高校一年――3月卒業式

【高校一年 ―― 3月卒業式】

京太郎「(ついに宥さんの卒業式かぁ…)」

京太郎「(花束も準備したし…もう準備は万全なんだけど…)」

穏乃「…ぐすっ」

憧「まったく…出てくる前から泣かないの」

穏乃「だって…ぇ…」グジグジ

玄「おねーちゃぁん…」フルフル

灼「…あぁ、こっちも涙ぐんでる…」

京太郎「(うちの涙脆い二人はもう色んな意味で限界だった)」

京太郎「(まぁ、泣いてる意味はそれぞれ別で違うんだろうけどさ)」

京太郎「(しずの方は寂しさから、そして玄の方はきっと感慨深さからなんだろう)」

京太郎「(でも、まぁ…どっちにしろ…今の時点で泣いてたら後がもたない)」

京太郎「(何せ主役はまだ登場していないんだから)」

















京太郎「ほら、二人共泣き止めって」

京太郎「そんな顔してちゃ宥さんが心配するぞ」

穏乃「…京ちゃんは…寂しくないの?」

京太郎「そりゃ寂しいよ」

京太郎「でも、これが決して今生の別れって訳じゃないんだ」

京太郎「松実館に行けばすぐに会えるし、その気になればすぐに集まれる」

穏乃「でも…もう今みたいには…」

京太郎「集まる事は出来ないだろうな。だけど…宥さんがどれだけ卒業するのに頑張ったかお前も知ってるだろ」

穏乃「……うん」

京太郎「だったら、それを笑顔で喜んでやろうぜ」

京太郎「宥さんは間違いなく成長して前に進んだんだ。それは玄が一番、よく知ってるだろ」

玄「…うん。そうだね」グジグジ

玄「おねーちゃんは優しくて涙脆いから…私達が泣いてたら一緒に泣いちゃう」

玄「だから、笑顔で卒業を祝福してあげないと…」グッ

玄「それがきっと…後輩としての義務なんだよね」

憧「…そうね。あたしも色んな先輩を見送ってきたけど…」

憧「やっぱり笑顔で別れた方が後味良かったし…見送られる時も安心できたから」

灼「…うん。私も…卒業する時はそうやって皆に見送られたい。だから…」











京太郎「…でも、遅いな、宥さん」

憧「そうね。他の人はもう皆出てきてるみたいなのに…」

玄「まだ最後のHR長引いてるのかな?」

京太郎「でも、同じクラスの人はもう出てきてるんだよなー」

灼「…なんで分かるの?」

京太郎「いや、何度か宥さんの事迎えに行ってるし…名前は知らないけど顔は知ってるからさ」

憧「…スケベ」

京太郎「い、いや、別に顔を覚えてたってだけでそういう意味で記憶してた訳じゃ…」

穏乃「京ちゃんって結構、面食いだよね…部屋のエッチな本も綺麗な人ばっかりだし」ムスー

京太郎「い、いや!ま、待て!ご、誤解だ!っていうかしずはなんでそんなの知ってるんだ…!?」

玄「…ね、しずちゃん京太郎君の持ってたエッチな本ってやっぱりおもち大きかった?」

穏乃「うん。玄さんくらい大きかったよ」

玄「そっかー。えへぇ♪」テレテレ

灼「…変態」ジトー

京太郎「なんでぇ!?」










灼「京太郎はもうちょっと慎ましやかな胸の魅力に気づくべきだと思…」スッ

憧「ま、待ってよ。慎ましやかって言ったらあたし…」ハッ

憧「…べ、別に小さくないもん!ちゃんと人並にはあるんだから!!」キッ

京太郎「あ、あぁ。うん。分かってる分かってるからさ…」

京太郎「ま…とりあえず旗色も悪いし、ちょっと宥さん探してくるよ」

穏乃「あ、じゃあ、私も…」

京太郎「入れ違いになったら大変だし、しずはここで待っとけよ」

京太郎「雑用の俺が走り回るのが当然だろうしな」

京太郎「その代わり宥さんがいたら連絡してくれよ」

京太郎「こっちも見つかったらすぐに連絡するからさ」

灼「うん。分かった」

玄「お願いね、京太郎君」

京太郎「おう。じゃあ、ちょっと行ってくる」










京太郎「(まぁ、そうは言ったものの…だ)」

京太郎「(宥さんがいる場所っていうのは…なんとなく検討がついてる)」

京太郎「(そもそも宥さんはあんまり人付き合いが特異な方ではなくて…)」

京太郎「(今だって本当なら真っ先に皆のところへと来たかっただろう)」

京太郎「(だけど…それが出来なかったのはきっと…)」

京太郎「(それ以上に行きたい場所があったから)」

京太郎「(でも…卒業してしまったら…中々来る事が出来なくて…)」

京太郎「(未練を断ち切る為に…最後の一回だけ…見ておきたい場所)」

京太郎「(そんなもの…宥さんにとってはひとつしかない)」

京太郎「(…宥さんが四年間過ごしたこの…)」ガララ

京太郎「…やっぱり部室にいたのか」

宥「…あ、きょーくん…」










宥「…ごめん。皆、待たせてるよね…」

京太郎「大丈夫だよ。あいつらはそれくらいで起こるような奴らじゃないし」

京太郎「それに…まぁ、みんな気持ちは分かってくれるさ」

京太郎「少なくとも…俺は分かるよ。俺も…一緒だったからさ」

宥「…きょーくんも?」

京太郎「あぁ。俺も…中学の頃…未練たらしく部室に顔を出してさ」

京太郎「ちょっぴり黄昏て…雰囲気に浸ってみたりして…」

宥「…ふふ」

京太郎「あ、笑ったな。姉さんだって同じことしてた癖に」

宥「あ、違うの…そうじゃなくて」

宥「…きょーくんも一緒だったんだって思うと…嬉しくて」










宥「私…ここはもう皆の場所だって言いながら…」

宥「こうして未練たっぷりに…足を運んじゃって」

宥「そんな自分が情けないって…そう思ってたから…」

京太郎「でも…そうやって来ちゃうくらいに楽しかったんだろ」

宥「…うん。楽しかった」

宥「公式戦に出れたのは…二回だけだったけれど」

宥「それでも四年間…皆とここで一緒に頑張って…」

宥「インターハイにまで行けたから…」

宥「…ううん。行けなかったとしても…きっと私は凄い楽しかったんだと思う」

宥「ここはそれくらい私にとってあったかい場所だったんだ…」

京太郎「…姉さん」

宥「ふふ…ダメだね。何時でも来ても良いって言われても…大丈夫だって分かってても」

宥「…やっぱり卒業するのって…寂しい」スッ










宥「…ね、きょーくん。お願いがあるんだけど…」

京太郎「…ん?」

宥「おねーちゃんの事…暖めてくれない…?」スッ

京太郎「…あぁ。良いぞ」ギュッ

宥「…はぁ…♪」

京太郎「…どうだ?暖かくなれたか?」

宥「…うん。とっても…とっても暖かいよ…♥」ギュゥ

宥「…大好きなきょーくんと…大好きな場所でギュってしてるってだけで…もうポカポカ…♥」

京太郎「そっか…それなら…良いんだけど…さ」

京太郎「ごめんな…俺、これくらいしかしてやれなくて」









宥「…ううん。私はこれくらいで十分だから」

宥「ううん…十分過ぎる…くらいだよ」

宥「だって、私…こんなに幸せなんだもん…♥」

宥「ずっと…時間が止まってしまえば良いって思うくらいに…」

京太郎「…姉さん…」

宥「…でも、そういう訳には…いかないよね」

宥「きょーくんも…皆も…」

宥「前を向いて…進んでいかなきゃいけないんだから」

京太郎「…あぁ。でも、姉さんだって…ちゃんと前に進んでるよ」

京太郎「こうして卒業できた事もそうだし…」

京太郎「…家の為に大学決めたのも…俺は立派な事だと思うよ」

宥「だって…私…今まで迷惑掛けてたから…」

宥「でも、働く事は出来ないし…これくらいしなきゃって…そう思って…」











京太郎「それでも十分過ぎるくらいだよ」

京太郎「玄も自慢してたよ、あんな難関大学入れるなんて凄いって」

宥「ふふ…玄ちゃんったら…」

京太郎「ま、あいつはやりすぎだけど…でも、姉さんの事誇りに思ってるのは俺も同じだよ」

宥「…それは家族として?」

京太郎「勿論。家族として…弟としてさ」

宥「……」ムゥ

京太郎「…あれ?姉さん?」

宥「…ダメ。やり直し」

京太郎「え?」

宥「…やり直してくれないと…ダメ」プクー

京太郎「え…えぇぇ…」











京太郎「…じゃ、じゃあ…仲間としてとか…」

宥「…つーん」

京太郎「せ、先輩として」

宥「…ダメ」

京太郎「え…えぇ…じゃあ…幼馴染として…?」

宥「…私、きょーくんと会ったの一番、遅いもん…」スネー

京太郎「あー…ぅー…」

京太郎「…ごめん。思いつかない」シュン

宥「…きょーくんの鈍感」

京太郎「わ…悪い…」

宥「…罰としてこうしちゃうんだから」スッ

京太郎「う、うわっ…」












宥「…えへへ…あったかぁい…♪」

京太郎「い、いや…そりゃまぁ…暖かいけどさ…」

宥「きょーくんは…おねーちゃんと一緒にマフラーするの…嫌?」

京太郎「嫌って訳じゃないけどこう…顔が違いと恥ずかしいし…」

宥「ふふ…でも…罰だから逃げちゃめっ…だよ」

京太郎「ぅ…つか、姉さんは恥ずかしくないのかよ?仮にも男とこうして見つめ合うなんて…」

宥「…きょーくんなら恥ずかしいよりも嬉しいかな」

京太郎「嬉しい…?」

宥「うん…こうやって見つめ合って…顔を近づけると…」

宥「…きょーくんの瞳の中に私の顔が映って…」

宥「きょーくんの事独り占めできてるんだって…そう思えるから」スッ









京太郎「ね、姉さん…!?」

宥「ね…もっともっと…近づこう…?」

宥「もっと…おねーちゃんの事見つめて…私だけ…見て」ギュッ

宥「私に独り占めしてるんだって思わせて…心の中から暖かくして欲しいな…」

京太郎「い、いや…でも…流石に近すぎ…呼吸が…!?」

宥「きょーくんの息なら大丈夫だよ。それとも…おねーちゃんの息は臭い…?」

京太郎「いや…寧ろ、すげー甘くて…その…」

宥「…じゃ、良いよね…」スッ

京太郎「ね、ね…姉さ…!?」ハァ

宥「ふふ…きょーくん…ハァハァしてる…♪きょーくんも暖かくなってくれてるんだね…♥」

宥「私も…とっても暖かくなって来ちゃった…だから…」スッ

宥「きょーくん…目…閉じて…♪」

京太郎「うぇぇ…!?」












宥「お願い…おねーちゃんに恥をかかせないで…♥」

京太郎「い、いや…だ、だけどそれって…」

宥「おね…がい…して…欲しいの…♥」

京太郎「う…う…うぅ…」スッ

宥「良い子だね…♥それじゃ…」スッ


ゴツン



宥「ひゃぅっ!?」

京太郎「あいたっ!?」

宥「…あれ…?私…今、何を…」

京太郎「…って姉さん大丈夫か?」

宥「う、うん…大丈夫…だけ…ど」カァァ

京太郎「…あれ?」

宥「わ、わわわわ…わわわわわ」プシュゥ












京太郎「あれ?姉さん?」

宥「ち、ちち違うの!」ビクッ

京太郎「え…?いや…何が?」

宥「さ、さっきのはあの…わ、私じゃなくって…」

宥「いや、私なんだけど…そ、そういうつもりじゃなくってぇっ」フルフル

宥「暖か過ぎて…い、色々見失ちゃったっていうか…」

宥「あ、あんな事するつもりなくて…あの…ほ、本当は…!」

宥「き、キスとか…付き合ってからじゃないとダメだと思うし…え、エッチなのは…だ、ダメだし…」

宥「えとえと…だからその…ぉ…」プシュゥツ

京太郎「あー…分かった。いや…分かってないけど…分かった」

京太郎「…つまり、アレは不本意って事なんだろ?」

宥「う…うん…ちょっとドキドキに流されちゃっただけで…」

京太郎「まぁ、そういう事もあるだろ。俺も…なんだかんだ言いつつ目閉じちゃったし」

宥「…あ…そう言えば…」











宥「(…あ、あれってきょーくんも私とのキス…嫌じゃなかったって事…なのかな?)」

宥「(だ、だって…そうじゃないと…普通は目を閉じないよね…?)」

宥「(あんな状況で…キス以外なんて思いつかないだろうし…)」

宥「(って事は…きょーくんも私の事…好きって事?)」カァァ

宥「(う、ううん…落ち着くの…落ち着くのよ、松実宥)」

宥「(きょーくんの事だから家族としての好きだとか言い出し兼ねないし…)」

宥「(ここは慎重に…慎重にもういっかいキス…)」

京太郎「…ん?」

宥「(…って私何を考えてるの…!?)」フルフル

宥「(ち、違うもん…私、そんなにエッチじゃないもん…)」

宥「(そ、そういうのはちゃんと告白して恋人になって…そ、それから一ヶ月くらい経たなきゃ許しちゃダメって雑誌に書いてあったし…)」

宥「(付き合う前にキスするなんて…そんなはしたない事しちゃ嫌われちゃうよぉ…)」

宥「(…でも、きょーくんの唇…ツヤツヤしてて美味しそう…)」

宥「(息もあんなに暖かかったし…)」スッ

京太郎「あ…あれ?姉さん…?」

宥「(もう一度…もう一度…暖かくなるだけだから…)」

宥「(キスとかしなくて…お互いに息を吐きかけて…暖かくなるだけ…)」ンー…


ブルル


京太郎「…あ、悪い。時間切れだ」

宥「…ふぇ?」












ピッ

京太郎「悪い。こっちで宥さん見つけたよ」

京太郎「いや、悪かったって…ちょっと色々立て込んでてさ」

京太郎「何って…いや、それは言えないけど」

京太郎「べ、別にそんな事してねぇよ…お前は本当に俺をなんだと思ってるんだ…!?」

京太郎「…あぁ。うん。ごめん。そのとおりだけど…」

京太郎「…了解。んじゃそうするわ。それじゃ切るぞ」ピッ

京太郎「…っとお待たせ」

宥「…あ…あの…」

京太郎「悪い。そろそろ憧たちが心配してる」

京太郎「こうしているのも良いけど…一回は顔出さないと…あいつらも待ちぼうけ喰らってるし」

宥「あ、そ、そう…そうだね」カァ
























【System】
松実宥の愛情度がLv1になりました
松実宥は案外、積極的なようです
松実宥はその後、笑顔で見送られる事が出来ました
最終更新:2014年01月29日 20:09