あるネクロマンサーの日誌 -リオ・ハークロット-

 

「行け・・・」

胸に大きくあいた傷口だけ。

無残にも"生き返らされて"、その死者は言う。

人が死に向かう時の吐息。

頭痛が唸りをあげる中、私は彼の元へ行きたかった。

「・・・行けっ・・・!」

彼の元へ行きたかった。

「行け!!」

私は・・・。

 

 

遺跡の出口に佇む私は、あと一歩が踏み出せないでいた。

横に、あの人が居ないのだ。

堪えられない。

迎えに行く。

走る。

何も考えられない。

壁にもたれかかり、足を投げ出して、彼は事切れていた。

抱きしめずにいられようか。

この愛しい人を。

それは衝動的な行為だったが、私が腐敗する事は無かった。

彼は本当にこの世から居なくなってしまったのだ。

彼はもはや、ただの死体だった。

 

 

どれ程泣いたろうか。

私は、虚無感に囚われたまま、ただ本能的に・・・だったと思う。

どろどろに溶けた彼の死体から頭蓋骨をまさぐり出し、それを胸に遺跡を後にした。

頭痛が続いている。

記憶は私をのみ込もうとはしなかった。

それはおぼろげで鮮烈な流れとなり私の頭を駆け巡る。

雑音と軋みが、また強くなる。

しかし私は未だ、私である事を許されている。

果たしてこれからどこへ向かえば良いのだろう。

"統率者"を失ったキメラ達は襲ってこなかった。

私は森を抜け、立ち尽くす。

西南に潮騒の音を聞いた気がした。

 

 

私は海に来ていた。

足が棒になっている。

何故ここまで歩けたのか自分でも不思議な程だ。

座り込み、"彼"を抱え込む。

頭痛。

"彼"。

余程遺跡に居たのが長かったのか、ひと回りしたらしい太陽が山吹に、朱に、色を変え沈んでいく。

私は、圧倒的に一人だった。

頭痛が鎮まってくる・・・。

 

 

もう一度、会いたい。

強く、本当に強く心から願った。

その時だった。

砂浜がざわついた。

ぼこぼこと地中で何かが蠢く、不気味な音。

それは濃い影をしょって這い出てきた。

うなだれていた私が恐る恐る顔を上げると、

「ど~したの、リオさん?」

そのエデアは、いつもと同じ口調で。

私の願った通りに、喋り、笑ってみせた。

 

 

・・・ネクロマンサー!!

"彼"の頭蓋を抱え、彼に手を差し伸べられながら。

これ以上どこから涙が出てくるのか分からないぐらい、顔をくしゃくしゃにして、しゃくり上げながら泣いた。

私は、こうして、ネクロマンサーになった。

 

 

 

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最終更新:2016年01月31日 13:18