あるネクロマンサーの日誌 -リオ・ハークロット 2頁目-

 

帝都には戻るな。

決して戻るな。

過去の記憶は直感として現れ、私に指示する。

行くあてなど無い。

 

 

ここは帝国南門付近にある小さな港町だ。

国壁の外にある割にそこそこ小奇麗な町並みで、道も表通りはタイル貼りになっている。

帝国と裏で繋がりがあるのかもしれないが、私はこの町の宿で一夜を明かす事に決めた。

協会本部からは、結局便りなど一切無かった。

初めから、私とキメラを同時に消す計画だったのだろう。

キメラ達が人間を狙わなくなった今、私は従者と運命を共にしたと思われている筈だ。

 

 

出窓の窓台に肘を付いて、夜の町を見下ろす。

隣に彼は居ない。

私は、浜辺で彼を拒否したのだ。

『・・・ごめんなさい』

枯れた声を絞り出して一言いうと、彼は少し寂しげな目をして微笑んだ。

そして差し出した手から腐肉が滴ったかと思うと、その場でどろりと崩れ果てた。

私は震えていたと思う。

"彼"と眠っていた死者達を、自分が弄んでしまった事がただ恐ろしかった。

これが、貴女が思い出したものよ。

頭のざわつきが、そう言って嘲笑っている様に思えた。

 

 

エデアさん・・・が、キメラと戦っている時に私が見た、悪夢の様な幻覚。

真っ赤な人影、神経毒の霧。

待ち構えていた帝国軍の兵士達。

あれらは私が過去に受けた、現実だ。

私は確かに、一度軍に捕まった。

霧に完全に覆われてからの記憶が途切れている。

兵士達は、皆変わった兜を被っていたと思う。

私は虚ろに、凛とした女の声を思い出していた。

「この魔女を、反逆罪で生け捕りにする!」

 

 

・・・反逆・・・?

・・・魔女?

何を言っているのか分からない。

目が利かなくなりつつあり良く見えないが、赤いのは女の髪とマントらしい。

「何をボサッと突っ立っている。すぐに捕らえろ!」

彼女は周りに控える兵士達に指示を出した。

彼らは突き動かされた様に、一斉に私に向かって来る。

すぐに囲まれ、取り押さえられた。

相手はやけにきびきび動く。

そうか、彼らの兜は、この霧を防ぐ為の・・・

「い・・・や・・・!た・・・すけ・・・て・・・!」

霧の毒によって神経が侵され、声すらまともに出ない。

それでも必死に暴れ、腕を振り上げようとする私に驚いた兵士が剣を抜き切りかかる。

「いたっ!」

その刃先は私の左手の甲を切り裂いた。

痛みと恐怖で、暴れて視界を遮っていた髪の色が薄くなっていく。

「切るな!生け捕りにしろと言った筈だ!」

「たす・・・け・・・・・・」

「黙れ!貴様の企みは最早、全帝都民の知るところとなっている。観念しろ、魔女め!」

違う・・・誤解よ。

違う。

私は・・・。

私は・・・・・・。

 

 

 

 戻る 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終更新:2016年02月02日 16:52