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***地獄とは神の実在なり ◆wYOF3ar91U この世界に神は居た。 それは偶像となって崇められて、人々を動かし、 あるいは自ら機械仕掛けの神を名乗り、次なる世界の支配者を決める遊戯を催し、 あるいは二千年の歴史を誇る武術にその名を刻む。 その名は力となり、世界を動かす。 神はその意味で確かに存在したのだ。 そしてこの世界に神は居ない。 神の名の下に行われるテロリズムは無関係な者が殺され、 世界が核の炎に包まれた時も、 世界が暴力が支配する荒野となっても、 弱者は蹂躙され、無辜の者の命は奪われ続けた。 そこに神の名の下の正義も救済も無かった。 神はその意味で確かに存在しなかったのだ。 神の実在と不在はテロリストと救世主を生む。 神を憎み、自ら神となろうとする女。 神の名を冠する拳を受け継ぎ、神無き世を流離う男。 神の名の下に、神無き戦いが始まる。     * 男が居た。 青い革製のジャンパーに、同じく青い革のズボンを履いた男。 一見すれば中肉中背と思える体躯だが、その実尋常ならざる鍛え方のされた肉体。 そして太い眉の下に、澄んでいながら底知れない深さを湛えた眼光。 男は北斗神拳の正統伝承者にして、核の炎に文明を焼かれ暴力の支配する世界となった世紀末に救世主と呼ばれた。 名をケンシロウと言う。 「ラオウとトキ!? なぜ、この二人の名がある!!?」 前触れも無く呼ばれたバトルロワイヤルにも、 まるで理解の及ばない方法で瞬間移動させられたことにも、 滅んだはずの文明によって雑居ビルが建ち並ぶ町並みにも動揺を顕にしなかったケンシロウだが、 名簿を確認する段になって、初めて驚嘆の声を上げる。 ケンシロウが確認した名簿には、知った名が幾つも存在していた。 ラオウ。トキ。ジャギ。アミバ。 その四名はいずれも北斗神拳を修行した男たち。 ラオウ。北斗の長兄。無類の剛の拳を振るう、北斗の歴史においても最強であろう男。 トキ。北斗の次男。病にその身を蝕まれていなければ伝承者となっていたであろう、北斗の歴史上最も華麗な拳を振るう男。 ジャギ。北斗の三男。ケンシロウへの恨みから謀略と暴虐に走った男。 アミバ。北斗の正統な修行者ではないが我流の修行で北斗神拳に迫り、トキになりすまそうとした男。 そしてこの四人はいずれも死んだ人間なのだ。 ケンシロウは四人全員の死を確認している。 ラオウとジャギとアミバに至っては自分の手で殺したのだ。 その死んだはずの者が、なぜ名簿に載っているのか? 四人の名がケンシロウと共にあるのだから同名の別人と言うわけではあるまい。 (……確かめねばなるまい。この四人が俺の知る四人であるかどうかを…………。 そしてそうなれば、四人とも捨て置けぬ) トキはたしかに比類なき拳の腕を持っている。しかし病を抱えた身体では、どのような不覚を取るかは分からない。 早急に合流して自分が守らねばなるまい。 そしてラオウとジャギとアミバがここに居るのなら、自分が討たねばならないだろう。 ここが殺し合いでなくとも、ラオウとジャギとアミバが居る所に平穏は無い。 ラオウはその強すぎる野心ゆえ暴威を振るい、ジャギとアミバはその歪んだ邪心ゆえ暴虐を振るうだろう。 それを止めるのもまた北斗神拳伝承者たる自分の定め。ケンシロウはそう受け止めていた。 (『北斗現れるところ乱あり』…………骨肉の戦いが北斗の宿命なのか) 宿命であるならば、そこから逃げるまい。 ケンシロウは北斗神拳伝承者としての決意を新たにする。 トキを保護して、ラオウとジャギとアミバを止める。 そしてこの馬鹿げた催しを開いたキュゥべえを討つと。 「キュゥべえよ、お前に北斗神拳が乱世を治める拳であることを教えてやろう!  そしてそれを知る時こそ、北斗神拳の伝承者がお前にとって死神であることも知る時だ!!」 「それじゃあ、これで神殺しだな」 声はケンシロウの上から掛かった。 そしてそれとは別方向から、落下物が空を切る音。 円筒形の落下物を見ると、端から伸びた紐の先が火花を拭いていた。 火花は紐を焼いて筒に到達する。 同時に爆発。 急激に膨張する大気は、火を纏って爆風と化し、 ケンシロウの居た場所を、瞬時に爆炎で覆い尽くした。 「ハハ……神様を殺すのも簡単なもんだな」 女が居た。 雑居ビルの屋上から、自分の“戦果”を見下ろす眼帯の女。 女は国際的テロリストにして、時空王『デウス・エクス・マキナ 』の催すサバイバルゲームの九番目の参加者“9th”。 名を雨流みねねと言う。 みねねはここに来る以前にも殺し合い、デスゲームに相当するサバイバルゲームに参加していた。 それは“未来日記”と言う未来に起こる出来事が記載される日記の所有者たちで最後の一人となるまで殺し合う物だ。 みねねは元々テロリストであり無関係な中学生を大量に殺害することも厭わない、殺人への忌避感が全く無い人間である。 殺し合いにも躊躇は無かった。 それでもバトルロワイヤルに参加させられた当初は積極的に殺し合うつもりにはならなかった。 みねねの立場からしたら今まで進めてきた殺し合いが突然反故にされて、別の殺し合いを開始させられたのである。 しかも12人での殺し合いだったはずが、5倍の70人に増えたのだ。 納得しろと言う方が無理である。 そもそもこのバトルロワイヤルを催しているのが、前回の殺し合いと同様にデウスであるかどうかもはっきりしない。 不可解な点が多過ぎるのだ。 バトルロワイヤルに対していかなるスタンスを取るべきか決めかねていたみねね。 その時に男の声が聞こえてきた。 みねねの居るビルの真下、その道路上に居た男・ケンシロウは、 名簿を見て、動揺しているようだった。 みねねは既に確認済みだった自分の支給品の一つ、ダイナマイトを持って、 屋上を囲む柵越しにケンシロウの様子を探る。 そしてケンシロウは自ら北斗神拳の伝承者を自称して、死神を名乗った。 みねねは世界中を股に駆けるテロリストだが、母国は日本であり母語は日本語である。 “北斗神拳”と言う言葉の語感と発音から、神の字を当てられていることも見当が付く。 それを聞いて、みねねは自分が神への復讐者であったことを思い出した。 みねねは幼い頃、宗教紛争に巻き込まれて両親を亡くした。 それ以来みねねにとって、神もそれを信奉する宗教も憎悪の対象となる。 そしてみねねは宗教関係者と宗教施設を対象とするテロリストとなった。 神とその信仰に復讐するために。 ケンシロウもまた神の拳の使い手を自称して、死神を名乗った。 それが宗教的な意味を持つ物かどうかは定かでは無い。 だがバトルロワイヤルの中で神を語るケンシロウの態度は、みねねにとって許し難い物であることは間違いない。 そして自分の目的が神になり、神を殺すことだと思い出させられた。 みねねが以前の殺し合いに参加した理由もそれである。 サバイバルゲームに勝ち残れば次の神になることができる。 そうなれば今の神であるデウスを殺すことも可能だ。 そうしてこそ神への復讐が為る。 ならば結局このバトルロワイヤルでも、みねねの目的は変わらないのである。 勝ち残って神となり、神を殺す。 他に目指す物など無いのだ。 そう気付かされたみねねは、ダイナマイトに火を付けて投げ落としていた。 主に爆発物でテロ活動をしていたみねねだが、ダイナマイトを使用した経験は少ない。 それでも手投げ爆弾として使う限りは、使い方の要領は心得ている。 爆発が確実にケンシロウを巻き込むようにダイナマイトを投げ込むことができた。 (あの様子じゃ日記を持っていた訳でも無し……所詮、神の名を借りた只の人間ってとこだ) 日記を持つでも無ければ、状況からダイナマイトによる奇襲を避ける方法は無い。 ケンシロウは死んだ。 長年の経験からそう判断したみねねは、自分の支給品の一つ、 支給品ではあるが元来からの自分の所有物である未来日記『逃亡日記』を見る。 逃亡日記は携帯電話の形を取った、みねねが未来に取る逃走経路を示す周囲予知型“The radar”の未来日記である。 本来なら九十日も先の状況が判るが、何故かここでは極近い未来のことが、しかも簡素にしか表示されないと添えつけの説明書きに書かれていた。 ただし未来日記は破壊されれば所有者が死ぬことになるが、今の逃亡日記は破壊されても死ぬことは無いらしい。 制限が掛けられているのか、日記その物が模造品なのかは判らないが、 本来の機能から大きく変更させられていた。 それに伴って、使用方法も変わってくる。 以前の物ならばかなり先の未来まで判るために、それほど頻繁に日記を確認する必要は無いが、 今はかなり近い未来しか判らないため、頻繁に確認する必要がある。 当面の目的を果たしたみねねは、その日記に目を通す。 みねねは途端に、屋上の出口へ駆け出す。 「あたぁっ!!」 次の瞬間、みねねの立っていた場所に蹴りが通り過ぎる。 ケンシロウが屋上の柵の“外”から蹴りを放ったのだ。 しかし不意にみねねが走り出したために、蹴りは外れた形となった。 ケンシロウは柵を越えて屋上に着地する。 ケンシロウは“ビルの外から跳躍して来た”のだ。 みねねが走り去って行った屋上の出入り口を睨むケンシロウ。 「卑怯者め……この俺が逃がすと思うな」 「クソッ、爆発を飛んで避けやがったのかよ!!」 ビルの中を走りながら、みねねは吐き捨てる。 位置やタイミングから見て、ダイナマイトの爆発は確実にケンシロウを襲ったはずだ。 しかしケンシロウは全くの無傷で、逆にみねねに襲って来たのだ。 状況から推測すればケンシロウは跳躍して爆発を回避したと言う結論になる。 (……マジでそうだとしたら、あいつは2ndを超える“異常”ってことだぞ!!) みねねは自身も含めて、常軌を逸した能力を持つ人間を何人も知っている。 とびっきりの異常である『2nd』我妻由乃などがその代表だ。 しかしケンシロウの身体能力が推測通りの物なら、あの由乃をすら凌ぐ物だろう。 完全に人間のそれを超えた、正真正銘の“異常”。 真っ向から戦えば、みねねに勝算は薄い。 みねねには逃亡日記がある。逃げることは容易い。 (逃げるしかないってのか? 神を気取るバカから!!) しかし神を名乗るケンシロウへの強い憎悪と殺意が、みねねを縛る。 幸い、得物の爆弾も在る。 このビルの中に誘き寄せれば、ケンシロウを殺す公算も在った。 逃げるべきか? 戦うべきか? どちらを選ぶか迷いながら、みねねは日記に目をやる。 「――――!!!?」 瞬間、轟音と共にビルが揺れる。 そして、みねねの目前で天井が崩れ始めた。 みねねの前で、天井が瓦礫と化して次々と降り落ちていく。 (ビルの倒壊か!!?) しかしみねねの心配を余所に、揺れと崩落は収まる。 視界を粉塵が覆っていたが、それも次第に晴れていく。 そこには瓦礫の山と、その中央に一人の男・ケンシロウが居た。 ケンシロウは片膝を着き、床に拳を突き立てていた。 そしてケンシロウの拳を中心に、クレーターのような陥没が広がっている。 「…………冗談だろ?」 ケンシロウの体勢と周囲の状況。 そして赤みが掛かり僅かに血が滲んでいるケンシロウの拳を見て、 みねねは今、目の前で起こった現象を直感的に理解させられた。 ケンシロウは天井を拳で破壊して降りて来たのだと。 「ダイナマイトを抱えてこそこそこちらを伺っていたからどんな奴だと思えば……案の定、下らん悪党のようだな」 みねねを鋭い目で睨みながらケンシロウが言い放つ。 ケンシロウの口振りには、何の気負いも感じ取れない。 おそらく虚勢でも威嚇でもなく、ただ自身の意思を語る言葉。 「……私の存在に気付いていながら、泳がせていたって言うのかよ?」 「北斗神拳の伝承者である俺の耳を誤魔化すことはできん」 どうやらケンシロウは12th染みた超聴力まで在るらしい。 (異常どころじゃねぇぇぇ!!! 本物の怪物じゃねぇか!!) みねねはここに来てようやく喧嘩を売った相手が、自分の知る異常を超える存在だと確信した。 ケンシロウはみねねを無遠慮に指差して言い放つ。 「きさまのような悪党を生かしておく理由は無い。せめて祈るがいい」 「……私は神に祈ったりはしない」 神を継いで神を殺すことを志すテロリスト・雨流みねね。 神の拳を継ぐ死神・ケンシロウ。 神無きバトルロワイヤルの地で、二人の戦いが始まる。 【E-5/市街地・ビル内/一日目-深夜】 【ケンシロウ@北斗の拳】  [状態]:健康  [装備]:無し  [道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3  [思考・行動]   基本方針:キュゥべえを倒す。   1:トキと合流する。   2:ラオウ、ジャギ、アミバを倒す。   3:みねねを倒す  [備考]   ※北斗の拳第4部「最終章」終了直後からの参加です。 【E-5/市街地・ビル内/一日目-深夜】 【雨流みねね@未来日記】  [状態]:健康  [装備]:逃亡日記@未来日記、ダイナマイト×49@北斗の拳  [道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~1  [思考・行動]   基本方針:バトルロワイヤルに優勝して神になり、神を殺す。   1:ケンシロウを倒すor逃げる?  [備考]   ※参加時期は不明です。 支給品紹介 【逃亡日記@未来日記】 みねねに支給された。みねねが本来からの所有者でも在る未来日記。 みねねが未来に取る逃走経路を記す日記。 制限のため極近い未来しか記されない。 ただし破壊されても所有者が死ぬことは無い。 【ダイナマイト×50@北斗の拳】 みねねに支給された。 ジャッカルが使用していた大量のダイナマイト。 *時系列順で読む Back:[[]] Next:[[]] *投下順で読む Back:[[運命 -destiny-]] Next:[[隠者の出会い]] |GAME START|ケンシロウ|:| |GAME START雨流みねね||:|
***地獄とは神の実在なり ◆wYOF3ar91U この世界に神は居た。 それは偶像となって崇められて、人々を動かし、 あるいは自ら機械仕掛けの神を名乗り、次なる世界の支配者を決める遊戯を催し、 あるいは二千年の歴史を誇る武術にその名を刻む。 その名は力となり、世界を動かす。 神はその意味で確かに存在したのだ。 そしてこの世界に神は居ない。 神の名の下に行われるテロリズムは無関係な者が殺され、 世界が核の炎に包まれた時も、 世界が暴力が支配する荒野となっても、 弱者は蹂躙され、無辜の者の命は奪われ続けた。 そこに神の名の下の正義も救済も無かった。 神はその意味で確かに存在しなかったのだ。 神の実在と不在はテロリストと救世主を生む。 神を憎み、自ら神となろうとする女。 神の名を冠する拳を受け継ぎ、神無き世を流離う男。 神の名の下に、神無き戦いが始まる。     * 男が居た。 青い革製のジャンパーに、同じく青い革のズボンを履いた男。 一見すれば中肉中背と思える体躯だが、その実尋常ならざる鍛え方のされた肉体。 そして太い眉の下に、澄んでいながら底知れない深さを湛えた眼光。 男は北斗神拳の正統伝承者にして、核の炎に文明を焼かれ暴力の支配する世界となった世紀末に救世主と呼ばれた。 名をケンシロウと言う。 「ラオウとトキ!? なぜ、この二人の名がある!!?」 前触れも無く呼ばれたバトルロワイヤルにも、 まるで理解の及ばない方法で瞬間移動させられたことにも、 滅んだはずの文明によって雑居ビルが建ち並ぶ町並みにも動揺を顕にしなかったケンシロウだが、 名簿を確認する段になって、初めて驚嘆の声を上げる。 ケンシロウが確認した名簿には、知った名が幾つも存在していた。 ラオウ。トキ。ジャギ。アミバ。 その四名はいずれも北斗神拳を修行した男たち。 ラオウ。北斗の長兄。無類の剛の拳を振るう、北斗の歴史においても最強であろう男。 トキ。北斗の次男。病にその身を蝕まれていなければ伝承者となっていたであろう、北斗の歴史上最も華麗な拳を振るう男。 ジャギ。北斗の三男。ケンシロウへの恨みから謀略と暴虐に走った男。 アミバ。北斗の正統な修行者ではないが我流の修行で北斗神拳に迫り、トキになりすまそうとした男。 そしてこの四人はいずれも死んだ人間なのだ。 ケンシロウは四人全員の死を確認している。 ラオウとジャギとアミバに至っては自分の手で殺したのだ。 その死んだはずの者が、なぜ名簿に載っているのか? 四人の名がケンシロウと共にあるのだから同名の別人と言うわけではあるまい。 (……確かめねばなるまい。この四人が俺の知る四人であるかどうかを…………。 そしてそうなれば、四人とも捨て置けぬ) トキはたしかに比類なき拳の腕を持っている。しかし病を抱えた身体では、どのような不覚を取るかは分からない。 早急に合流して自分が守らねばなるまい。 そしてラオウとジャギとアミバがここに居るのなら、自分が討たねばならないだろう。 ここが殺し合いでなくとも、ラオウとジャギとアミバが居る所に平穏は無い。 ラオウはその強すぎる野心ゆえ暴威を振るい、ジャギとアミバはその歪んだ邪心ゆえ暴虐を振るうだろう。 それを止めるのもまた北斗神拳伝承者たる自分の定め。ケンシロウはそう受け止めていた。 (『北斗現れるところ乱あり』…………骨肉の戦いが北斗の宿命なのか) 宿命であるならば、そこから逃げるまい。 ケンシロウは北斗神拳伝承者としての決意を新たにする。 トキを保護して、ラオウとジャギとアミバを止める。 そしてこの馬鹿げた催しを開いたキュゥべえを討つと。 「キュゥべえよ、お前に北斗神拳が乱世を治める拳であることを教えてやろう!  そしてそれを知る時こそ、北斗神拳の伝承者がお前にとって死神であることも知る時だ!!」 「それじゃあ、これで神殺しだな」 声はケンシロウの上から掛かった。 そしてそれとは別方向から、落下物が空を切る音。 円筒形の落下物を見ると、端から伸びた紐の先が火花を拭いていた。 火花は紐を焼いて筒に到達する。 同時に爆発。 急激に膨張する大気は、火を纏って爆風と化し、 ケンシロウの居た場所を、瞬時に爆炎で覆い尽くした。 「ハハ……神様を殺すのも簡単なもんだな」 女が居た。 雑居ビルの屋上から、自分の“戦果”を見下ろす眼帯の女。 女は国際的テロリストにして、時空王『デウス・エクス・マキナ 』の催すサバイバルゲームの九番目の参加者“9th”。 名を雨流みねねと言う。 みねねはここに来る以前にも殺し合い、デスゲームに相当するサバイバルゲームに参加していた。 それは“未来日記”と言う未来に起こる出来事が記載される日記の所有者たちで最後の一人となるまで殺し合う物だ。 みねねは元々テロリストであり無関係な中学生を大量に殺害することも厭わない、殺人への忌避感が全く無い人間である。 殺し合いにも躊躇は無かった。 それでもバトルロワイヤルに参加させられた当初は積極的に殺し合うつもりにはならなかった。 みねねの立場からしたら今まで進めてきた殺し合いが突然反故にされて、別の殺し合いを開始させられたのである。 しかも12人での殺し合いだったはずが、5倍の70人に増えたのだ。 納得しろと言う方が無理である。 そもそもこのバトルロワイヤルを催しているのが、前回の殺し合いと同様にデウスであるかどうかもはっきりしない。 不可解な点が多過ぎるのだ。 バトルロワイヤルに対していかなるスタンスを取るべきか決めかねていたみねね。 その時に男の声が聞こえてきた。 みねねの居るビルの真下、その道路上に居た男・ケンシロウは、 名簿を見て、動揺しているようだった。 みねねは既に確認済みだった自分の支給品の一つ、ダイナマイトを持って、 屋上を囲む柵越しにケンシロウの様子を探る。 そしてケンシロウは自ら北斗神拳の伝承者を自称して、死神を名乗った。 みねねは世界中を股に駆けるテロリストだが、母国は日本であり母語は日本語である。 “北斗神拳”と言う言葉の語感と発音から、神の字を当てられていることも見当が付く。 それを聞いて、みねねは自分が神への復讐者であったことを思い出した。 みねねは幼い頃、宗教紛争に巻き込まれて両親を亡くした。 それ以来みねねにとって、神もそれを信奉する宗教も憎悪の対象となる。 そしてみねねは宗教関係者と宗教施設を対象とするテロリストとなった。 神とその信仰に復讐するために。 ケンシロウもまた神の拳の使い手を自称して、死神を名乗った。 それが宗教的な意味を持つ物かどうかは定かでは無い。 だがバトルロワイヤルの中で神を語るケンシロウの態度は、みねねにとって許し難い物であることは間違いない。 そして自分の目的が神になり、神を殺すことだと思い出させられた。 みねねが以前の殺し合いに参加した理由もそれである。 サバイバルゲームに勝ち残れば次の神になることができる。 そうなれば今の神であるデウスを殺すことも可能だ。 そうしてこそ神への復讐が為る。 ならば結局このバトルロワイヤルでも、みねねの目的は変わらないのである。 勝ち残って神となり、神を殺す。 他に目指す物など無いのだ。 そう気付かされたみねねは、ダイナマイトに火を付けて投げ落としていた。 主に爆発物でテロ活動をしていたみねねだが、ダイナマイトを使用した経験は少ない。 それでも手投げ爆弾として使う限りは、使い方の要領は心得ている。 爆発が確実にケンシロウを巻き込むようにダイナマイトを投げ込むことができた。 (あの様子じゃ日記を持っていた訳でも無し……所詮、神の名を借りた只の人間ってとこだ) 日記を持つでも無ければ、状況からダイナマイトによる奇襲を避ける方法は無い。 ケンシロウは死んだ。 長年の経験からそう判断したみねねは、自分の支給品の一つ、 支給品ではあるが元来からの自分の所有物である未来日記『逃亡日記』を見る。 逃亡日記は携帯電話の形を取った、みねねが未来に取る逃走経路を示す周囲予知型“The radar”の未来日記である。 本来なら九十日も先の状況が判るが、何故かここでは極近い未来のことが、しかも簡素にしか表示されないと添えつけの説明書きに書かれていた。 ただし未来日記は破壊されれば所有者が死ぬことになるが、今の逃亡日記は破壊されても死ぬことは無いらしい。 制限が掛けられているのか、日記その物が模造品なのかは判らないが、 本来の機能から大きく変更させられていた。 それに伴って、使用方法も変わってくる。 以前の物ならばかなり先の未来まで判るために、それほど頻繁に日記を確認する必要は無いが、 今はかなり近い未来しか判らないため、頻繁に確認する必要がある。 当面の目的を果たしたみねねは、その日記に目を通す。 みねねは途端に、屋上の出口へ駆け出す。 「あたぁっ!!」 次の瞬間、みねねの立っていた場所に蹴りが通り過ぎる。 ケンシロウが屋上の柵の“外”から蹴りを放ったのだ。 しかし不意にみねねが走り出したために、蹴りは外れた形となった。 ケンシロウは柵を越えて屋上に着地する。 ケンシロウは“ビルの外から跳躍して来た”のだ。 みねねが走り去って行った屋上の出入り口を睨むケンシロウ。 「卑怯者め……この俺が逃がすと思うな」 「クソッ、爆発を飛んで避けやがったのかよ!!」 ビルの中を走りながら、みねねは吐き捨てる。 位置やタイミングから見て、ダイナマイトの爆発は確実にケンシロウを襲ったはずだ。 しかしケンシロウは全くの無傷で、逆にみねねに襲って来たのだ。 状況から推測すればケンシロウは跳躍して爆発を回避したと言う結論になる。 (……マジでそうだとしたら、あいつは2ndを超える“異常”ってことだぞ!!) みねねは自身も含めて、常軌を逸した能力を持つ人間を何人も知っている。 とびっきりの異常である『2nd』我妻由乃などがその代表だ。 しかしケンシロウの身体能力が推測通りの物なら、あの由乃をすら凌ぐ物だろう。 完全に人間のそれを超えた、正真正銘の“異常”。 真っ向から戦えば、みねねに勝算は薄い。 みねねには逃亡日記がある。逃げることは容易い。 (逃げるしかないってのか? 神を気取るバカから!!) しかし神を名乗るケンシロウへの強い憎悪と殺意が、みねねを縛る。 幸い、得物の爆弾も在る。 このビルの中に誘き寄せれば、ケンシロウを殺す公算も在った。 逃げるべきか? 戦うべきか? どちらを選ぶか迷いながら、みねねは日記に目をやる。 「――――!!!?」 瞬間、轟音と共にビルが揺れる。 そして、みねねの目前で天井が崩れ始めた。 みねねの前で、天井が瓦礫と化して次々と降り落ちていく。 (ビルの倒壊か!!?) しかしみねねの心配を余所に、揺れと崩落は収まる。 視界を粉塵が覆っていたが、それも次第に晴れていく。 そこには瓦礫の山と、その中央に一人の男・ケンシロウが居た。 ケンシロウは片膝を着き、床に拳を突き立てていた。 そしてケンシロウの拳を中心に、クレーターのような陥没が広がっている。 「…………冗談だろ?」 ケンシロウの体勢と周囲の状況。 そして赤みが掛かり僅かに血が滲んでいるケンシロウの拳を見て、 みねねは今、目の前で起こった現象を直感的に理解させられた。 ケンシロウは天井を拳で破壊して降りて来たのだと。 「ダイナマイトを抱えてこそこそこちらを伺っていたからどんな奴だと思えば……案の定、下らん悪党のようだな」 みねねを鋭い目で睨みながらケンシロウが言い放つ。 ケンシロウの口振りには、何の気負いも感じ取れない。 おそらく虚勢でも威嚇でもなく、ただ自身の意思を語る言葉。 「……私の存在に気付いていながら、泳がせていたって言うのかよ?」 「北斗神拳の伝承者である俺の耳を誤魔化すことはできん」 どうやらケンシロウは12th染みた超聴力まで在るらしい。 (異常どころじゃねぇぇぇ!!! 本物の怪物じゃねぇか!!) みねねはここに来てようやく喧嘩を売った相手が、自分の知る異常を超える存在だと確信した。 ケンシロウはみねねを無遠慮に指差して言い放つ。 「きさまのような悪党を生かしておく理由は無い。せめて祈るがいい」 「……私は神に祈ったりはしない」 神を継いで神を殺すことを志すテロリスト・雨流みねね。 神の拳を継ぐ死神・ケンシロウ。 神無きバトルロワイヤルの地で、二人の戦いが始まる。 【E-5/市街地・ビル内/一日目-深夜】 【ケンシロウ@北斗の拳】  [状態]:健康  [装備]:無し  [道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3  [思考・行動]   基本方針:キュゥべえを倒す。   1:トキと合流する。   2:ラオウ、ジャギ、アミバを倒す。   3:みねねを倒す  [備考]   ※北斗の拳第4部「最終章」終了直後からの参加です。 【E-5/市街地・ビル内/一日目-深夜】 【雨流みねね@未来日記】  [状態]:健康  [装備]:逃亡日記@未来日記、ダイナマイト×49@北斗の拳  [道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~1  [思考・行動]   基本方針:バトルロワイヤルに優勝して神になり、神を殺す。   1:ケンシロウを倒すor逃げる?  [備考]   ※参加時期は不明です。 支給品紹介 【逃亡日記@未来日記】 みねねに支給された。みねねが本来からの所有者でも在る未来日記。 みねねが未来に取る逃走経路を記す日記。 制限のため極近い未来しか記されない。 ただし破壊されても所有者が死ぬことは無い。 【ダイナマイト×50@北斗の拳】 みねねに支給された。 ジャッカルが使用していた大量のダイナマイト。 *時系列順で読む Back:[[]] Next:[[]] *投下順で読む Back:[[運命 -destiny-]] Next:[[隠者の出会い]] |GAME START|ケンシロウ|:| |GAME START|雨流みねね|:|

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