高校二年――3月卒業式

【高校二年 ―― 3月第二週】

京太郎「(宥さんの言葉が正しいのか正しくないのか俺には分からない)」

京太郎「(だけど、宥さんの言葉で大分、気持ちが楽になったのは事実だ)」

京太郎「(灼とは違ってなんだか言いくるめられた感がない訳じゃないけれど…)」

京太郎「(でも、もやもやとした感覚は薄れてネト麻とだって向き合えるようになってきた)」

京太郎「(ま、だからって…実力を発揮出来るようになっただけで…)」

京太郎「(決して勝てるようになった訳じゃないんだけどさ)」

京太郎「(その辺、レジェンドにまた特訓して欲しいんだけど…)」

京太郎「(そろそろ卒業って時期に教師のあいつが忙しくないはずがないし…)」

京太郎「(結局ズルズル当日まで来ちまった)」

京太郎「(予定が合わないってのは仕方ないとは言え…流石に不安だな)」

京太郎「(ま、それはさておき…今日は卒業式だ)」

京太郎「(これまで三年生として引っ張ってくれたあいつらを盛大に送り出してやらなきゃいけない)」

京太郎「(今は不安だの何だの言わずにあいつらが悔いなく卒業出来るようにしてやらないとな)」

京太郎「(っと…アレは…)」


>>+2
末尾偶数;玄じゃないか
末尾奇数:灼と…レジェンド?



































>>玄じゃないか

京太郎「玄」

玄「…あ、京太郎君」

京太郎「どうした?皆部室で待ってるぞ」

玄「…うん。そうなんだけど…」

京太郎「…寂しいか?」

玄「えへへ…うん。やっぱり…どうしても…ね」

玄「…分かってるの。こんなところで足を止めても意味ないって」

玄「どれだけ立ち止まっても…卒業は…必ずしないといけないって」

玄「だけど…私…部室に行ったら…」

玄「行ったら…本当に卒業しないとダメになっちゃう…」グッ

京太郎「…玄」

玄「…ごめんね…こんな…皆困るって分かってるのに」

玄「私…やっぱりどうしても…」

京太郎「…そっか。んじゃ…」スッ

玄「…え?」























京太郎「あ、憧か?あぁ、玄の奴は見つけたぞ」

京太郎「いや…そうなんだけど、でも、もうちょい待ってもらって良いか?」

京太郎「…おう。まぁ、そんな感じ。…って怒るなって…後でちゃんと埋め合わせするからさ」

京太郎「あぁ…あぁ…うん。…じゃあな、お姫様」ピッ

京太郎「…ふぅ」

玄「あ、あの…京太郎君?」

京太郎「あぁ。悪い」

京太郎「とりあえず部室での送別会はちょっと先延ばしになった」

玄「え?」

京太郎「一時間くらい余裕あるって事だよ。だからさ」

京太郎「その間、色んなところ見て回ろうぜ」ギュッ

玄「…あ」

京太郎「お前が心置きなく卒業出来るように…さ」

玄「…付き合ってくれる?」

京太郎「おう。そりゃ逃げないように監視もしとかないといけないしな」

玄「に、逃げたりなんかしないよ!」

京太郎「こんなところで一人たそがれてた奴が言ってもなぁ」

京太郎「それよりほら…行くぞ」

玄「…うんっ」ニコー




















玄「グラウンドかぁ…」

京太郎「そういやお前、何か球技ってなると大抵一回は転んでたよな」

玄「え?もしかして見てたの?」カァァ

京太郎「ま、授業中暇だったし…」メソラシ

玄「うぅー…恥ずかしいなぁ…」

京太郎「ま、お陰で一発で玄が何処にいるか分かったけどな」

玄「ぅー…そ、そんな事言ったら京太郎君だってすぐに分かるよ」

京太郎「ま、髪の色が特徴的だしな」

玄「ち、違うよ。髪だけじゃなくって…」

玄「上から見ててあ、この人の動き格好良いなって思うのは間違いなく京太郎君なんだから」

京太郎「そ、そう…か?」

玄「うん!この前だってシュート決めたところとっても格好良かったよ!」

京太郎「お、おう。ありがとうな」

玄「あ、後ねー。やっぱり京太郎君の周りってキラキラしてるからゲームの前でもすぐに」

京太郎「ごめん。そこまでにしてくれ」

玄「ふぇ?」

京太郎「ちょっと…はずい」カァァ

玄「え?どうして?」キョトン

京太郎「どうしてって…そりゃお前…あんなに格好良い連呼されたら誰だって…」

玄「えへへ…じゃあ、もっと言ってあげる♪」

玄「確か2月のサッカーの時もハットトリック目前まで言ってたよね、あの時の悔しそうな顔…」

京太郎「なんでお前そこまで知ってるんだよぉ!?」























京太郎「で、とにかく次は特別教室だ」

玄「えー…もっと一杯、言えたのに」

京太郎「誰が言わすか」

玄「むー…でも、特別教室ってあんまり思い出ないよね」

京太郎「家庭科実習とかあっただろ」

玄「うーん…あるのはあったけど…私って可もなく不可もなくって腕前だから」エヘヘ

玄「おねーちゃんはそういうの凄いんだけどね。料理もお裁縫もバババってやっちゃうから」

京太郎「その分、玄が他のところ補ってるからバランス取れてるんだろ」

玄「えへへ…あ、でも…」

京太郎「ん?」

玄「京太郎君が一緒にいてくれた方が…ね」

玄「その…バランス取れるかなって…思ったりとか…」

京太郎「あーまぁ、姉妹二人じゃ力仕事とか大変だよな」

玄「う、うん!そう…そうだよ!だ、だから…京太郎君も卒業後は是非うちに…」

京太郎「はは。バイトでか?」

玄「も、勿論、正社員で迎えるよ!」

玄「おとーさんも私達で説得するから…ね?」

京太郎「そうだなー…確かに松実館居心地良いしな」

玄「うん。だって来年もずっとだったら六年だよ?」

玄「そんなに一緒だったらもう就職するしか無いんじゃないかなーって…」モジモジ




















京太郎「はは。ま、その進路の事は追々…な」

玄「えー…」

京太郎「俺も松実館嫌いじゃないけど、でも、やっぱり麻雀で食べて行きたいって気持ちもあるし」

京太郎「親からは大学だけは行っとけって言われてるしなぁ…」

玄「…そっか。じゃあ…やっぱり京太郎君は進学するの?」

京太郎「とりあえず保留かな。来年麻雀出来るか出来ないかで大きく変わってくるし」

玄「でも、京太郎君の成績なら大抵どこでも行けるんでしょ?」

京太郎「らしいな。まぁ、俺としてはそんなに頭が良いつもりはないんだけど」

玄「小学校の頃とか私に教わってたもんね」クスッ

京太郎「ちょ、そんなに最初の頃だけだろ」

京太郎「中学の頃にはお前に教わってた事なんてバイトの事くらいしかねぇよ」

玄「ふふ…でも、そんな京太郎君が大学選びたい放題なんて…凄いよね」

京太郎「ま、麻雀出来なくて暇だったからな」

京太郎「その分、進学ガチでやらなきゃいけなかったし…その頃の積み重ねが今に効いてるんだよ」





















玄「積み重ね…か」

京太郎「…どうした?」

玄「私、阿知賀で過ごしたこの六年間…ちゃんと成長出来ていたかなって…」

玄「京太郎君みたいに何かを積み重ねるような事してたかなって…」

京太郎「…なんだ。そんな事か」

玄「ぅ…やっぱり進歩ない?」

京太郎「いや、寧ろ、すげー成長してるよ」

玄「ふぇ?」

京太郎「麻雀の腕だけ見てもそうだろ」

京太郎「今のお前と初期のお前を見比べたら殆ど別人だぞ」

京太郎「旅館の皆だってお前の事認めてくれるようになってるし」

京太郎「最近は若女将じゃなくて、ちゃんと女将って呼んでもらえるようになったじゃないか」ポンポン

玄「…うん」




















京太郎「それにさ…まぁ」

玄「…うん?」

京太郎「…お前、綺麗になったよ」

玄「~~っ!」ボンッ

京太郎「い、いや、客観的に見て!客観的に見ての話だからな!」

京太郎「お、俺はお前と違ってちゃんと玄の事客観的に見えるし!主観的でも何でもないし!」

玄「え…あ、ぅ…っ」カァァ

京太郎「だ、だから…ほら、アレだよアレ…」

京太郎「初期の頃とくらべて…すげー大人になったよ」

京太郎「昔は可愛いって感じだったのに、今はちゃんと綺麗になってる」

京太郎「まだまだ大人の女には程遠いけどさ。それでもお前はちゃんと大人になってるよ」ナデナデ

玄「…はぅ…ん…♪」

京太郎「…って聞いてるか、玄」フニー

玄「き、聞いてるよ…っ!」

















京太郎「…で、最後に行きたいって言ったのが…」

玄「…うん。おねーちゃんが大事にしてた…この温室」

京太郎「ここ凄いよなー…他は多少、でかい建物って感じだけど」

京太郎「さらっとこんな温室あるのを見るとやっぱり阿知賀ってお嬢様校なんだなって実感するわ」

玄「ふふ…京太郎君だってそこに通ってるおぼっちゃまな癖に」

京太郎「おぼっちゃまって何時の表現だよ…」

玄「でも…ここも一年で大分変わっちゃったね」

京太郎「まぁ…入れ替えやら新しいの入れたりしてるからな」

京太郎「園芸部員が頑張ってるんだろ」

玄「…うん。そうなんだけど…でも…」

玄「…おねーちゃんと一緒にご飯食べてた時とは全然変わっちゃってるなって…」



















京太郎「…やっぱり寂しいか?」

玄「うん。勿論」

玄「…私ね、やっぱり卒業したくないよ」

玄「ここに来て…やっぱりそう思った」

玄「私の知る阿知賀が…知らない間に変わっていく」

玄「そんなのは嫌だって」

京太郎「…玄」

玄「…だけどね」

京太郎「え?」

玄「…だけど、それだけじゃないってのも…分かったの」

玄「変わっちゃったこの温室にも…私とおねーちゃんの記憶は…ちゃんと息づいてる」スッ

玄「目を閉じれば…その記憶が蘇ってくるくらいに」

玄「ここにおねーちゃんがいて…ここに私がいて…」

玄「間に京太郎君がいて…時々、憧ちゃんやしずちゃんも来て…」

玄「灼ちゃんに先生があーんされてて、京太郎君も一杯あーんされて…ふふ♪」













]

玄「…そうなんだ」

玄「私の中に阿知賀で過ごした六年間はちゃんと息づいてるんだね」

玄「記憶という形だけど…すぐさまそれを引き出せるくらいに」

玄「私にとってこの六年間はとっても素晴らしい時間だったんだ」

京太郎「…もう良いのか?」

玄「…うん。お待たせ」

玄「私…もう大丈夫だよ」

玄「私が卒業しても…私の記憶は変わらない」

玄「私の知る阿知賀は変わっても…私の記憶は消えないから」

玄「寂しいけれど、でも、辛くなんかないよ」

玄「私は…もう待つんじゃなくて…これから行く側なんだから」

京太郎「…そっか。偉いな、玄は」



















玄「…偉くなんかないよ」

玄「だっておねーちゃんも…きっと去年同じ気持ちだったはずなんだから」

玄「それを我儘言って…こうして決心するまでの時間作って貰って…」

玄「それに…」

京太郎「…ん?」

玄「きっとね、京太郎君がいなかったらこんな風には思えなかった」

玄「私…待つ事には慣れてるけれど…でも、先に行く事に慣れてる訳じゃないから」

玄「きっと内心、卒業したくないって…未練たらたらなままだったと思う」

玄「そんな私がこうして前を向く事が出来たのは…京太郎君のお陰だよ」

玄「ありがとうね、京太郎君」

京太郎「…おう。どういたしまして」

















玄「だから…ね、あの…お礼…したいんだけど」モジモジ

京太郎「お礼?」

玄「う、うん…その…ちょっと屈んでくれる?」

京太郎「ん?こうか?」スッ

玄「あ、もうちょっと小さく…うん。そのくらい」

京太郎「…ってこの位置…お前のおもちが…」

玄「…おもち?」

京太郎「いや、なんでもない。それで…」

玄「あ、うん。ちょっとまってね…少し気持ちを落ち着かせないと…」

玄「ひっひっふーひっひっふー…よし」

京太郎「(…それ違うと思うんだけど…まぁ、本人が良いみたいだし黙っておこう)」

玄「じゃ、じゃあ…その…いく…よ」

京太郎「…おう。でも…何を……!?」ムギュ








チュッ



















京太郎「…ぅ」

玄「え、えへへ…あの…今度の大会でいい結果を出せるように」

玄「祝福のキス…みたいな…あの…えっと」カァァ

京太郎「…恥ずかしがるくらいならするなよ」

玄「だ、だってぇ…」

京太郎「そもそも額のキスで何そんなに照れてるんだ」

玄「…そ、そんなの初めてだからに決まってるよ…」モジモジ

京太郎「んじゃ…仕方ないな」ギュッ

玄「ふぇ?」

京太郎「…お前の初めてに応えられるような結果を残してくるよ」

玄「…うん。絶対だよ?」

京太郎「任せろ。俺がお前の期待を裏切った事があるか?」

玄「…一回あったような…」

京太郎「あ、アレはノーカンだよノーカン」

玄「ふふ…締まらないんだから…」

京太郎「う、うっせーな」

玄「でも…そうだね」

玄「京太郎君は何時だって私の期待に応えてくれた」

玄「だから…今回もそうだよね?」

京太郎「あぁ。勿論だ」

京太郎「今回も…いや、これからずっと…」

京太郎「俺はお前の期待に応え続けてやるよ」



























【System】
松実玄の愛情度がLv5になりました
松実玄のキスにより不思議なお守りが【祝福のキス】にランクアップしました
このスキルは大会の際、コンマに+5の補正を加えます
最終更新:2014年01月30日 22:17