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**スーパーヒーロー大戦EX プリキュア×12th ◆wYOF3ar91U エリアにしてA-1に在る研究所。その一室。 壁面に巨大なモニターが貼り付けてあり、平行に並ぶ机にもディスプレイとキーボードが置いてあることから、 その部屋はコンピュータールームであることが窺い知れた。 そこに居る二人の人間。 男と女が立っていた。 男は痩せ細り、外見から年齢を推し量り難い。 それでもとっくに成人していることはわかる。 薄く笑う様からはどこか底知れない雰囲気を漂わしている。 女は頭に白いカチューシャ、あどけない顔に大きな瞳、学生服の上から着込む黄色のカーディガンが小柄な身体をより小さく強調している。 まだ少女と言った方が相応しい女性だった。 まるで接点の無いように見える男と女が見つめ合っていた。 「変身ベルトってあるじゃないですか」 話し掛けたのは男の方。 淀みない発声から、意外な知性を感じさせる口調だった。 男は女に話し掛けながら、ベルトを自分の腰に巻きつける。 「実は私、『変身ヒーロー』というのに憧れてましてね」 ヒーローへの憧れを過去形ではなく現在形で語る男。 男の名は平坂黄泉。 時空王『デウス・エクス・マキナ 』の催すサバイバルゲームの十二番目の参加者“12th”である。 「とうっ! 変っ身っっ!!!」 黄泉は腕を大きく振り回して、大袈裟なポージングを取る。 そしてそこから徐に黒いタイツをデイパックから取り出し始めた。 間が悪いことこの上ない挙動だが、黄泉本人はそれを気にした様子もなく実に上機嫌である。 「変身~♪ タイツ!」 鼻歌でも歌う要領で自分が変身していることを主張する黄泉。 黄泉は少女の前であることを気にする様子も無く、黒タイツで器用に全身を覆っていった。 「変身~♪ グローブ!」 更に黒いグローブで両手に装着。 黄泉の全身を単調な黒が覆っていく。 「変身~♪ マ……マ!!! グギッ、ゲッ、グギギギギ……」 そして頭から、肩幅ほども大きさの丸いマスクを被る。 マスクと言うより着ぐるみの頭部と言った方が妥当な大きさだ。 しかもそのデザインは田畑に設置されている鳥除けの風船がごとき、一つ目の意匠をしている。 「ドウダイ女史、カッコ良イダロウ」 そこに現出したのは巨大な鳥除けを頭に乗せた黒ずくめの怪人。 一般的な観念から言って、ヒーローのイメージからは程遠い外見だった。 その特異な外観から導き出される一般的な評価としては、“変態”と言った所だろう。 しかし黄泉は、いかにも得意げな調子で少女に感想を求める。 「か――――」 少女はすぐに声を出すことが無かった。 まるで怯えているかのごとく、声が途切れて瞳は震えている。 そして少女は意を決したように息を吐き出し、ようやく言葉を搾り出した。 「――――かっこいいー!!! 本物のヒーローみたい!!」 少女は感極まった様子で黄泉に賛辞を送る。 そこに皮肉や揶揄の色は欠片も無い。 心からの感嘆の声を、目の前のヒーローに送っていた。 少女もまたヒーローに現在形で憧れていた。 少女の名を黄瀬やよいと言った。 もっとも、今の黄泉をかっこいいヒーローと評するのは、 ヒーローに憧憬を持つ感性の中でも、珍しい部類だろう。 あるいは同じ“ヒーローに憧れる者”同士のシンパシーゆえか。 「ヒーロータル者相応シイ格好ヲシナイトナ」 「ヒーローは絶対、変身しないと駄目ですよねー!!」 今は完全に意気投合している黄泉とやよいだが、二人はつい先ほど出会ったばかりである。 バトルロワイアル開始当初に黄泉と出会ったばかりの頃は、その異様な雰囲気にやよいは怯えたが、 黄泉が自分は正義のヒーローに憧れていることや、日々正義のために行動していることを語る内に、 二人はすぐに意気投合することができた。 「ソレデハ、アナタト私デ協力シテ、正義ヲ果タシマショウ。共ニバトルロワイアルノ主催者ヲ倒スノデス」 「やっぱりヒーローは助け合いですよね」 かくして二人は、順調に同行を決定した。 共にヒーローを憧れる二人が協力して主催者の打倒を決意する。 全ては順風過ぎるほど順風に運んでいた。 「マズハ情報交換トイキマショウ」 「情報交換……ですか?」 黄泉の提案から、やよいたちはお互いの情報を交換し始める。 あまり要領を得ない様子のやよいを尻目に、黄泉はデイパックから一枚の紙片を取り出す。 幾つもの名前が羅列してあるそれは参加者名簿だった。 「私ノ知ッテイル名前ハ我妻由乃ト雨流みねねノ二名デス」 黄泉は我妻由乃と雨流みねねが、『未来日記』と呼ばれる未来予知能力を有する日記を所有していることを話す。 そして二人は未来日記所有者同士が殺し合うサバイバルゲームに参加していたことを。 更に二人が危険人物であることも。 雨流みねねは国際的テロリストであり、日本国内でも無差別な大量殺人を行っている。 我妻由乃は中学生だが、宗教団体『御目方教』の事件などでやはり大量殺人を行っている。 「アナタノ知ッテイル名前ハアリマスカ?」 「し、知ってる名前ですか? ん~……」 黄泉に促されたやよいは、しばし思い悩む素振りを見せたが、 やがて自分のデイパックから名簿を取り出して、自分の知る名前を紹介し始めた。 やよいによると星空みゆき、日野あかね、緑川なお、青木れいかの四名は同じ中学のクラスの友達だと言う。 皆、積極的に殺しあうような人たちではなく、バトルロワイアルと言う状況でも信頼における存在らしい。 そしてジョーカーとウルフルンはバッドエンド王国と言う異世界に住む、やよい曰く“悪い人たち”だと説明した。 やよいの説明を聞いて、思案気に沈黙する黄泉。 少し気まずい思いで沈黙するやよいは、やがてあることに気が付く。 「そう言えば、黄泉さんは支給品を確認しましたか?」 「アア……アナタハ確認ヲシマシタカ?」 「えっと、私は……」 黄泉に問い返されて、自分のデイパックを漁るやよい。 そして少し驚いた後、慌ててデイパックの中身を黄泉から隠す。 「何カ有ッタノカ?」 「見ちゃ駄目!! ……です」 やよいが黄泉から慌てて隠した物。 それはスマイルパクトと呼ばれる道具である。 なぜ、スマイルパクトを隠さなければならないのか? それはスマイルパクトこそが、伝説の戦士『プリキュア』への変身を可能とする道具だからである。 メルヘンランドに伝わる五人の戦士『プリキュア』。 やよいはそのプリキュアの一人なのだ。 もっとも普段はプリキュアであることを周囲に隠しているので、 今もやよいは黄泉からプリキュアへの変身アイテムを隠そうとしたのだ。 「よ、黄泉さんの支給品はどうなんですか?」 やよいはこの場を誤魔化すために、再び黄泉に支給品のことを質問した。 次の瞬間やよいの視界を鳥除け、黄泉のマスクが埋め尽くす。 突然近付いてきた黄泉に驚くやよい。 黄泉は構わずやよいに話し掛ける。 「私ノ支給品ヲ知リタインデスカ?」 「……は、はい…………」 「デハコレヲ見テ下サイ」 黄泉は自分のマスク、その中心の目玉を指す。 やよいは言われるまま、それを注視する。 まるで魅入られるように、それ以外の物が視界に入らなくなるやよい。 まどろむように意識が薄れて遠のいて行く。 そして―――― (催眠術ハ上手ク効イテイルヨウダナ) まるで人形のごとく焦点を失った瞳のやよいを見て、黄泉は自分の催眠術が効果を発揮していることを確認する。 黄泉は極めて強力な催眠術を使うことができる。 何十人もの人間に一度に催眠術を掛けることを可能にして、通常の催眠術では不可能とされている殺人の強要すら可能。 黄泉はその催眠術をやよいに最初に出会った時、予め施していたのだ。 そして催眠術を掛けられていた記憶を消しておき、 黄泉の肉眼かマスクの目を注視した際は、再び催眠状態に入るように催眠術を仕掛けておいた。 何故黄泉が、一旦やよいの催眠術を解いていたのかと言うと、 バトルロワイアルの中では催眠術に制限が掛けられている可能性が考えられる。 そのためどこまで効果を持つのか、実験を行ったのだ。 「ソレデハ、アナタガ隠シテイル情報ヲ全テ話シテモラオウ」 「はい」 黄泉の問いにやよいは抑揚の無い返事を返す。 やよいの話を聞いてそこに隠し事が在ることを黄泉は見抜いていた。 黄泉はまず、やよいが未来日記所有者であることを疑ったが、 未来日記の話をした際に何の反応を示さなかったことから、その可能性は排除。 しかしデイパックの支給品を隠したことからも、別の可能性が考えられた。 そこで今、催眠術でやよいから虚偽も隠匿も無い情報を引き出す。 そして語られるのは、やよいを含めて星空みゆきと日野あかねと緑川なおと青木れいかの五人がプリキュアであること。 支給品のスマイルパクトで変身したプリキュアが、人間を超えた能力を発揮できること。 黄泉は試しにスマイルパクトとそれに添えてあるキュアデコルを借りて試してみたが、変身することはできなかった。 本人の説明と合わせて考えてみても、やよいでなければ変身することはできないだろう。 (残念ダ。プリキュアニ変身デキレバヨリ強力ナ戦力ヲ持ツスーパーヒーローニナレタンダガ…… マア良イダロウ。プリキュアニ変身デキナクトモ、プリキュアヲ戦力トシテ物ニデキタノダ) 黄泉はスマイルパクトをやよいに返し、荷物を纏めるように指示すると、 自分も荷物を纏めながら話を続ける。 「ソレデハ、ソロソロ出発シヨウ。私トアナタデ同行シテ仲間ヲ集メテ、正義ヲ執行スル」 「はい」 「最モ、仲間集メト戦闘ハ当面ヤヨイ女史ニ一任スル」 「はい」 次の瞬間、平坂黄泉の姿が消えた。 「……………………あれ、私どうしたんだろ?」 やよいが気が付いた時には、周囲に人の気配が無い研究所で一人佇んでいた。 何故かバトルロワイアルが始まってから、今までの記憶が無い。 誰かに会っていたような気がするが、どうしてもはっきりと思い出すことができなかった。 「うーん……どうしても思い出せないよ~…………。でも、じっとしてても仕方ないよね。 早くみんなを捜しに行こうっと」 記憶の欠落を埋めることを諦めたやよいは、その場を出発することにした。 名簿を見た時の記憶は、やはりはっきりとしないが、 それでも名簿には自分の知っている名前が在ることは確認した覚えは有る。 星空みゆき、日野あかね、緑川なお、青木れいかの四人とは、 同じプリキュアとして苦しい戦いを乗り切ってきた仲間たちだ。 幾らやよいがプリキュアと言っても、バトルロワイアルは怖い。 元々やよいは臆病で泣き虫だとからかわれていた位だ。 それでもプリキュアの四人が居れば、どんな困難な状況でも乗り越えられる。 そう信じることができた。 それにこの場でも、頼もしいヒーローとの出会いが―――― (――――うーん……やっぱり何か大事なことを忘れてる気がするよ~……) 何か重大な記憶の欠落に引っ掛かりながら、やよいは歩き始めた。 そしてその隣には、平坂黄泉が居た。 黄泉はやよいと付かず離れずに歩いているが、やよいはその存在に気付かない。 それは催眠術の効果ではない。 黄泉は頭にマスクを被っているが、その中で更に帽子を被っていた。 それこそ二十二世紀の技術で作られた道具『石ころぼうし』。 黄泉は予めそれを自分のマスクの中に仕込んでいたのだ。 そしてそれを被った瞬間やよいの、やよいならずとも誰にもその存在を認識されなくなった。 そうは言っても黄泉が透明になったのではない。 概観も、動いた時の雑音も、発する体臭も、全てそのままだ。 それでもその何かもが他者の認識に上ることは無い。 まるで路傍の石を、人が意識することが無いように。 それこそ石ころぼうしの効果。路傍の石同然に誰にも意識されなくなるのだ。 黄泉は、やよいとの会話の最後にマスクの中で石ころぼうしを被って、 “その姿が認識されなくなった”のだ。 そして黄泉が姿を消した途端、やよいが黄泉の存在を忘れたのは催眠術の効果である。 予めやよいに催眠術をかけた際、黄泉が姿を消せばその存在を忘れるように指示しておいた。 これによってやよいは、普段は黄泉を意識せずに行動することができる。 そして黄泉は身を隠したまま同行することができるのだ。 そうすれば例え危険人物に襲われるとしても、まずやよいが襲われて、 黄泉はその後から対処することができる。 更に危険人物でない者と接触する場合でも、黄泉と同行しているより、 やよい単独の方が、警戒を抱かれにくいだろう。 そして黄泉はその後から姿を現して接触するなり、隙を突いて催眠術に掛けるなりができる。 即ち黄泉は催眠術と石ころぼうしを駆使して、 やよいを自分の囮であり、いざとなれば自由に指示して動かせる戦力に仕立て上げた訳だ。 黄泉は正義のヒーローに憧れたとやよいに語った。その話に嘘は無い。 しかしやよいが思い描いたヒーローの正義と、黄泉の考えるヒーローの正義には食い違いがあった。 誰とも殺し合うことなく、みんなで協力してバトルロワイアルを打破すると言うのが、 やよいの理想であり、思い描いた正義だった。 しかし黄泉の考えるヒーローの正義は違う。 それはいかなる手段を用いても勝利することである。 そのためには、いかなる犠牲を払っても構わない。 黄泉はかつて御目方教の教祖6thを倒すために、多数の信者に催眠術を掛けて撹乱工作を行い、 そのために多数の死者を出している。 更に無関係な中学生である天野雪輝を巻き込んで死なせることも厭わなかった。 黄泉の正義は悪を討つために、どんな犠牲も厭わない。 『勝利』。唯一それこそが平坂黄泉の『正義』なのだから。 そして黄泉は一度自分の命を落としている。 6thを倒すために爆弾を抱えて特攻を行ったのだ。 正義のためには自分の命を犠牲にするのも厭わない、決死の特攻作戦。 しかし規格外の“異常”である2ndに妨害されて、敗北して死亡した。 その自分が何故今生きているのか? は、黄泉にとってどうでもいい。 黄泉にとって大事なのは命ではなく正義であり、それを行うこと以外に興味は無い。 しかし迂闊な特攻で命を無駄にして敗北したのは事実であり、 そして自分が死ねば正義は行われなくなるだろう。 黄泉は正義のためにあらゆる努力を惜しまない。 従って自らを省みて次に生かすことも惜しまない。 無闇な特攻は敗北を招くと学習した以上、自分の命は最大限守る努力を惜しまないのだ。 やよいを囮や盾にしてでも生き残り、何としても悪である主催者を倒す。 それが黄泉の覚悟だ。 黄泉はボイスレコーダーの音声を聞く。 そのボイスレコーダーこそ黄泉の所有していて、偶然か必然か黄泉に支給された、 『The radar』+『The searcher』型の未来日記である。 黄泉が行う正義が示される『正義日記』。 正義日記から音声が漏れる。それは、近くのやよいに聞こえることは無い。 黄泉の衣擦れの音が認識されることが無いように、所有物の音も認識されなくなるのだ。 『0時57分。廊下ノ隅ニゴミヲ発見』 「何ッ!? ドコダッ!?」 やよいの傍で研究所の廊下を歩いていた黄泉は、慌ててゴミを探す。 そして隅に落ちていた紙くずを拾うと、ゴミ箱に放り込んだ。 「フー、スッキリダ」 正義が無事執行されて爽やかに息をつく黄泉。 それに気付くことなく、横を通り過ぎて行くやよい。 こうしてヒーローに憧れていた二人の奇妙な同行は始まった。 【A-1/研究所/一日目-深夜】 【黄瀬やよい@スマイルプリキュア!】  [衣装]:七色ヶ丘中学校制服、黄色のカーディガン  [状態]:健康、黄泉に催眠術を掛けられている  [装備]:なし  [道具]:スマイルパクト@スマイルプリキュア!、基本支給品、ランダム支給品0~2  [思考・行動]   基本方針:殺し合いをしない   1:プリキュアのみんなを捜す  [備考]   ※参戦時期は不明です。   ※黄泉の催眠術に掛かりました。黄泉の肉眼かマスクの眼を見ると催眠状態に入ります。黄泉の姿が消えればその存在を忘却します。   ※我妻由乃と雨流みねねの二人の情報を入手しました。(二人の所有する未来日記の情報も入手しました) 【A-1/研究所/一日目-深夜】 【平坂黄泉@未来日記】  [衣装]:変身タイツ、変身グローブ、変身マスク  [状態]:健康  [装備]:石ころぼうし@ドラえもん、正義日記@未来日記  [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1  [思考・行動]   基本方針:正義のヒーローとして主催者に勝利する   1:やよいと同行する  [備考]   ※死亡後からの参戦です。   ※黄瀬やよいと星空みゆきと日野あかねと緑川なおと青木れいかとジョーカーとウルフルンの情報を入手しました。
**スーパーヒーロー大戦EX プリキュア×12th ◆wYOF3ar91U エリアにしてA-1に在る研究所。その一室。 壁面に巨大なモニターが貼り付けてあり、平行に並ぶ机にもディスプレイとキーボードが置いてあることから、 その部屋はコンピュータールームであることが窺い知れた。 そこに居る二人の人間。 男と女が立っていた。 男は痩せ細り、外見から年齢を推し量り難い。 それでもとっくに成人していることはわかる。 薄く笑う様からはどこか底知れない雰囲気を漂わしている。 女は頭に白いカチューシャ、あどけない顔に大きな瞳、学生服の上から着込む黄色のカーディガンが小柄な身体をより小さく強調している。 まだ少女と言った方が相応しい女性だった。 まるで接点の無いように見える男と女が見つめ合っていた。 「変身ベルトってあるじゃないですか」 話し掛けたのは男の方。 淀みない発声から、意外な知性を感じさせる口調だった。 男は女に話し掛けながら、ベルトを自分の腰に巻きつける。 「実は私、『変身ヒーロー』というのに憧れてましてね」 ヒーローへの憧れを過去形ではなく現在形で語る男。 男の名は平坂黄泉。 時空王『デウス・エクス・マキナ 』の催すサバイバルゲームの十二番目の参加者“12th”である。 「とうっ! 変っ身っっ!!!」 黄泉は腕を大きく振り回して、大袈裟なポージングを取る。 そしてそこから徐に黒いタイツをデイパックから取り出し始めた。 間が悪いことこの上ない挙動だが、黄泉本人はそれを気にした様子もなく実に上機嫌である。 「変身~♪ タイツ!」 鼻歌でも歌う要領で自分が変身していることを主張する黄泉。 黄泉は少女の前であることを気にする様子も無く、黒タイツで器用に全身を覆っていった。 「変身~♪ グローブ!」 更に黒いグローブで両手に装着。 黄泉の全身を単調な黒が覆っていく。 「変身~♪ マ……マ!!! グギッ、ゲッ、グギギギギ……」 そして頭から、肩幅ほども大きさの丸いマスクを被る。 マスクと言うより着ぐるみの頭部と言った方が妥当な大きさだ。 しかもそのデザインは田畑に設置されている鳥除けの風船がごとき、一つ目の意匠をしている。 「ドウダイ女史、カッコ良イダロウ」 そこに現出したのは巨大な鳥除けを頭に乗せた黒ずくめの怪人。 一般的な観念から言って、ヒーローのイメージからは程遠い外見だった。 その特異な外観から導き出される一般的な評価としては、“変態”と言った所だろう。 しかし黄泉は、いかにも得意げな調子で少女に感想を求める。 「か――――」 少女はすぐに声を出すことが無かった。 まるで怯えているかのごとく、声が途切れて瞳は震えている。 そして少女は意を決したように息を吐き出し、ようやく言葉を搾り出した。 「――――かっこいいー!!! 本物のヒーローみたい!!」 少女は感極まった様子で黄泉に賛辞を送る。 そこに皮肉や揶揄の色は欠片も無い。 心からの感嘆の声を、目の前のヒーローに送っていた。 少女もまたヒーローに現在形で憧れていた。 少女の名を黄瀬やよいと言った。 もっとも、今の黄泉をかっこいいヒーローと評するのは、 ヒーローに憧憬を持つ感性の中でも、珍しい部類だろう。 あるいは同じ“ヒーローに憧れる者”同士のシンパシーゆえか。 「ヒーロータル者相応シイ格好ヲシナイトナ」 「ヒーローは絶対、変身しないと駄目ですよねー!!」 今は完全に意気投合している黄泉とやよいだが、二人はつい先ほど出会ったばかりである。 バトルロワイアル開始当初に黄泉と出会ったばかりの頃は、その異様な雰囲気にやよいは怯えたが、 黄泉が自分は正義のヒーローに憧れていることや、日々正義のために行動していることを語る内に、 二人はすぐに意気投合することができた。 「ソレデハ、アナタト私デ協力シテ、正義ヲ果タシマショウ。共ニバトルロワイアルノ主催者ヲ倒スノデス」 「やっぱりヒーローは助け合いですよね」 かくして二人は、順調に同行を決定した。 共にヒーローを憧れる二人が協力して主催者の打倒を決意する。 全ては順風過ぎるほど順風に運んでいた。 「マズハ情報交換トイキマショウ」 「情報交換……ですか?」 黄泉の提案から、やよいたちはお互いの情報を交換し始める。 あまり要領を得ない様子のやよいを尻目に、黄泉はデイパックから一枚の紙片を取り出す。 幾つもの名前が羅列してあるそれは参加者名簿だった。 「私ノ知ッテイル名前ハ我妻由乃ト雨流みねねノ二名デス」 黄泉は我妻由乃と雨流みねねが、『未来日記』と呼ばれる未来予知能力を有する日記を所有していることを話す。 そして二人は未来日記所有者同士が殺し合うサバイバルゲームに参加していたことを。 更に二人が危険人物であることも。 雨流みねねは国際的テロリストであり、日本国内でも無差別な大量殺人を行っている。 我妻由乃は中学生だが、宗教団体『御目方教』の事件などでやはり大量殺人を行っている。 「アナタノ知ッテイル名前ハアリマスカ?」 「し、知ってる名前ですか? ん~……」 黄泉に促されたやよいは、しばし思い悩む素振りを見せたが、 やがて自分のデイパックから名簿を取り出して、自分の知る名前を紹介し始めた。 やよいによると星空みゆき、日野あかね、緑川なお、青木れいかの四名は同じ中学のクラスの友達だと言う。 皆、積極的に殺しあうような人たちではなく、バトルロワイアルと言う状況でも信頼における存在らしい。 そしてジョーカーとウルフルンはバッドエンド王国と言う異世界に住む、やよい曰く“悪い人たち”だと説明した。 やよいの説明を聞いて、思案気に沈黙する黄泉。 少し気まずい思いで沈黙するやよいは、やがてあることに気が付く。 「そう言えば、黄泉さんは支給品を確認しましたか?」 「アア……アナタハ確認ヲシマシタカ?」 「えっと、私は……」 黄泉に問い返されて、自分のデイパックを漁るやよい。 そして少し驚いた後、慌ててデイパックの中身を黄泉から隠す。 「何カ有ッタノカ?」 「見ちゃ駄目!! ……です」 やよいが黄泉から慌てて隠した物。 それはスマイルパクトと呼ばれる道具である。 なぜ、スマイルパクトを隠さなければならないのか? それはスマイルパクトこそが、伝説の戦士『プリキュア』への変身を可能とする道具だからである。 メルヘンランドに伝わる五人の戦士『プリキュア』。 やよいはそのプリキュアの一人なのだ。 もっとも普段はプリキュアであることを周囲に隠しているので、 今もやよいは黄泉からプリキュアへの変身アイテムを隠そうとしたのだ。 「よ、黄泉さんの支給品はどうなんですか?」 やよいはこの場を誤魔化すために、再び黄泉に支給品のことを質問した。 次の瞬間やよいの視界を鳥除け、黄泉のマスクが埋め尽くす。 突然近付いてきた黄泉に驚くやよい。 黄泉は構わずやよいに話し掛ける。 「私ノ支給品ヲ知リタインデスカ?」 「……は、はい…………」 「デハコレヲ見テ下サイ」 黄泉は自分のマスク、その中心の目玉を指す。 やよいは言われるまま、それを注視する。 まるで魅入られるように、それ以外の物が視界に入らなくなるやよい。 まどろむように意識が薄れて遠のいて行く。 そして―――― (催眠術ハ上手ク効イテイルヨウダナ) まるで人形のごとく焦点を失った瞳のやよいを見て、黄泉は自分の催眠術が効果を発揮していることを確認する。 黄泉は極めて強力な催眠術を使うことができる。 何十人もの人間に一度に催眠術を掛けることを可能にして、通常の催眠術では不可能とされている殺人の強要すら可能。 黄泉はその催眠術をやよいに最初に出会った時、予め施していたのだ。 そして催眠術を掛けられていた記憶を消しておき、 黄泉の肉眼かマスクの目を注視した際は、再び催眠状態に入るように催眠術を仕掛けておいた。 何故黄泉が、一旦やよいの催眠術を解いていたのかと言うと、 バトルロワイアルの中では催眠術に制限が掛けられている可能性が考えられる。 そのためどこまで効果を持つのか、実験を行ったのだ。 「ソレデハ、アナタガ隠シテイル情報ヲ全テ話シテモラオウ」 「はい」 黄泉の問いにやよいは抑揚の無い返事を返す。 やよいの話を聞いてそこに隠し事が在ることを黄泉は見抜いていた。 黄泉はまず、やよいが未来日記所有者であることを疑ったが、 未来日記の話をした際に何の反応を示さなかったことから、その可能性は排除。 しかしデイパックの支給品を隠したことからも、別の可能性が考えられた。 そこで今、催眠術でやよいから虚偽も隠匿も無い情報を引き出す。 そして語られるのは、やよいを含めて星空みゆきと日野あかねと緑川なおと青木れいかの五人がプリキュアであること。 支給品のスマイルパクトで変身したプリキュアが、人間を超えた能力を発揮できること。 黄泉は試しにスマイルパクトとそれに添えてあるキュアデコルを借りて試してみたが、変身することはできなかった。 本人の説明と合わせて考えてみても、やよいでなければ変身することはできないだろう。 (残念ダ。プリキュアニ変身デキレバヨリ強力ナ戦力ヲ持ツスーパーヒーローニナレタンダガ…… マア良イダロウ。プリキュアニ変身デキナクトモ、プリキュアヲ戦力トシテ物ニデキタノダ) 黄泉はスマイルパクトをやよいに返し、荷物を纏めるように指示すると、 自分も荷物を纏めながら話を続ける。 「ソレデハ、ソロソロ出発シヨウ。私トアナタデ同行シテ仲間ヲ集メテ、正義ヲ執行スル」 「はい」 「最モ、仲間集メト戦闘ハ当面ヤヨイ女史ニ一任スル」 「はい」 次の瞬間、平坂黄泉の姿が消えた。 「……………………あれ、私どうしたんだろ?」 やよいが気が付いた時には、周囲に人の気配が無い研究所で一人佇んでいた。 何故かバトルロワイアルが始まってから、今までの記憶が無い。 誰かに会っていたような気がするが、どうしてもはっきりと思い出すことができなかった。 「うーん……どうしても思い出せないよ~…………。でも、じっとしてても仕方ないよね。 早くみんなを捜しに行こうっと」 記憶の欠落を埋めることを諦めたやよいは、その場を出発することにした。 名簿を見た時の記憶は、やはりはっきりとしないが、 それでも名簿には自分の知っている名前が在ることは確認した覚えは有る。 星空みゆき、日野あかね、緑川なお、青木れいかの四人とは、 同じプリキュアとして苦しい戦いを乗り切ってきた仲間たちだ。 幾らやよいがプリキュアと言っても、バトルロワイアルは怖い。 元々やよいは臆病で泣き虫だとからかわれていた位だ。 それでもプリキュアの四人が居れば、どんな困難な状況でも乗り越えられる。 そう信じることができた。 それにこの場でも、頼もしいヒーローとの出会いが―――― (――――うーん……やっぱり何か大事なことを忘れてる気がするよ~……) 何か重大な記憶の欠落に引っ掛かりながら、やよいは歩き始めた。 そしてその隣には、平坂黄泉が居た。 黄泉はやよいと付かず離れずに歩いているが、やよいはその存在に気付かない。 それは催眠術の効果ではない。 黄泉は頭にマスクを被っているが、その中で更に帽子を被っていた。 それこそ二十二世紀の技術で作られた道具『石ころぼうし』。 黄泉は予めそれを自分のマスクの中に仕込んでいたのだ。 そしてそれを被った瞬間やよいの、やよいならずとも誰にもその存在を認識されなくなった。 そうは言っても黄泉が透明になったのではない。 概観も、動いた時の雑音も、発する体臭も、全てそのままだ。 それでもその何かもが他者の認識に上ることは無い。 まるで路傍の石を、人が意識することが無いように。 それこそ石ころぼうしの効果。路傍の石同然に誰にも意識されなくなるのだ。 黄泉は、やよいとの会話の最後にマスクの中で石ころぼうしを被って、 “その姿が認識されなくなった”のだ。 そして黄泉が姿を消した途端、やよいが黄泉の存在を忘れたのは催眠術の効果である。 予めやよいに催眠術をかけた際、黄泉が姿を消せばその存在を忘れるように指示しておいた。 これによってやよいは、普段は黄泉を意識せずに行動することができる。 そして黄泉は身を隠したまま同行することができるのだ。 そうすれば例え危険人物に襲われるとしても、まずやよいが襲われて、 黄泉はその後から対処することができる。 更に危険人物でない者と接触する場合でも、黄泉と同行しているより、 やよい単独の方が、警戒を抱かれにくいだろう。 そして黄泉はその後から姿を現して接触するなり、隙を突いて催眠術に掛けるなりができる。 即ち黄泉は催眠術と石ころぼうしを駆使して、 やよいを自分の囮であり、いざとなれば自由に指示して動かせる戦力に仕立て上げた訳だ。 黄泉は正義のヒーローに憧れたとやよいに語った。その話に嘘は無い。 しかしやよいが思い描いたヒーローの正義と、黄泉の考えるヒーローの正義には食い違いがあった。 誰とも殺し合うことなく、みんなで協力してバトルロワイアルを打破すると言うのが、 やよいの理想であり、思い描いた正義だった。 しかし黄泉の考えるヒーローの正義は違う。 それはいかなる手段を用いても勝利することである。 そのためには、いかなる犠牲を払っても構わない。 黄泉はかつて御目方教の教祖6thを倒すために、多数の信者に催眠術を掛けて撹乱工作を行い、 そのために多数の死者を出している。 更に無関係な中学生である天野雪輝を巻き込んで死なせることも厭わなかった。 黄泉の正義は悪を討つために、どんな犠牲も厭わない。 『勝利』。唯一それこそが平坂黄泉の『正義』なのだから。 そして黄泉は一度自分の命を落としている。 6thを倒すために爆弾を抱えて特攻を行ったのだ。 正義のためには自分の命を犠牲にするのも厭わない、決死の特攻作戦。 しかし規格外の“異常”である2ndに妨害されて、敗北して死亡した。 その自分が何故今生きているのか? は、黄泉にとってどうでもいい。 黄泉にとって大事なのは命ではなく正義であり、それを行うこと以外に興味は無い。 しかし迂闊な特攻で命を無駄にして敗北したのは事実であり、 そして自分が死ねば正義は行われなくなるだろう。 黄泉は正義のためにあらゆる努力を惜しまない。 従って自らを省みて次に生かすことも惜しまない。 無闇な特攻は敗北を招くと学習した以上、自分の命は最大限守る努力を惜しまないのだ。 やよいを囮や盾にしてでも生き残り、何としても悪である主催者を倒す。 それが黄泉の覚悟だ。 黄泉はボイスレコーダーの音声を聞く。 そのボイスレコーダーこそ黄泉の所有していて、偶然か必然か黄泉に支給された、 『The radar』+『The searcher』型の未来日記である。 黄泉が行う正義が示される『正義日記』。 正義日記から音声が漏れる。それは、近くのやよいに聞こえることは無い。 黄泉の衣擦れの音が認識されることが無いように、所有物の音も認識されなくなるのだ。 『0時57分。廊下ノ隅ニゴミヲ発見』 「何ッ!? ドコダッ!?」 やよいの傍で研究所の廊下を歩いていた黄泉は、慌ててゴミを探す。 そして隅に落ちていた紙くずを拾うと、ゴミ箱に放り込んだ。 「フー、スッキリダ」 正義が無事執行されて爽やかに息をつく黄泉。 それに気付くことなく、横を通り過ぎて行くやよい。 こうしてヒーローに憧れていた二人の奇妙な同行は始まった。 【A-1/研究所/一日目-深夜】 【黄瀬やよい@スマイルプリキュア!】  [衣装]:七色ヶ丘中学校制服、黄色のカーディガン  [状態]:健康、黄泉に催眠術を掛けられている  [装備]:なし  [道具]:スマイルパクト@スマイルプリキュア!、基本支給品、ランダム支給品0~2  [思考・行動]   基本方針:殺し合いをしない   1:プリキュアのみんなを捜す  [備考]   ※参戦時期は不明です。   ※黄泉の催眠術に掛かりました。黄泉の肉眼かマスクの眼を見ると催眠状態に入ります。黄泉の姿が消えればその存在を忘却します。   ※我妻由乃と雨流みねねの二人の情報を入手しました。(二人の所有する未来日記の情報も入手しました) 【A-1/研究所/一日目-深夜】 【平坂黄泉@未来日記】  [衣装]:変身タイツ、変身グローブ、変身マスク  [状態]:健康  [装備]:石ころぼうし@ドラえもん、正義日記@未来日記  [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1  [思考・行動]   基本方針:正義のヒーローとして主催者に勝利する   1:やよいと同行する  [備考]   ※死亡後からの参戦です。   ※黄瀬やよいと星空みゆきと日野あかねと緑川なおと青木れいかとジョーカーとウルフルンの情報を入手しました。 *時系列順で読む Back:[[]] Next:[[]] *投下順で読む Back:[[今は読みきれない、手のうちの鮮やかさに笑えばいい]] Next:[[「鼻毛使い」と書いて「プリキュア」と読ませたい…]] |GAME START|黄瀬やよい|:| |GAME START|平坂黄泉|:|

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