高校二年――4月灼イベント

【高校二年 ―― 4月第一週】

京太郎「(…って事で俺ももう高校二年生になった)」

京太郎「(とは言っても…憧やしず、αβもクラスは一緒だし)」

京太郎「(何か変わった感は正直ない)」

京太郎「(二年生としての生活は始まったばかりだし…)」

京太郎「(麻雀部にもまだ後輩は入ってきていないんだから)」

京太郎「(ま、これから後輩が増えればまたそれも変わるだろうし)」

京太郎「(後輩の指導って意味じゃ、今までもやってきてる)」

京太郎「(環境そのものは大きく変化するだろうけど…それ事態は慣れてるし)」

京太郎「(自分の事よりも気にするべきは初めて教える側になるであろうしずの事だな)」

京太郎「(実家で似たような事をやってる玄や灼とは違って初めての経験だろうし)」

京太郎「(しずの事はちゃんと見ててやらないと)」

京太郎「(…ただ、今日のところは…俺が見てて貰う事になるんだけど)」














京太郎「(調べた限り…俺の症状を相談するには精神科が良いらしい)」

京太郎「(身体の異常って程、はっきりとした疾患がある訳じゃないし)」

京太郎「(記憶を失うっていうのは精神科のカバーする精神障害になるそうだ)」

京太郎「(…一応、電話で予約した時にもそれで良いって言われたし)」

京太郎「(多分、間違ってはないんだろう)」

京太郎「(でも…やっぱり…行きたくないな)」

京太郎「(まぁ…この期に及んで何を言ってるんだって話だけどさ)」

京太郎「(もし、入院とかになったらどうしよう…とかそんな事ばかり考えてしまう)」

京太郎「(だけど…俺はこの所為で…きっと誰かの事を傷つけていて)」

京太郎「(俺の知らないところで酷い事をしてるかもしれないんだ)」

京太郎「(それを解消する為にも…ちゃんと行っとかないと…な)」

京太郎「(折角、灼にも付き合って貰うんだし…いまさら、逃げる事は出来ない)」

京太郎「(…ただ…あいつ遅いな)」

京太郎「(もう待ち合わせの時間過ぎてるのに…)」

京太郎「(待ち合わせ場所に来ないどころか連絡すらないなんて)」

京太郎「(今までそんな事なかったのに…)」













灼「…っ!ごめんなさい…!」

京太郎「…お、灼」

京太郎「…って大丈夫か?汗びっしょりだぞ?」

灼「う…家から…はぁ、ここまで…ずっと走ってきたから…」ハァ

京太郎「走ったって…ここから実家までかなりの距離があるぞおい…」

灼「でも…遅刻しちゃダメだと思って…」

京太郎「お前が理由なしに遅刻するなんて思ってねぇよ」

京太郎「それより…ほら、ハンカチ貸してやるから汗拭いとけ」

灼「…ごめんね」

京太郎「良いよ。それと…飲み物は何が良い?喉乾いてるだろ」

灼「でも、予約の時間…」

京太郎「そんなもんよりお前の体調の方が大事だっての」

京太郎「だから、ちょっと休憩だ」

京太郎「ま、幸いにして座る場所はあるし…ゆっくりしとけ」

灼「あ…」










京太郎「…どうだ?少しは落ち着いたか?」

灼「…うん。ありがとう」

京太郎「ま、今日は俺が付き合って貰う側だからさ」

京太郎「これくらい当然だろ」

灼「…ホント、ごめんね…遅刻しちゃって…」

京太郎「いや、俺は構わないけどさ。でも、何かあったのか?」

京太郎「用事があるなら…そっち優先しても良いんだぞ」

京太郎「別に俺の方はお前がいなきゃいけないって訳じゃないんだし」

灼「ううん。大丈夫。ただ…」

京太郎「ただ?」

灼「バイトの子が一人風邪で休んじゃって…その分の穴埋めしてたら…時間過ぎちゃって…」シュン

京太郎「あー…それなら無理して来なくても良かったんだぞ?」

京太郎「メール一本入れてくれれば別に俺一人で…」











灼「精神科ってだけで二の足踏んでた京太郎が本当に一人で行くか心配だし」

京太郎「う…み、見くびるなよ」

京太郎「男が一度、決めた以上、二の足踏むかっての」

灼「私に泣きついてた癖に…そんな事言っても説得力ないし…」

京太郎「な、泣きついてなんかねえよ!」

灼「ふふ…でも…まぁ、それだけじゃないの」

灼「私自身…どうしても心配だったから…」

灼「京太郎の付き添いがしたい…それじゃダメ?」

京太郎「…いや、ダメって訳じゃねぇよ」

京太郎「と言うか…正直…灼が来てくれて嬉しい」

京太郎「怖いって訳じゃないし…二の足踏んだりしないけど…でも」

灼「…でも?」

京太郎「…やっぱ良いや」

灼「…え?」

京太郎「(…言えるかよ、お前とならきっとそれも乗り越えれる…なんて…情けない事…)」











【精神科】

京太郎「(って事で一緒に来た訳だけど)」

京太郎「(…なんつーか思ったより綺麗で普通のところだった)」

京太郎「(待合室に並んでる人も見るからに病んでるって人少ないし)」

京太郎「(診療所の中も清潔感があって、普通の病院よりも過ごしやすい)」

京太郎「(少なくとも俺のイメージしてた精神科とは似ても似つかないのは確かだ)」

京太郎「(…ただ、なんでだろうな)」

京太郎「(暑いってほどじゃないんだけど、結構、暖房ガンガン掛かって…)」

京太郎「(身体が大分、温まってるのが分かる)」

京太郎「(…お陰で…緊張で昨日眠れなかったのもあって…眠くなってしまう…)」

京太郎「(…でも)」

灼「……」ウツラ…ウツラ

京太郎「(…こいつに比べりゃ…マシだよな)」











京太郎「…やっぱりおまえ眠いんだろ」

灼「ん…眠くない…よ」

京太郎「その割には目が半眼気味になってるぞ」

灼「…私。生まれつき無愛想だから…」

京太郎「無愛想ってほど無愛想じゃないと思うけどな…」

京太郎「…ま、とにかく、俺に寄りかかって良いからさ」

灼「…でも…」

京太郎「大丈夫。その程度で負担に思うような仲じゃないだろ」

灼「…う…ん。じゃあ…」スッ

灼「…少しだけ…肩貸して…ね」

京太郎「おう。ゆっくり休んで良いからな」

京太郎「(…やっぱりこいつ…疲れてるんだな)」

京太郎「(バイトが風邪って事は当日急に入ったんだろうし)」

京太郎「(俺との予定にブッキングしないように…必死になって仕事を終わらそうとしたはずだ)」

京太郎「(…その上、汗だくになるまで走ってきたんだから…疲れるよな)」

京太郎「(元々、こいつは小柄で…そんなに体力ある方じゃないんだ)」

京太郎「(…そんなの自分で分かってるだろうに…無茶しすぎなんだよ…馬鹿)」ナデナデ












「須賀さーん。須賀京太郎さーん」

京太郎「…っと…」

京太郎「(…呼ばれたか…でも…灼の奴に肩を貸しているし…どうしよう…)」

灼「良いよ…行って…」

京太郎「…でも」

灼「大丈夫…一人で待つ事くらい…出来るから」

灼「『良い子』に…してるよ」

京太郎「…分かった。じゃあ…少しだけ…行ってくるから」

京太郎「すぐに帰ってくるし…ほんのすこしだけ待っててくれ」スッ

灼「…うん…」ニコッ

「…お連れ様、大丈夫ですか?」

京太郎「えぇ。ちょっと疲れてるみたいなんで」

京太郎「ただ、心配なんてたまに見ていてやって貰えませんか?」

「はい。分かりました。では…こちらへどうぞ」











「やぁ、こんにちは」

京太郎「…はい。今日はよろしくおねがいします」


………


……





「…はい。じゃあ、今日はこんなところにしようか」

京太郎「はい。それで…その…」

「…申し訳ないが…まだはっきりとは分からない」

「精神的疾患は決して目に見えるものではないし、また意識の表層に出てこないものも多いからね」

「ただ…個人的な事を言えば、君にそのような精神的疾患はないような気がする」

京太郎「…そう…ですか」シュン

「まぁ、ただ、問題があるのは確かだろうから…不安ならまた二週間後に来て欲しい」

「精神安定剤や睡眠薬の類であれば処方箋も出すからね」

「診察代も割引するし…相談に来るつもりくらいで構わないから」

京太郎「…はい。ありがとうございます」










京太郎「あら…」

灼「…すぅ…くぅ…」

京太郎「…あれ?」

「すみません…お連れ様眠っちゃったみたいで…」

京太郎「…あ、いえ、こちらこそソファー占領してすみません」

京太郎「それとタオルケット…ありがとうございます」

「いえ、それくらいしかしてあげられなくてごめんなさい」

「それで本日はお車か何かですか?」

京太郎「いや、今日は親も忙しくて…」

「そうですか…お連れ様どうしましょう…」

京太郎「まぁ…背負って帰りますよ」

「大丈夫ですか?」

京太郎「大丈夫ですよ。こいつ軽いんで家までくらいならちゃんと連れ帰ってやれますし」











【帰路】

灼「ん…ぅ…」スヤー

京太郎「…まったく…」

京太郎「(待ちきれなくて眠っちゃうとか…子どもかよ)」

京太郎「(…そんなに疲れてるなら疲れてるってはっきり言えば良いのに)」

京太郎「(人の世話は進んで焼くくせに…甘えなさ過ぎなんだよ…お前はさ)」

京太郎「(お陰で俺の方に借りばっかり溜まっていくだろ)」

京太郎「(今日の事だってそうだし…中学の時だって…)」

京太郎「(お前に俺は何度も助けられたんだからさ)」

京太郎「(それを…俺は少しでも返したいってのに…意地張って)」

京太郎「(俺の事を…助けようとしてくれて)」

京太郎「(…普段は嫌ってほどからかってくる癖に…良い奴過ぎるんだよお前は)」

京太郎「(それが灼らしさだって分かってるけど…でも、俺は…)」

「あら…」

京太郎「ん?」











「…確か須賀君だったかしら…?」

京太郎「えっと…灼のお祖母さん…」

「こんにちは。奇遇ね」

京太郎「えぇ。そちらはお散歩か何かですか?」

「えぇ。お買い物ついでにお散歩しようと思って」

「それで…あの、後ろの灼ちゃんは…」

京太郎「すみません。俺の用事に付きあわせて…途中で眠っちゃったみたいで」

「そうなの」

「…なるほど。昨日、夜遅くまでいんたーねっとしてると思ったら…そういう事だったのね」クスッ

京太郎「え?」

「なんでもないわ。それより…よければ晩ご飯食べていかないかしら?」

京太郎「…良いんですか?」

「えぇ。折角、ここまで灼ちゃんを運んできてくれたんだし…ね」









【鷺森家】

京太郎「お邪魔します…っと」

「はい。じゃあ、この布団に載せてあげてね」スッ

京太郎「あ、ありがとうございます」

灼「…ん…」ギュッ

「…あらあら。どうやら灼ちゃんは離れたくないみたいね」

京太郎「…あー…どうしましょう」

「…それじゃもうちょっとそのままでいてあげてくれる?」

京太郎「わかりました。それじゃ…えっと」

「うん。その間にお茶を淹れるから」

京太郎「…すみません。何から何まで」

「いいのよ、珍しいもの見せてもらえたから」

京太郎「…珍しいもの?」










「そうやって誰かに甘える灼ちゃんなんて滅多に見ないから」

京太郎「そう…なんですか?でも…」

「…ん?」

京太郎「…俺、殆どコイツに頼られていなくて…」

京太郎「…今日だって俺の用事に付き合ってくれてるのに…疲れてるの一言も言わないで」

京太郎「こうして…寝るくらいまで…疲れてたのに…」

「…それでも灼ちゃんがそうやって身体を預けるのは…きっと須賀君くらいなものだと思うわよ」

京太郎「え?」

「…そうね。子どもの頃からずっと仲良くして貰っているし…少しだけ…話をしましょうか」

「灼ちゃんの両親が忙しいのは須賀君も知ってるわよね?」

京太郎「えぇ。両親ともに世界中を一年中飛び回って殆ど帰ってこないとか…」











「…そう。だから…こうして灼ちゃんを私のところに預けて」

「…お仕事だからね、仕方のない事だって私も理解はしてるわ。だけど…」

京太郎「…だけど?」

「…子どもの頃からずっと…両親と殆ど会う事はなくて」

「別れる度に『おばあちゃんに迷惑かけないように良い子にしてなさい』って言われて」

「親との唯一とも言っていいその接点を…頑なに守ろうとする子がどうなるか…想像はつくかしら?」

京太郎「…それは…」

「…この子が必要以上に良い子になろうとするのはそれが原因」

「人に頼らないんじゃなくて…頼れないのよ」

「そうやって人に頼る事が…迷惑だって」

「悪い子になるんだって…そう思い込んでいるから」

京太郎「……」











「…でも、ね。私、少しだけ安心しちゃった」

京太郎「…え?」

「こうやって寝顔を晒して…身体を預けられるくらいに信頼してる人がいるんだって」

「私には…もうそうやって頼ってくれなくなっちゃったから」

京太郎「…でも、俺は…」

「…それでも足りないって言うのなら…この子の事ずっと見ててあげてくれないかしら?」

「この子…とても不器用で…友達らしい友達も少ないから」

「人に甘える事は苦手だけど…でも、決して独り立ち出来るほど強い子でもないの」

京太郎「…それは分かってます」

「じゃあ…須賀君に灼ちゃんの事任せても良いかしら…?」

「多分、この子が一番、頼りにしてるのは…須賀君だから…」

「この子が甘えられる相手で…居続けてくれるかしら?」

京太郎「はい。俺で良ければ…必ず」

京太郎「灼に心から頼ってもらえるような相手に…なります」










京太郎「(灼のお祖母さんの話を聞いて)」

京太郎「(俺はやっぱり灼の事を分かっていなかったんだって…痛感した)」

京太郎「(俺、結局、こいつがなんであんなに『良い子』であろうとするのかも知らなくて…)」

京太郎「(灼からも…教えて貰う事…出来ないままで)」

京太郎「(勿論、それはこいつが…俺に迷惑を掛けまいとした結果なんだろう)」

京太郎「(考えてもみれば…こんなに一緒にいるのにコイツの家族の話とか殆ど聞いてなかったんだから)」

京太郎「(きっと意図的にそれを抑えていたんだって事くらい…なんとなく察しがつく)」

京太郎「(でも…やっぱり…こうしてそれを知らされると)」

京太郎「(…ショックなのは…自分の中でどうしてもあって)」

京太郎「(俺がこいつにとってその程度でしかなかったんだって…そう突きつけられているような気がして…だから…)」

灼「…あ…れ…?」

京太郎「よう。起きたか?」

灼「…京太郎…なんで…?ここ…家…?」

京太郎「おう。ここは灼の家で…俺がここにいるのはお前をおぶさって来たからだよ」

灼「おぶさって……」ボケー

灼「~~~っっ!!」カァァ

灼「ご、ごめんなさい…私…!」ガバッ

京太郎「馬鹿。良いから寝とけ」









京太郎「お前が途中で寝るくらい疲れてるんだろ」

灼「…だけど…私…折角の付き添いなのに何も…」

京太郎「…馬鹿な事言うなよ」

京太郎「お前が側にいてくれただけで…俺はすげー助かってるんだから」

灼「…え?」

京太郎「…だから…もう…はっきり言うけどさ」

京太郎「…お前と一緒にいると…安心出来るんだよ」カァ

京太郎「それに…お前がいると弱音を嫌な顔ひとつせずに受け止められてもらえるお陰で…」

京太郎「どんな辛い事でも…乗り越えられそうな気がするんだ」

灼「それって…」

京太郎「…だから、お前は…俺と一緒に居てくれるだけで良いんだ」

京太郎「それだけでも…俺は十分に助かってるし…」

京太郎「多少頼られてるくらいの方が…俺にとっては有難い。だから…」






京太郎「俺は…ここで一つ宣言する」

灼「…宣言?」

京太郎「あぁ。俺は…お前を悪い子にしてやる」

灼「…え?」

京太郎「俺なしじゃ生きていけなくて…すぐに俺に頼って」

京太郎「…心から俺に甘えられるような女に変えてやる」

灼「んな…っ!!」カァァ

京太郎「だから…覚悟しろよ」

京太郎「その気になった俺は…しつこいからな」

京太郎「お前が悪い子になるまで…絶対に付き纏ってやる」

灼「そ、そ、それって…」

京太郎「ん?」

灼「ぷ…ぷ…ぷろぽー…」カァァ

京太郎「…プロポーション?」

灼「なんで体型の話になるの…」スネー

京太郎「いや、甘やかされて体型崩れるの心配してるのかなって」

灼「…あぁ…うん…何時もの京太郎だった…」

京太郎「…ん?」







京太郎「ま、ともかく…寝てろよ」

灼「…そんな事言われて寝られると思う?」

京太郎「じゃ、子守歌歌ってやろうか?膝枕でも良いぞ?」

灼「…煩わし…」ズバァ

京太郎「ぐっ…」

京太郎「い、いや…この程度で俺はメゲないぞ…」グッ

灼「…ま、好きにしたら良いよ」スッ

京太郎「…あれ?膝枕要らないんじゃ…」

灼「…京太郎が泣きそうだし…仕方なく…」スリスリ

京太郎「…その割には灼、幸せそうだよな」

灼「気のせいじゃない?」フフッ

灼「でも…」

京太郎「…ん?」

灼「…京太郎はもうとっくの昔に私の事、悪い子にしちゃってるんだよ…」

京太郎「…え?」

灼「…なんでもない。それより…もうちょっと…このまま…」

京太郎「おう。存分に甘えて良いからな」ナデナデ

























【System】
鷺森灼の愛情度がLv2になりました
鷺森灼は悪い子という響きに惹かれたようです
鷺森灼はまた次の診察の際にも付き添ってくれるのを約束してくれました
最終更新:2014年01月29日 20:18