高校二年――2月イベント

【高校二年 ―― 2月第一週】

京太郎「(もうちょっとで俺の誕生日…かぁ)」

京太郎「(まぁ、だからって何かある訳じゃないんだけどさ)」

京太郎「(一歳年を取ったって事よりもそれを祝ってくれる人がいることの方が嬉しい)」

京太郎「(…ただ…)」

京太郎「(あぁ、そう…ただ…素直にそれを喜べないのは)」

京太郎「(今年はそこに一人…いないからなんだろう)」

京太郎「(アレから玄の返事は一切来ないままだ…)」

京太郎「(バイト先でも顔を合わせる度に逃げられて…)」

京太郎「(どうにかしたいんだけど…取り付く島もまったくない…)」

京太郎「(いや…作ろうと思えば…作れるはずなんだ)」

京太郎「(だけど、あいつから直接嫌いって言われるのが怖くて…)」

京太郎「(なんだかんだで…俺も逃げまわってるんだろう)」

京太郎「(日々の忙しさを理由にして…本当に情けない…)」

京太郎「(それに…)」














京太郎「(俺の記憶の欠落)」

京太郎「(その事に対して…憧たちに尋ねるのも決して先延ばしに出来る事じゃない)」

京太郎「(もし、俺の考え通りならともかく…そうでないならさらに疑問が生まれるんだから)」

京太郎「(正直、自分が自分でないようなその気持ち悪さは)」

京太郎「(見過ごす事なんて出来ない)」

京太郎「(大会に無駄なく打ち込む為にも…それは何とか解消しておきたいところだ)」

京太郎「(…もしかしたらこの疑念さえも何時かは消えてしまうかもしれないと思うと余計に…な)」

京太郎「(だから…俺にとって危急の案件は2つある)」

京太郎「(玄との関係を修復するか終わらせるか…)」

京太郎「(或いは…この疑問に答えを出すのか)」

京太郎「(…何れは両方しなければいけない訳だけど…)」

京太郎「(とにかく…俺が今、真っ先にするべき事は…)」



>>+2
末尾偶数:玄のところへ行く
末尾奇数:憧としずを呼び出す

































>>玄のところへ行く

京太郎「(…そうだな)」

京太郎「(確かに…俺の疑問に答えを出すのは大切な事だ)」

京太郎「(だけど…その前にやっぱりケジメはつけとかなきゃいけない)」

京太郎「(玄の事が大事だからこそ…今度こそちゃんと謝って…それで)」

京太郎「(嫌われるなら嫌われるで…ちゃんと終わらせておかないと…な)」

京太郎「(じゃないと俺、このモヤモヤ引きずったまま誕生日祝われる事になるし…)」

京太郎「(付き合いの長いあいつらならきっとすぐにバレてしまう)」

京太郎「(ま、結果次第じゃ余計に暗くなるかもしれないけど…)」

京太郎「(でも、そんな俺を慰めてくれる奴らがいるから…な)」

京太郎「(やっぱりここは玄の事を優先するべきだろう)」

京太郎「(よし。そうと決まれば着替えて準備して…)」

京太郎「(後は…)」



















【松実館】

京太郎「(さて…やってきました松実館…っと)」

京太郎「(だけど、今日はバイトでも何でもないしな)」

京太郎「(そもそも表から入ったら即座に玄にバレてしまう)」

京太郎「(普段の姿からは想像出来ないけど仕事に関するあいつはエキスパートも良いトコロなんだから)」

京太郎「(俺には分からないような何かで客の到着を感じ取るあいつに真正面から近づくなんて)」

京太郎「(自分の存在を教えるようなもんだ)」

京太郎「(ま、何れにせよ…あいつとは話をしなきゃいけない訳だけど…でも…)」

京太郎「(それより先に話しておきたい人がいて…だからこそ…)」

カチャ

宥「…あ、こんにちは、きょーくん」

京太郎「あぁ…わざわざごめんな。姉さん」



















宥「ううん。きょーくんの為だから」ニコッ

宥「それに玄ちゃんの為でもあるんならおねーちゃん幾らでも頑張っちゃうよ」グッ

京太郎「それでも…寒かっただろ?」

宥「…うん。ちょっぴり」

宥「…だから、手温めてくれる?」

京太郎「あぁ、勿論」ギュッ

宥「…ふふ…きょーくんの手…暖かくてやっぱり素敵…♥」

京太郎「姉さんの指もスベスベで気持ち良いよ」

宥「じゃあ…お揃いだね♪」

京太郎「そうだな…っと、まぁ、ここで立ち話してると姉さんが寒いし…」

宥「うん。じゃあまた何時ものところに案内するね」

京太郎「あぁ、頼む」













【松実家 ―― お茶の間】

京太郎「ふぅ…お邪魔します」

宥「はーい。遠慮しないでくつろいでね」

京太郎「ま、あんまりダラダラしてられない訳だけど…」

宥「大丈夫だよ、玄ちゃんは当分、お仕事に忙しいから」コポコポ

宥「はい。これきょーくんの」スッ

京太郎「あぁ、ありがとうな」

京太郎「はー…温まる」

宥「2月だもんね、お外寒いし…」ブルッ

京太郎「そうだな。でも、最近、姉さんも頑張ってるらしいじゃないか」

宥「えへへ…♪…ってもしかしてやえちゃん?」

京太郎「あぁ。やえさんも褒めててぞ」

宥「な、なんだか恥ずかしいな…」テレテレ

京太郎「はは。でも、冬でもちゃんとやれてるようで安心したよ」

宥「うん。だって…私には大事な弟と妹がいるもの」ニコッ

宥「何時までも…格好悪いところなんて見せられないよ」グッ


















京太郎「姉さんが格好悪かったところなんてないっての」

宥「それでも…そろそろ独り立ちしないと…ね」

宥「何時までも玄ちゃんやきょーくんに甘えてる訳には…ってこれも前言ったっけ」

京太郎「おう。でも、まぁ…俺にはもうちょっと甘えても良いんだぞ」

宥「ふふ…じゃあ…こっち来てくれる?」

京太郎「おう」ススッ

宥「…えいっ♪」キュッ

京太郎「って…ね、姉さん」

宥「ごめんね、やっぱりおコタよりもきょーくんの手の方が気持ち良くって…」

京太郎「いや、俺は構わないけど…でも…」

宥「でも?」

京太郎「か、顔近くないか?」カァァ

宥「…ふふ、きょーくんの顔とっても暖かそうになってる…♪」スリスリ

京太郎「うあ…っ」ビクッ

















京太郎「ね…姉さん…そんな顔スリスリするの反則…」

宥「あ…ご、ごめん…嫌だった…?」スッ

京太郎「いや…嫌じゃないんだけど…でも…なんつーかスベスベで気持ち良かったというか…興奮するって言うか…」

宥「じゃあ…もっと…する?」ウワメヅカイ

京太郎「い、いや…今は遠慮しとくよ。それより…」

宥「…うん。それより今は玄ちゃんの事だよね」

京太郎「…あぁ。それで確認なんだけど、そっちでの玄はどうだ?」

宥「やっぱり元気ないみたい」

宥「何時も以上に細かいミスも多くて玄ちゃんらしくないって声も結構あるよ」

宥「心配して休んでって言っても、玄ちゃんすぐお仕事しなきゃってなっちゃうから…」

京太郎「そ…か。やっぱり弊害は出てるんだな…悪い」

宥「ううん。良いよ。それで…何があったの?」

京太郎「…実は…」
















宥「…連絡するって言って何も返さなかった?」

京太郎「…あぁ…あいつきっと楽しみに待ってただろうに…俺…」

宥「…本当にそれだけ?」

京太郎「え?」

宥「…だって、私が知るかぎり、玄ちゃんの様子がおかしくなったのは…」

宥「玄ちゃんが電話してすぐの事だよ」

京太郎「…そう…なのか?」

宥「うん。その時、玄ちゃんもここに居て、私におミカン剥いてくれてたから…」ハッ

宥「…あ、ごめん。今の聞かなかった事にして」カァァ

京太郎「はは。じゃあ、姉さんにミカン剥いてやるよ」

宥「ぅー…きょーくんのいじわる…」

京太郎「はい。ほら、筋取ってから…あーん」

宥「…あーん」パクッ













京太郎「…でも、その他に何かって言ったら思いつかないんだよな」ムキムキ

宥「んぐ…じゃあ…その電話中何があったの?」

京太郎「えっと…確か玄から電話かかってきて」

京太郎「それで…えっと憧に悪戯されて」

宥「悪戯?」

京太郎「胸触ったりとか…耳たぶ噛まれたりとか…」

宥「わわ…っ」カァァ

京太郎「い、一応、俺は止めようとしたんだぞ?」

宥「う、うん…解ってるよ…」

宥「でも…憧ちゃんとっても大胆…」ドキドキ

宥「って違った。それで…どうしたの?」

京太郎「えっと、憧としずといるからまた折り返して電話するって」

宥「…そっか」

京太郎「…もしかしてダメだった?」

宥「…うーん…ダメなんかじゃないよ」















宥「ただ、玄ちゃんの気持ち考えると残酷ではあったかも…」

京太郎「そう…なのか?」

宥「…うん。玄ちゃんだって…何も感じない朴念仁じゃないんだから」

宥「きょーくん誘うのだって多分、すっごい勇気出したんだよ」

京太郎「…そっか。じゃあ…俺、やっぱり…」

宥「でも、電話返さなかったりは問題じゃないよ」

京太郎「え…?」

宥「…勿論、酷いとは思うけどそれには理由があったんだろうし」

宥「長い付き合いなんだから…玄ちゃんだってそれを理解してると思うよ」

京太郎「じゃあ…俺はどうするべきだったんだ?」

宥「…どうにも出来なかったんじゃないかな」

京太郎「…出来ないって…」

宥「きょーくんの答えは決してダメじゃない」

宥「だからこそ残酷で…どうにも出来なかったんだよ」














京太郎「…悪い。俺にはちょっと難しすぎて分からない」

宥「うん…きょーくんにはちょっと難しいよね」

宥「でも…とりあえず今回の件はきょーくんはそんなに悪くないよ」

宥「だからこそ、玄ちゃんもメール返せなかったんだろうし」

京太郎「でも…」

宥「問題は玄ちゃんの方にあるから…おねーちゃんに任せておいて?」

京太郎「…本当に良いのか?」

宥「うん。大丈夫だよ。ただ、きょーくんはそれが終わった後…」


トテトテ


京太郎「~っ!」ビクッ

宥「あ…もしかして玄ちゃんかも…」

京太郎「え…ちょ…どうしよ俺…」

宥「と…とりあえず隠れなきゃ…!」

京太郎「か、隠れるってどこに」

宥「えっとえっと…こ、ここ!」

京太郎「え…いや、でも…」

宥「お願い…早く…」

京太郎「ぅ…ご、ごめん!姉さん…!」バッ














シュルル

玄「はふぅ…」

宥「お、おかえりなさい」

玄「ただいまおねーちゃ…ってあれ?」

宥「ど、どうかしたの?」

玄「…いや、湯のみが2つ出てるから…お客さん来てたの?」

宥「あ、う、うん。さっきまでやえちゃんが…」

玄「そうなんだ…あ、私もコタツ入って良い?」

宥「えっ?」

玄「えっ?」

宥「あ、う、うん。良いよ。大丈夫」

玄「…??じゃあ…お邪魔しまーす」スルスル











京太郎「」ビックゥ

宥「(ごめん…きょーくん…もうちょっと我慢して…)」

宥「え、えっと…それで玄ちゃんはどうして…?」

玄「あ…実は…また今日も失敗しちゃって…」シュン

玄「もう良いから…帰って休めって言われて…」ジワッ

宥「…玄ちゃん…」

玄「…ごめんね…私、ちゃんとお仕事出来なくて…」

玄「お客様にも皆にも迷惑掛けて…」

宥「…そんな事ないよ」スッ

玄「ぅ…」

宥「玄ちゃんがとっても頑張り屋なのは皆知ってるんだから」

宥「最近はちょっと調子が悪いだけでしょ?」

玄「…でも」

宥「それとも何か原因があるの?」

宥「それなら…おねーちゃんに話してくれないかな?」













玄「…ごめん。言えない…」

宥「…そっか」

玄「…ごめんなさい、おねーちゃん…でも、私…」グッ

宥「それはきょーくんの事だから言えないんだよね?」

玄「~~っ!」ビクッ

宥「…やっぱりそうなんだ」

玄「ち、違うよ。き、京太郎君は何も関係なくて…」

宥「じゃあ、どうしてきょーくんの事避けてるの?」

玄「それ…は…」

宥「きょーくんも傷ついてたよ」

宥「返事がないから…嫌われたかもしれないって」

玄「…ぅ…」














宥「玄ちゃんは無関係の人を避けたりするような悪い子じゃないよね?」

玄「う…でも…でも…!」

宥「…ね、おねーちゃんに話してみない?」

宥「もしかしたら…私、力になれるかもしれないし…」

宥「私からきょーくんに言いたい事伝える事だって…」

玄「っ!…おねーちゃんには関係ないよ!」

宥「…」

玄「…あ」

玄「…ご、ごめんなさい。私…こんな八つ当たり…」

宥「本当にそれは八つ当たりなの?」

玄「え…?」

宥「…それが玄ちゃんの本心じゃないのかな?」

玄「そ、そんな事…」













宥「…じゃあ、どうして?」

玄「…え?」

宥「…どうして玄ちゃんは私にきょーくんを譲るような真似をするの?」

玄「そ…それは…だって…」

玄「おねーちゃん…きょーくんの事…」

宥「うん。好きだよ」

玄「…っ…」グッ

宥「でも…それは玄ちゃんも同じでしょ?」

玄「…わ、私は…!」

宥「ううん。好きにならないはず…ないよね」

宥「私よりも…きょーくんは玄ちゃんの側に居てくれたんだから」

玄「そ、そんな事…ないよ」

玄「私…京太郎君の事なんか…何とも思ってない…から」













宥「じゃあ、何とも思ってない人とどうして学園祭を一緒に回るの?」

玄「それは…」

宥「どうして…私じゃなくて自分からクリスマスに誘ったの?」

玄「だって…」

宥「どうして…きょーくんの事…今更避けるの?」

玄「…私…は」

宥「…それは全部、玄ちゃんがきょーくんの事好きだからでしょ」

玄「わ、私は…」

宥「…ね、おねーちゃんに本当の事を教えて?」

宥「そのくらいで…私は玄ちゃんの事嫌いにならないから」

宥「世界でたった二人だけの姉妹なんだもの」

宥「だから…おねーちゃんにだけ…玄ちゃんの秘密教えてくれないかな?」

玄「私…」












玄「私…分からない…よ」

玄「だって…京太郎君の事…ずっとお友達だと思ってて…」

玄「一番、仲の良い男の人で…頼りがいがあって…」

玄「優しくて…一杯…色んな事してあげたくなって…」

玄「少しずつ…一緒にいると胸がドキドキして…」

玄「京太郎くんと一緒にお仕事すると…とても楽しくて…」

玄「ずっとずっと一緒にいたいって思って…私…」

宥「…玄ちゃん」

玄「…私…どうして…?」ポロ

玄「どうして…こんなに京太郎君の事…好きになっちゃったの…?」

玄「京太郎君の事…好きな人は沢山いて…」

玄「おねーちゃんだって…しずちゃんだって…京太郎君の事大好きなのに…」

玄「なんで私まで…こんなに好きになっちゃったのかな…」














京太郎「…」ピクッ

宥「…だから、遠慮してたの?」

玄「だって…だって…」

玄「私…皆の事大事だもん…」

玄「京太郎君の事も…大好きだけど…」

玄「でも…おねーちゃんや皆と傷つけあうしかないなら…私…」

玄「…最初からリタイアして…おねーちゃんの事応援してた方が一番だって…」

宥「誰がそんな事決めたの?」

玄「え?」

宥「…誰がそんな風に気持ち押し殺して…表面上だけ応援して欲しいって言ったの?」

玄「そ、それは…」

宥「…違うでしょ。玄ちゃんは…私の事応援してたんじゃないの」

宥「それは言い訳で…ただ玄ちゃんは逃げただけ」

宥「きょーくんからも私からも…言い訳して…自己完結して」

宥「ぶつかる事すら避けて…ただただ逃げ出しただけなんだよ」

玄「…そんな事…!」














宥「じゃあ…私が応援して欲しいってそう言った?」

玄「それは…」

宥「玄ちゃんにきょーくんが欲しいから諦めてくれってそう言ったの?」

玄「…違う…けど」

玄「でも…私…そうするのが一番だって…」

宥「…私は嫌だよ」

玄「…え?」

宥「そんな風に玄ちゃんが我慢するなんて絶対に嫌」

玄「だけど…仕方ないよ…」

玄「京太郎君は一人だけしかいないんだから…っ!」

玄「京太郎君に選んで貰えるのは一人だけで…他の皆は我慢するしかないから…」

宥「…どうして?」

玄「え?」

宥「どうしてきょーくんに選んでもらえるのは一人だけなの?」

玄「だ、だって…法律とか…」













宥「玄ちゃんはきょーくんと結婚するだけで満足なの?」

玄「え?」

宥「じゃあ…玄ちゃんときょーくんは入籍だけしてね」

宥「私はきょーくんと一緒に幸せな家庭を別に築くから」

玄「そ、そんな…」

宥「…嫌でしょ?」

玄「え?」

宥「結婚なんてしても…心がなければただの虚ろな枠組みというだけ」

宥「じゃあ…そういうのをせずに皆一緒に暮らせばそれで良いんじゃないの?」

玄「そんなの…出来っこないよ…」

玄「私…この前のクリスマスの時に…分かったんだもん」

玄「私…諦めるとか…何だとか言いながら…全然、諦められてなかった」

玄「おねーちゃんの言う通り未練一杯で…私…憧ちゃんやしずちゃんに嫉妬してた…っ!」グッ

玄「そんな私が…皆と一緒なんて…」












宥「そんなの皆同じだよ」

玄「え?」

宥「私だって玄ちゃんに嫉妬してるし…きっと憧ちゃんや穏乃ちゃんだって同じだよ」

宥「ううん…もっと言えば灼ちゃんややえちゃんだって…必ず誰かに嫉妬してる」

宥「でも、私達は今まで上手くやれてたよね?」

玄「…それは…」

宥「もう二年前になるけど…阿知賀の皆でインターハイに出た時…」

宥「皆で一人の目標に向かって力を合わせていたのは決して嘘じゃなかったでしょう?」

玄「…うん」

玄「皆…仲良くやれた…よ」

宥「じゃあ…それをずっと続けていけば…誰も傷つかずにすむんじゃないかな?」

玄「…出来るの…?そんな事」

宥「出来るの…じゃないよ」

宥「するんだよ、私たちの手で…」ギュッ

玄「…あ」











宥「勿論、障害は一杯あるよ」

宥「もしかしたら…誰か一人選ばれるよりも辛い事になるかもしれない」

宥「後悔するような…酷い道のりなのかもしれない」

宥「だけど…それでも…私は玄ちゃんと一緒が良い」

玄「…え?」

宥「玄ちゃんが悲しんでいるのに…私だけ幸せになんてなれない」

宥「…ううん。私が幸せになるのに…玄ちゃんも必要不可欠なんだよ」

玄「…おねーちゃん…」

宥「玄ちゃんもきょーくんも…私は欲しい」

宥「ずっとずっと…あの幸せだった阿知賀の世界が続くように…」

玄「…おねーちゃん…私…」

宥「多分…私が言っているのはおかしい事なんだと思う」

宥「世間の常識で言えば、玄ちゃんの方が正しいよ」

宥「でも…それでも…私は出来れば玄ちゃんも協力してほしいな」

玄「きょうりょく…?」

宥「…うん。皆で幸せになる為に…皆で暖かくなる為に」スッ

宥「今の玄ちゃんみたいに…もう誰も泣かなくてすむように…ね」ナデナデ












玄「…良いのかな?そんな事しちゃって…」

宥「多分…ダメだろうね」

宥「でも…もし、ダメだったとしても…良く考えてみて」

宥「他の子が一人一人で勝負するのに対して…私達が力を合わせれば二倍だよ」

玄「…あ」

宥「選ばれる確率も二倍になる事を考えれば…ざっと四倍になっちゃう」フフッ

玄「…よ、四倍…!?す、凄い…」

宥「でしょ?四倍ってかなり大きいよ」

宥「選ばれる確率が25%なら100%になっちゃうんだから」

玄「ひゃ…100%…」ゴクッ

宥「…ね、玄ちゃん」

玄「…うん。私…やるよ」

玄「おねーちゃんと一緒に…京太郎君と…幸せになる」

玄「三人で…出来れば皆で…ずっとずっと一緒にいる為に…」

宥「…そう。ありがとう、玄ちゃん」ナデナデ

玄「えへへ…」♪















宥「じゃ、まずはその為に玄ちゃんにお願いしたい事があるんだけど…」

玄「え?何かな…?」

宥「…とりあえずコタツめくってくれる?」

玄「…コタツ?」パサ

京太郎「……」

玄「……」

京太郎「…よ、よぅ」

玄「……」

玄「……」

玄「…………」

玄「きゅぅ」コテン

京太郎「く、玄…!?大丈夫か?」
















玄「ぅーん…うぅーん…」

玄「はっ…」

京太郎「…よう。起きたか?」

玄「…あ、京太郎君…」

玄「…あれ?なんで私の部屋に…」

京太郎「あー…まぁ、色々あったんだよ、色々」

玄「色々…?」

京太郎「ま、まぁ…とりあえず気にすんな。それより…」

玄「…んぅ…?」

京太郎「気分悪くないか?」

玄「…うん。京太郎君の膝枕…気持ち良い…」

京太郎「そ、そっか。良かった」

玄「…ね、京太郎君」

京太郎「…ん?」

玄「…ごめんね。私…京太郎君の事避けたりして…」

京太郎「いや…当然だろ」

京太郎「俺は玄の気持ちなんて全然、考えてなかった」

京太郎「避けられて当然だったんだよ」




















玄「そんな事…ないよ」

玄「私が…私が悪いの」

玄「私…京太郎君からもおねーちゃんからも逃げて…」

玄「まったく…何も向きあおうとしてなかったんだから」

京太郎「…玄」

玄「…うん…やっぱり…おねーちゃんの言うとおりだった」

玄「私…やっぱり京太郎君の事…諦められないよ…」

京太郎「…良いのかよ、俺なんかで」

玄「…なんかじゃない…よ」

玄「…私…京太郎君が良いの」

玄「ううん…私だけじゃなく…おねーちゃんも…他の皆も」

京太郎「…そんなに価値のある男じゃねぇぞ」

玄「価値なんて…自分じゃなくて他人が決めるんでしょ…?」

玄「…京太郎が私に言ってくれた言葉だよ…?」

京太郎「…良く覚えてるなお前」

玄「だって…これは私にとって特別なものなんだから…」ギュッ

















玄「私…この言葉があったからこそここまでこれたんだよ…?」

玄「ううん…この言葉だけじゃなくって…京太郎君がくれた言葉全部が私にとっては特別」

玄「私の事を何時だって元気づけて…引っ張り続けてくれたんだから」

京太郎「…そっか。ホント…冗談抜きで光栄な話だよ」ナデナデ

玄「んへ…ぇ♪」

京太郎「…でもさ。悪いけど…俺にはまだお前の気持ちに応える資格なんてない」

京太郎「分かるんだ…今も俺の中で…どんどん何かが奪われていっているのがさ…」

京太郎「きっとお前とこうしている記憶だって…俺の中から何れ消えてしまう」

京太郎「そんな状態で…お前の想いに…いや、宥さんの想いにも応える訳にはいかない」

京太郎「今でも俺は最低のクズ野郎だけど…でも、それ以下になりたい訳じゃないんだ」

玄「…京太郎君…」

京太郎「だから…約束する」

京太郎「俺は…必ずこの異常を治してみせる」

京太郎「遠くない内に…必ずこれを治して…それで…」

京太郎「…お前にも宥さんにも…向き合うよ」
















玄「ふふ…」

京太郎「ん?」

玄「…京太郎君、今、凄い格好良いよ」

京太郎「そうか?答えを先延ばしにして…かなり最低な事言ってるけど」

玄「そうじゃなくて…顔が…ね」スッ

京太郎「ぅ」

玄「…京太郎君ってこんな優しい顔…してたんだね」

京太郎「…見惚れたか?」

玄「ううん…惚れなおしちゃった」

京太郎「…お前な」

玄「えへへ…嫌だった?」

京太郎「…嫌なもんかよ」

玄「じゃあ…私にも脈はあるのかな…?」

京太郎「…あったりまえだろ。じゃなきゃ…こんなに優しくしたりしねぇって」

玄「ふふ…♪嬉しい…でも…」

京太郎「…ん?」

















玄「…京太郎君が優しくするのって私だけじゃないよね」

京太郎「ぅ」

玄「…他にも一杯、優しくしてる子…いるよね」

京太郎「そ、それはだな…あの…」

玄「…下心一杯なんだ…京太郎君のスケベ…」

京太郎「…ごめん」

玄「ううん…良いよ。だって…」

京太郎「…ん?」

玄「その子たち皆説得すれば…私たち幸せになれるんだもんね…?」

京太郎「…幸せかどうかは分かんないぞ」

玄「でも、京太郎君はちゃんと責任取ろうとしてくれるでしょう?」

京太郎「…それ…は」

玄「…分かってるよ。京太郎君がそういうの見過ごせない人だって」

玄「だからね…だから…私、おねーちゃんと一緒に…おかしくなるから」

京太郎「…え?」

玄「京太郎君が元に戻るまでの間に…もう私たちの事しか見られないように」

玄「京太郎君にとって都合の良い世界を…おねーちゃんと一緒に作ってあげる」

玄「京太郎君が誰を選ばなくても良いように…皆を選べるような状況を…おねーちゃんと一緒に」

京太郎「玄…それは…」

玄「でも…でも、もし、それが失敗して…出来なかったら」

玄「…おかしくなった私たちと一緒に…堕ちてくれる?」

















京太郎「って…お前な…それほどんと脅迫みたいなもんじゃねぇか」

玄「ううん、お願い…だよ」

玄「おねーちゃんも私も強制なんてしない」

玄「選ばれるのを待つだけの側なんだから」

玄「…でもね、もう待ってるだけは辛いの」

玄「ただ待ってるだけで…何もしないなんてもう私には出来ないから…」

京太郎「…で、それを聞いて俺が拒めないって分かってて言ってるんだろ?」

玄「えへへ…ごめんね」

京太郎「謝るくらいなら最初っからやるなよ…ったく」

京太郎「…でもさ。もし…もし、お前の言うとおり…宥さんとおかしくなって」

京太郎「二人とも俺の事なしじゃ生きていけないっていうんなら…」

京太郎「ちゃんと責任は取ってやるよ」

玄「…本当?」

京太郎「そう言わせる為に脅迫めいた事言ってたんだろ…」ナデナデ

玄「ん…でも…」

京太郎「…良いから少し眠れよ」

京太郎「宥さんから聞いたぞ、最近、寝不足だって」

















玄「う…ん。京太郎君の事が気になって眠れなくて…」

京太郎「乙女かお前は」

玄「えへへ…恋する乙女だよ…?」

京太郎「はいはい…ったく、俺みたいな奴に惚れやがって」ポンポン

玄「惚れさせたのは京太郎君だよ?」

京太郎「昔の俺をぶん殴ってでも止めたい気分だよ」

玄「ぅ…ひっどーい…」

京太郎「ま、責任取って…今はちゃんと側に居てやるからさ」

玄「…じゃあ…お願いがあるんだけど…」

京太郎「ん?」

玄「…私の事…抱いて欲しい…な」カァ

京太郎「…は?」















玄「あ、あの…抱き枕とかあると安眠するって憧ちゃんが言ってて…」

京太郎「あ、あぁ…そっちか」

玄「え?」

京太郎「いや…なんでもない。それくらいならお安い御用だよ」ギュッ

玄「ふぁ…♪」

京太郎「…どうだ?少しは眠くなったか?」

玄「…うん。とっても…ポカポカして…」ウトト

京太郎「良いから…そのまま寝とけ」

玄「…うん。でも…京太郎君…」

京太郎「ん?」

玄「…起きた時…側にいてくれるよね?」

京太郎「…折角だしアフターサービスとして請け負ってやるよ」

玄「…ふふ…♪ありがとう。京太郎君。それとね…」

玄「…だぁいすき…♥」

京太郎「…おう。俺も玄の事好きだぞ」


















宥「…どう?玄ちゃん眠っちゃった?」

京太郎「あぁ。ぐっすりだ」

宥「…結局、最後まで私の事気づいてくれなかったね」

京太郎「ま、寝ぼけてたんだろ。最初から最後まで眠そうにしてたし」

京太郎「…でさ」

宥「なぁに?」

京太郎「…姉さんはそれで良いのか?」

宥「さっき言ったのが私の本心だよ?」

京太郎「…でも、なんでそんな事を…」

宥「何時も私の事を甲斐甲斐しくお世話して頑張ってくれてる妹と一緒に幸せになりたいっていうのは…そんなにいけない事?」

京太郎「…いけなくはないだろ。でも…倫理的におかしいとは言われるし…」

宥「でも、その倫理で玄ちゃんが泣いてるなら…そんなもの邪魔じゃないかな?」

京太郎「…俺、今、初めて姉さんの事怖いと思ったよ」

宥「ふふ…でも…嫌いじゃないんだよね?」

宥「今もこうして私の手…握ってくれているんだから…♪」

京太郎「…まぁ…な」
















京太郎「…結局のところさ」

宥「うん?」

京太郎「…俺にあまりに都合が良すぎて現実味が沸かないってのが正直なトコロなんだよ」

宥「…でも…これは現実だよ」

京太郎「…なんだよな…さっき頬つねったけど…夢じゃないんだよな」ハァ

宥「…嫌?」

京太郎「…嫌じゃないから困ってるんだよ」

京太郎「こんな美人姉妹が俺の事好きな上にハーレム作ってくれるとか…あり得ないだろ」

宥「…そう?」

京太郎「今どき、ゲームでもこんな都合の良すぎる設定ないと思うぞ」

宥「…でも、事実は小説よりも奇なりって言うよ?」

京太郎「今まさにそれを実感してるところなんだよ…はぁ」

宥「…きょーくん?」

京太郎「…もう良い。姉さんも…ほら、こっち来いよ」グイッ

宥「ん…♪強引…♪」

京太郎「さっきから一人ベッドの外で寒そうにしてるからな」

宥「…そういうところがいけないんだよ?」

宥「そういう事されるから私も玄ちゃんもきょーくんの事大好きになっちゃうんだから」スッ

















京太郎「それなら…もっと大好きになってくれ」

宥「…良いの?」

京太郎「寧ろ、ここで捨てられる方が俺は怖いよ」

京太郎「こんなに好いてくれてる二人に何をしたんだろうかって延々悩み続ける事になりそうだし」

宥「…ふふ。きょーくんって…ちょっぴり臆病なんだね♥」

京太郎「身に覚えがないくらいに好かれてたら誰だってこうなるっての」

京太郎「…唐突に好かれた分、唐突に嫌われるんじゃないかって…さ」

宥「そんな事ないのに」

宥「そもそも…私も玄ちゃんも昨日今日できょーくんの事好きになった訳じゃないんだから」

宥「きょーくんと会ってもう五年間…少しずつ好きになって…そして今があるんだからね」ナデナデ

京太郎「…そっか」

宥「…うん。だから、安心して良いよ?」

宥「私も玄ちゃんも…京太郎君の事嫌いになったりしない」

宥「ずっとずっと…側にいてあげるから…」

京太郎「…と言うか寧ろ逃してもらえなさそうなんだけどな」

宥「ううん。そんな事ないよ?」

宥「逃げても良いよ…?ただ…」

宥「…そんな事も考えられないくらいに…きょーくんの事骨抜きにしてあげる…♥」































【System】
松実玄の愛情度がLv4になりました
松実玄は寝ぼけていて何を言ったか殆ど忘れたようです

松実宥の愛情度がLv4になりました
松実宥は妹と一緒に一日、須賀京太郎を独占出来て満足したようです
最終更新:2014年01月30日 21:57