うん…」

その男は憧の目の前からゆっくりと現れた。
その仕草一つ一つに気取ったものを感じさせるその男に憧は見覚えがある。
ついこの前、クラスの友人に誘われて応援しに行ったサッカー部のレギュラーだ。
その顔立ちの良さもあって女性との一部から『王子様』と呼ばれている彼があまり憧は好きではない。
彼女にとって心から王子様と呼べるのはこれまでも、そしてこれからもたった一人なのだから。

「って事はオッケーなんだね?」
憧「…は?」

そんな彼からの思いもよらない言葉に憧は思わずマヌケな声を返してしまう。
口を半開きにしながらのそれに男は首をゆっくりと振った。
まるで自分は何もかも分かっているのだと、照れなくても良いのだと言うそれに憧は寒気を感じる。
だが、それ以上に自分の気持ちを決めつけられた怒りに身体が熱くなり、彼女の口から強い言葉を放たせた。

憧「悪いけど、アンタになんか興味ないから」
「はは。そんな風に照れなくても良い」

その言葉に憧はすっと気持ちが冷え込むのがわかった。
だが、それは彼女の中の怒りが冷えた事を意味しない。
相手に自分の言葉を聞くつもりがないという事が憧には十二分に理解できたからだ。

憧「照れてなんかない。それより…そういう事だから」

コレ以上、ここに居ても事態は何も好転しない。
それを悟った彼女は義理は果たしたと胸中で言い捨てながら、踵を返す。
その心の中にはムカムカとした感情が湧き上がり、足を早めさせる。
やはりこんなところに来るべきじゃなかった。
そんな後悔すら浮かばせる彼女に… ――

「まぁ、待てよ」
憧「っ!!離して!!」

男が手を伸ばし、引き止める。
その瞬間、怖気を超え、不快感すら覚えた憧は大きく手を振るう。
しかし、サッカー部でエースを担う男の腕を文化系で女の憧が振り払えるはずがない。
それに男の顔がにやつくのを間近で見て取った憧の胸に吐き気が沸き上がってくる。

「よく考えろよ。俺と付き合えるんだぞ」
憧「お生憎様!アンタなんか土下座されたってお断りよ!!」

そう言いながら憧は必死に腕を振るう。
諦める事なく抵抗の意を示すのは勿論、目の前の男が気持ち悪いからだ。
その上、自分の腕はこんな男に捕まっていると思うと穢されているような気がして仕方がない。
自分はこんな奴の為に綺麗になった訳ではないという感情もあり、憧の手は止まらなかった。

「…お前、生意気だな」
憧「がっ…」

その瞬間、男の顔が豹変する。
今までのにやついた笑みから感情を削ぎ落した瞬間、男の手が憧の下腹部に突き刺さった。
それと同時に鈍い音が身体の中に響いた憧が息を吐き出し、その細い体を震わせる。

「俺は先輩なんだぞ。ちゃんと敬語を使えよ」
憧「く…ぅ」

まるでボウリングの玉をお腹に埋め込まれたような息苦しさと重苦しさ。
それに呻く憧の前で男がそう言葉を漏らす。
だが、それに何かを言えるほどの余裕が憧にはない。
さっきの精神的なものとは違う肉体的な吐き気を堪えるので精一杯なのだ。

「最初は優しくしてやろうと思ったけど…ほら、来い」
憧「ぐ…あぁ…」

自然、引きずる男の手に憧は逆らえない。
そのまま体育倉庫へと引きずり込まれた憧は乱暴にマットの上へと転がされる。
その頃には息苦しさもマシになったとは言え、横隔膜に走る痙攣は止まらない。
そんな息すらまともに出来ない憧の上に男がゆっくりと覆いかぶさってくる。

「ま、お前みたいな気の強いタイプもきらいじゃないしな。じっくりと教育して…飽きたら売りでもさせてやるよ」
憧「っ!!」

その言葉に憧は男に対する黒い噂を思い出す。
サッカー部で王子様と持ち上げられるこの男にはある不良グループがついており、付き合った女は弱みを握られ、そこで弄ばれるという噂を。
勿論、憧はそんな噂本気になどしていなかったし、嫉妬によるもの程度にしか思っていなかった。
だが、こうして自分がその被害者に選ばれた今、その噂を馬鹿にする事など出来はしない。
それは被害者たちが創りだした声なき声であったのだ。

憧「(いや…いやぁぁああ!)」

だが、それが分かってももう遅い。
暴れる自分の口には男の手が当てられ、もう一方の手で制服が剥かれていく。
それに必死に身体が抵抗するものの二度三度と腹を殴られるとどうしても抵抗する力が弱くなっていった。
自然、男の手は順調に進み、憧の身体からブラを剥ぎ取る。

「なんだ。小さいが愛嬌のある胸をしてるじゃないか」
憧「いや…いや…ぁ」

自分の身体を評する男に憧は震える声をあげる。
今にも吐瀉物で詰まってしまいそうなその喉を懸命に震わせるそれに男が嗜虐的な笑みを浮かべた。
まるでそうやって抵抗した方が嬉しいのだと言うような笑みに憧の目尻から涙がこぼれ出す。

憧「(私…こんな…こんな奴に…!)」

自分が身体を磨きあげたのは京太郎の為だ。
その身体に触って良いのもまた京太郎だけなのである。
だが、そんな憧の意識をねじ伏せるように男の欲望でギラついた視線が肌へと突き刺さる。
その感覚だけでも不快で仕方がないのに、今度は男の手が自分へと伸びてくるのだ。

憧「(助けて…助けて京太郎…!!)」

そんな彼女にとって縋れるのはもう幼馴染しかいなかった。
勿論、憧とて京太郎がここに来るはずがない事くらい分かっている。
彼女は告白の事を隠し、何も言わないままここに来たのだから。
だが、それでも最早、抵抗する力もない彼女にとって、頼れるのは彼だけなのである。

――まだ子どもっぽくて、でも、必死になって成長しようとして。
――たまにヘタレで、だけど、格好良い時はちゃんと決めてくれて。
――誰よりも他人に一生懸命になれて、麻雀を楽しんで。
――そして…何時だって彼女を助けてくれた彼女だけの王子様だけだったのである。






























京太郎「なにやってんだこらああああああああ!!!!!!」








































―― そして王子様はお姫様の期待を裏切らない。


































「ぐっ…!」

突然、体育倉庫へと入り込んできた京太郎の一撃を男は避けられない。
そもそも男は憧の上に馬乗りになっているような状態だったのだ。
未だしずに付き合って運動を続けている京太郎の一撃を避けられるはずなどない。
右から左へと体重を載せたストレートを頭に貰って、マットの上をゴロゴロと転がる。

憧「あ…あぁぁ…っ」
京太郎「…待たせて…ごめんな」

その間に京太郎はそっとブレザーを脱いで、憧に被せてやる。
その瞬間、彼の顔が歪んだのはその腹部に幾つもの青あざが出来ているからだ。
明らかに殴られたのが分かるその痕に京太郎はぐっと歯を噛みしめる。
せめてもう少し早く自分が憧のカバンの中の手紙に気付けていれば、と言う自責が浮かび、握った手を震わせた。

「ま、待て…!誤解だ…!」
京太郎「…あ?」

そんな京太郎の前で男が頭を抑えながら立ち上がる。
フラフラではあるものの、しっかりと両足で立つその姿は彼が体育会である証だろう。
或いはその年から切った張ったの業界に片足を踏み込んでいるからなのかもしれない。
どちらにせよ、京太郎には男を許す理由はなく、凄んだ視線を向ける。

「俺は誘われただけなんだ!その女に…」
京太郎「…へぇ…」

それが一瞬で殺意へと変わったのは男の言い訳がお粗末を超えてあまりにも酷いものだったからだ。
この状況の言い訳を憧へと押し付けるそれに京太郎の腕がぶるぶると震える。
運動部のものとさほど大差のないその太い腕の震えに男が表情を引き攣らせた。

「ま、待て!お、お前、麻雀部の須賀だろう!?俺を殴ったら…問題になるぞ!!」
京太郎「…そうかもな」

男の言葉に少しだけ京太郎は冷静さを取り戻す。
確かに理由があるとは言え、校内暴力は重大な事件だ。
下手をすれば連帯責任で麻雀部そのものが部活動停止になるかもしれない。
それは京太郎にとって無視出来ないものだった。

「そうだろう!今なら…不問にしてやる!!」
「俺を殴った事もなしにしてやるから…な?お互い問題はまずい身の上だろ?」
京太郎「あぁ。そうだな」









































京太郎「でも、それがどうした?」
「へ…?」

京太郎「あぁ、そうだよ。麻雀は大事だよ」

京太郎「先輩たちから受け継いで…」

京太郎「後は頼むって…そう言われたんだからさ」

京太郎「だからって…だからって言ってよ」

京太郎「憧をこんなにされてさ」

京太郎「その上…憧に罪をなすりつけるような事言ってさ」

京太郎「そんな奴…」

京太郎「殴らずに済ませられる訳ねぇだろうがああああ!!!」

山を歩くのではなく、走ると言うのは全身を使う作業だ。
肺を酷使し、腕を大きく回さなければ斜面に勢いを殺されてしまう。
背筋を伸ばし、腹筋で軸を整えなければ、前へと崩れたバランスがあっという間に足をもつれさせる。
そんな作業に小学生の頃から付き合い、そして今も尚、続けている少年の一撃とはどれほどのものか。

――勿論、彼はそれほど喧嘩の経験がない。
――人を殴った経験もまったくと言って良いほどない。
――ましてや人が倒れるまで殴った事はない。

だが、今の彼は怒りで我を忘れた。
今まで喧嘩をしている時には無意識の内にかけていたリミッターを外した。
目の前の男を殺す事も厭わずに全身を使って拳を振るった。
頭に貰った不意打ちから未だ立ち直る事の出来ない相手に。

――二度、三度、四度、五度、六度

その間に肉が腫れ上がり、血が飛び出し、骨が折れる。
それでも京太郎は殴るのをやめず、ひたすら拳を振るい続けた。
男が悲鳴をあげ、懇願し、許してくれと泣き叫ぶのを無視してひたすらに。

―― 38回

それが騒ぎを聞きつけ、体育倉庫に向かった教諭が京太郎を止めるまでの間に叩きつけられた拳の数であった。








………



……









―― その日から全ての事件は明るみになった

男が脅迫や強姦、そして売春斡旋などに関わっていた事
今まで被害者が出られなかったのは彼女たちが脅されていただけだという事
だが、事件が明るみになった今、彼女らが声を抑える必要はない
事件が明るみになってすぐ一丸となって警察署へとなだれ込んだ彼女たちのお陰で男と不良グループ共に一網打尽となった

―― だが、それでハッピーエンドという訳にはいかない

幾ら理由があったとしても男を殴った罪までは消えはしない
無論、学校側も情状酌量を与えたものの、停学処分は免れなかった
被害者である新子憧の懇願もあったが、暴力事件を起こした事を聞いた保護者の手前、罰則なしとはいかない
結果、須賀京太郎は一人、自室の中で悶々として過ごす日々を送っていた





京太郎「(停学処分一週間…はは…一週間もお休みだわぁい…)」

京太郎「(なんて…気分にはなれないよなぁ…)」

京太郎「(大会も目前だったのに…停学処分なんて…)」

京太郎「(やえ先輩たちに…申し訳がたたないレベルじゃねぇか…)」

京太郎「(何とか…麻雀部の活動停止とかはないだろうけど…)」

京太郎「(きっと…俺の所為で色々と言われてるだろうなぁ…)」

京太郎「(でも…あんな光景見て…我慢出来るかよ)」

京太郎「(そりゃ…まぁ…全治数ヶ月単位で殴ったのは…やり過ぎだったかもと思うけどさ)」

京太郎「(でも、あいつはその前に憧のヤツを殴ってる訳で…)」

京太郎「(それに憧の奴が裸見られて…もしかしたらレイプまで…されてたかもしれないって思うと…)」イラッ

京太郎「(…ダメだ。また苛ついてきた)」

京太郎「(後二発くらい殴っとけばよかったかな…)」



コンコン

京太郎「…ん?どうぞ」

ガチャ

憧「…お邪魔…します」

京太郎「…あれ?憧?でも、お前…学校…」

憧「…今日は休ませて貰ったの」

憧「…あんな事件があってすぐ…行く気にはなれなかったし」

憧「それに…あたし…アンタに色々と言わなきゃいけない事があったから」

京太郎「…俺に?」

憧「…うん」




憧「…馬鹿…っ」ジワッ

京太郎「…え?」

憧「なんで…あたしの事なんて…助けに来たのよ…!」ポロポロ

憧「あたしなら…大丈夫だったのに…あ、あれくらい…なんとかなったのに…っ」

京太郎「憧…」

憧「もしかしたら出場停止だったかもしれないのよ!!」

憧「アンタの雀士としての人生が…お、終わってたかもしれないのに…」

憧「なんで…助けに来たのよ…なんで…ぇ」ポロポロ

京太郎「そう…だな。そうだよ…な、俺は馬鹿だよ」

京太郎「…まぁ…馬鹿…だからさ。だから…俺は後悔してねぇよ」




京太郎「大会出場停止になってもさ」

京太郎「…俺はやるぞ。何度だって」

京太郎「それが憧を助ける唯一の方法なら…俺は何度だってやってやる」

京太郎「例え雀士としての人生が終わったとしても…別に構わない」

京太郎「麻雀と憧のどっちかを取れって言われたら俺は何度だって…お前の方を取る」

憧「っ…!」

京太郎「…だから、お前が気に病む必要なんてねぇんだよ」

京太郎「やったのは俺だ。俺が…勝手にやったんだ」

京太郎「お前には何一つ責任はない」

京太郎「…だから、そんな風に泣くなよ」





憧「そんな…事…」ポロポロ

京太郎「ま…無理だよな…」ハハッ

京太郎「怖いところだって…見せちまっただろうし…」

京太郎「…やっぱり…怖いか?俺の事」

憧「…怖くなんか…ないよ…」ソッ

憧「だって…この手…包帯でグルグルになってるの…あたしの為なんだよね…」

憧「こんなになるまで…あたしの為に…怒ってくれたんだよね…?」

京太郎「…うん」

憧「だったら…怖くなんかない…よ」

憧「怖いはず…ない」

憧「寧ろ…寧ろ…あたし…」





憧「あの時…嬉しいって思ったの…」

憧「助けに来てくれて…嬉しいって…」

憧「あたしの為に…あんなに怒ってくれて嬉しいって…」

憧「本当は止めなきゃいけなかったのに…」

憧「身体張ってでも…京太郎を止めるべきだったのに…」

憧「嬉しくて…涙が止まらなくて…」

憧「あたし…あたし…最低だ…」

憧「麻雀より…あたしの事を取ってくれたって思って…」

憧「あたしの事…そんなに大事なんだって思って…」

憧「こうなるって分かってたのに…あたし…っ!」





京太郎「…気にすんなよ。本気でキレた男止められる奴なんてそうそういないって」

憧「でも…っ」

京太郎「良いから。俺としては…そっちの方が嬉しいし」

憧「え?」

京太郎「助けてよかったんだって…迷惑じゃなかったんだって…そう思えるから」

京太郎「…だから、そろそろ泣き止んでくれよ」

京太郎「俺はそんな風にお前に泣かれたかった訳じゃないし…」

京太郎「それに…お前にはそういう泣き顔…似合わないって」

憧「…じゃあ…一つ…お願いがあるんだけど…」

京太郎「…お願い?」

憧「…うん…あたしの事…ぎゅって…して…」

京太郎「え?」




憧「あ、あたし…こ、この前から…怖いの…」

憧「もうあの男捕まったはずなのに…ふとした時に怖くなって…」

憧「夜中も何度も飛び起きて…お、お父さんすら…こ、怖くて…」ブルブル

京太郎「でも…俺で良いのか?俺、男だし…」

憧「ううん…違う」

京太郎「え?」

憧「…あんたで良いんじゃない。あんたが…良いの」

京太郎「…憧?」

憧「…お願い…あたし…もう…京太郎だけなの…」

憧「頼れる人なんて…京太郎しかいないから…だから…」

京太郎「…分かった」ギュッ

憧「あっ…ぁ…」

京太郎「…安心するか?」

憧「うん…とっても暖かくて…身体の中…溶けていく…みたい…」

憧「…ね…ちょっと…寝て良いかな…?あたし…最近眠れていなくて…」

京太郎「あぁ。何時間でも…休んでいけよ」

京太郎「俺で良ければ…お前が起きるまで側にいてやるよ」

憧「…うん…ありが…とう…」











【System】
新子憧の愛情度がLV5になりました
最終更新:2013年10月13日 15:05