【千鬼世】「うぅ…」 あいつら無茶苦茶しやがって。 全身に鈍い痛みを感じながら立ち上がる。 俺の名は千鬼世(ちきよ)、高等部の1年だ。 服に付いたゴミを払う。 不良達との喧嘩に負けて、俺はさっきまで地べたに這いつくばっていたのだった。 【千鬼世】「ちくしょー! 次こそは勝ってやるぜーっ!」 (教室) 【男子生徒A】「あれ千鬼世、また負けたのかよ」 【男子生徒B】「こりないねー」 傷だらけで服が汚れていた俺に向かって、クラスメイトが言う。 【千鬼世】「うるせーっ。いつか俺が頂点を取ってやるんだよ」 【男子生徒C】「むりむりむりのかたつむりだぜ。だってお前、中学生に負けちゃうくらいなんだもん」 【女子生徒A】「えっ、なになに。何の話?」 【男子生徒C】「こいつさー、この前、中学生と喧嘩してぼっこぼこにされたんだよなー」 どこでそんな話を仕入れてきたのか。 事実だけどさ。 【女子生徒A】「えぇ、その話おもしろーい」 【千鬼世】「だからうるせえんだよ。お前ら今に見てろよ」 【男子生徒B】「はいはい、万年負けまくりのルーザー喧嘩師さん」 堰を切ったように周りの奴らが笑い出す。 こいつらが言う通り、俺は喧嘩が弱い。 だが、いつか最強になって見返してやるんだ。 【千鬼世】「……お前ら、いつまで笑ってんだよ」 【男子生徒B】「あっ、そういやさ、他校にすっげー喧嘩つええ奴がいるらしいんだよ」 【女子生徒A】「なになに、そのはなし聞きたい」 【男子生徒B】「赤伯(せきじ)っていう奴でさ、そいつがやべえんよ」 【男子生徒C】「あぁ、あれね」 【男子生徒B】「この前だって高3の先輩5人を1人でぼっこぼこにしたんだってよ」 【男子生徒A】「まじかよ」 ちっ、俺のことを無視しやがって。 勝手に言ってやがれ。 (下校) えーい、チクショウ、つまねえっ。 学校が終わり、クラスメイトと会いたくない気分の俺はいつもと違う帰り道を歩いていた。 遠くの方で人が集まっている。 珍しいもんだ、この時間は人なんて滅多にいないはずなのに。 近づくと人だかりの先に立入禁止と書かれた黄色いテープが貼られていた。 テープの先を見ると血だまりと破れた衣服が落ちている。 これってもしかして殺人事件? いやいや遺体ないし。 ならなんだってーの。 んー、結論。 考えるの面倒だ。 まっ俺には関係ないねってことで、家路に戻る。 (登校中) 【千鬼世】「ふわぁーあ」 アクビをしながら登校をする俺。 なんかもやもやする。 強くなりてーな。 あっ、あいつらは。 路地裏から3人組が出てきた。 こいつらとはそれぞれ喧嘩で何度か世話になっていた。 【千鬼世】「おーい、お前らっ」 元気なさそうに3人組が振り返る。 【不良A】「なんだ、千鬼世かよ」 【千鬼世】「いつぞやの決着を付けようぜ」 【不良B】「いや、いいよ」 【千鬼世】「なんだよ。逃げる気か?」 【不良A】「お前の相手する気分じゃねえんだよ」 【千鬼世】「はあ? 意味わかんねえ」 【不良C】「……」 【千鬼世】「かかってこいよ、おらぁっ!」 【不良C】「さっきやられたばっかなんよ」 【不良A】「おいっ」 【千鬼世】「あん?」 【不良C】「赤伯って奴に俺らぼこられた後なんよ」 【不良B】「ちっ」 【千鬼世】「3人がかりで1人を相手にか? くはは、ざまあねえな」 【不良ABC】「…」 覚えてろよと言い捨て3人組は去って行った。 それにしても赤伯って昨日もクラスで話に出てきたな。 そんなに強いのか。 興味あるね。 おしっ、今日の放課後にでも会いにいってみっか。 (他校) クラスメイトから赤伯がいるという学校へやってきた。 ついでに聞いた話だが、なんと赤伯は高等部1年で俺と同い年だった。 先を越されたが俺だってここから最強に駆け上がってやるぜ。 【千鬼世】「あ、おい、あんた。赤伯って奴に会いたい」 【男子生徒A】「ああ、赤伯くんなら校舎裏にいますよ」 【千鬼世】「おう、サンキュー」 【男子生徒A】「…」 【千鬼世】「あん? なんだよ」 【男子生徒A】「いやあ、あの、赤伯くんと戦うならやめといた方がいいっすよ」 【千鬼世】「意味わかんねえ」 【男子生徒A】「よく来るんすよ、赤伯くんと戦いたいって人。この前も8人くらいの不良を赤伯くんが返り討ちにして……」 【千鬼世】「嘘くせえ」 【男子生徒A】「はは、赤伯くんは、そう別格なんすよねぇ。彼、格闘技やってるんで」 まじかよ。 格闘技やべえわ。 こりゃますます赤伯って奴に会いにいくのが楽しみになってきた。 教えてくれた例を言うと俺は赤伯がいるという校舎裏に向かっていった。 (校舎裏) なんじゃこりゃ。 地面に散っている鮮血、まだ乾いていてない。 なによりドキリとするのが血まみれの地面に立つ少女だ。 異様だぜ。 【千鬼世】「お前、なにもんだ?」 つか、赤伯はどこだ。 【少女】「…」 おっ、こっち見た。 だが、少女は俺の言葉を無視してこちらに向かってくる。 かっと頭に血が上る。 【千鬼世】「くそがッ! 無視してんじゃねええよッ!」 駆け出し、少女に殴りかかる。 拳が少女の顔にあたると確信した瞬間、くるりと少女が背を向けたかと思えば、腹に強烈な衝撃を受け、俺は後方へ吹っ飛ばされた。 回し蹴りだ。 【千鬼世】「…ハァッ、グッ…ハっ……」 上手く呼吸ができない。 確かに俺は喧嘩が弱い。 高等部に入ってから小学生に負けたことだってある。 自慢じゃないが、いや、自慢になってないが。 だが、それを差し引いても今の蹴りは……! 【千鬼世】「お、お前…なっ、ハッ、なにもんだ?」 それでも少女は無視し、俺へと歩みを進める。 目の前までやってくると少女は俺の頭を掴む。