【バッドインシデント・パッドアクシデント】



京太郎「彼女欲しい」

貴之「年上のお姉さまと出会いたい」

陽介「逆ナンされ……いや、でもやっぱりもうちょっと愛がある方が……でもひと夏の恋も憧れるよなー……」

シン「……。二言目にはそれって、どーなってんだよ」



 男三人、顔を突き合わせて麻雀卓。

 アクセスの問題から、高田馬場の雀荘である。

 京太郎は新宿を主張したが、東西線利用者たちによって敢えなく切り捨てられた。


貴之「そりゃ、なあ……」

陽介「だって、なあ……」

シン「な、なんだよ……」

京太郎「シンはいいよなぁ……巨乳の女の子とフラグ立ってるもんなぁ……」

シン「ブッ!?」

シン「い、いきなり何――」

陽介「しかも、三人って……どーなんだよ。それ」

貴之「世の中の理不尽を感じる……」

シン「そ、そんなんじゃ……」

京太郎「ああ、フラグだけじゃなくてエンディングまで入ってんのか。ご苦労様」


 牌をツモりつつ、囃し立てる。

 瞳だけでなく、顔を真っ赤にしたシンが勢いよく牌を河に倒す。


シン「いいかげんにしろ……! ――リーチ」

陽介「あ、悪い。それロン」

シン「はぁ!?」

陽介「なあ、須賀……これ何点?」

京太郎「40符3役で5200点だな」

陽介「さんきゅ」

貴之「なあ、点数計算って覚えた方がいいか?」

京太郎「あー。平和ツモぐらいしか20符はないって知っとけばいいんじゃないか?」


 手牌と河を盛大に崩して、開いた真ん中へ流し込む。

 洗牌。静かに音を立てる麻雀卓。


シン「大体、そういう京太郎だって部活には美人が多いって聞いたんだけどさ」

シン「それに、あの原村和とか新子憧って人とつるんでるって……」

シン「なのに、なんで俺ばっかり……」

京太郎「……お前は俺を怒らせた」

シン「は?」

京太郎「判るか?」

京太郎「『高校から一緒だなんて……大学でも、良い友人関係を続けて下さいね』」

京太郎「って、一ミリも異性として意識してない笑顔で言われる俺の気持ちが」

貴之「うわぁ……」

陽介「あー……」

シン「……わ、悪い」


 切れ目を入れた壁から、牌を掴みとる。

 広げた。まずまずだ。


京太郎「しかもな、初恋の相手」

貴之「須賀……」

陽介「……須賀」

シン「……なんか、ごめんな」

京太郎「いや、いいけどさ。……いいけどさ」


 点数を見比べてみる。

 2位。十分、トップを狙える位置だ。


シン「でも、新子さんが……いるだろ?」

京太郎「あー、あいつ……なんか片想いの相手いるらしい」

貴之「うわぁ……」

陽介「おいおい……」

京太郎「しかも、俺の元カノは憧の親友なんだよ」

シン「……」

貴之「……」

陽介「……」

京太郎「なんで別れたってブチ切れられた」

陽介「……須賀、もういいから! もういいって! な!」

貴之「この話題はなしなし! なし!」


シン「……悪い。俺、そんなつもりじゃなかったんだけどさ」

京太郎「いいって。俺たち、親友だろ?」

シン「京太郎……」


 声を潤ませたシンを尻目に、京太郎は残り二人にサインを送る。

 神妙そうに頷く古市貴之と、花村陽介。

 イカサマはしない。だから、通しなんてのはやるわけがない。


陽介「だから――」

貴之「ああ――」

京太郎「俺たちの酒代を出してもらう。それだけだ!」

シン「は?」


 ただ、気持ちは一つだった。


京太郎「チー。一発消しな」

シン「へ?」

陽介「ほい、現物」

貴之「須賀……ここか?」

京太郎「ポン。手番飛ばし」

シン「え?」

陽介「ぴったりじゃねーか」

貴之「ふふ……俺のことは、知将古市と呼んでくれ」

京太郎「やっぱ、流石だよなぁ……知将は伊達じゃない」

陽介「まあ、偶々なんだろ?」

貴之「いやー、ハハハ……」

京太郎「いやいや、ナイスだって……ついでに嫌がらせ。カン」

シン「は? え?」

陽介「おっ、この顔は当たり牌って奴じゃねーの!」

貴之「囲い殺しって、流石麻雀部だな……」

京太郎「ま、このスジだろうから……これで心置き無く――」


陽介「せっちゃんリーチ!」

貴之「ステラリーチ!」

シン「……ッ、おい……!」

京太郎「ルナマリアロン!」

シン「あ、あんたらって奴はァ――――!」


 ・
 ・
 ・


京太郎「よしよし、勝った勝った」

憧「なーに、ニヤけてんのよ」

京太郎「痛っ……って、憧か」

憧「あんまりだらしない顔しないでよね。あたしが恥ずかしいんだから」

京太郎「悪い、悪い」

京太郎「でも……俺がだらしない顔するのと、憧が恥ずかしがるってどんな関係があるんだ?」

憧「……」

憧「……はぁ」

京太郎「な、なんだよ? どうかしたか?」

憧「……うっさい。なんでもないわよ」


和「あ、憧。須賀くん」

憧「やっほー、和。さっきの時限ぶりねー」

憧「どうしたの? 買い物?」

和「ええ。ちょっと、備品を……」

京太郎「なんだよ。言ってくれたら、俺が行ったのに……」

和「いや、流石に須賀くんに悪いですので」

京太郎「いや、和からの頼みなら迷惑じゃないって! 全然!」

憧「……」

京太郎「それにほら、力仕事って男の仕事だろ? だから、昔みたいに任せてくれていいんだって」

和「はあ」

憧「……調子いいんだから」


京太郎「それにしても、そろそろ夏休みかー」

憧「ね。こっちは、奈良より涼しいけど」

京太郎「そうなのか?」

和「奈良は、盆地ですからね」

憧「夏は暑い、そんで冬は寒い。素敵な気候でしょ?」

京太郎「うわぁ……大変だな」

京太郎「長野に比べたらこっちは、どうにも湿気が多くてなぁ……」

憧「そうなの?」

和「ええ。やはり、山の近くは余計な湿度がなくて過ごしやすいです」

京太郎「冬は……わりと地獄だけどな」

和「……確かに」

憧「でも、夏は涼しいんでしょ?」

和「山間部のいくつかは別荘地としても利用されますから、夏は悪くない気候ですね」

憧「いいわねー、それ」

京太郎「なんなら、夏休みに遊びに来るか?」

憧「……っ」


憧(こ、これって京太郎からのお泊まりのお誘い!?)

憧(だ、大学一年生か二年生が、そーゆーの一番多いって聞くしあたしもここで!?)

憧(ふきゅぅぅぅぅぅう!?)

憧(そ、それにぃ……)

憧(家までって、両親公認なの!?)

憧(お、男は怖いけどでもあたし、京太郎ならそこまで悪くもないって思えるって言うか)

憧(知り合いこいつしかいないし、皆なんかギラギラしてていやらしいっていうか怖いし)

憧(こ、こいつになら、あたしの……こいつとだったらあたしも……)

憧(……って、違う違う違う違う違うからぁ! 今のなしなしなしなしっ!)

憧(ああもう背が高いなぁ、キスするときどうしたらいいんだろう京太郎と……)

憧(京太郎の細い指があたしの頬っぺたに……あー、あー、なしっ! 今のなしっ!)

憧(あたしはこいつのこと、なんとも思ってないし……)

憧(こいつは、しず一筋にだし……)

憧(……)

憧(……でも和にもデレデレしてるからなぁ)

憧(……)

憧(……あ、あたしもさ。和や宥姉みたいに大きくないけど、挟むことぐらいはできるから)

憧(こ、こいつ……もしかしたら、あたしの……)

憧(……)

憧(うわーっ! 違う! 違うんだからっ! 違うってばぁ!)


京太郎「麻雀部の皆を誘って、キャンプとかどうだろう」

和「ええ、楽しそうですね」


京太郎「……あ」

京太郎「こんにちは、小走先輩!」

やえ「……あ」

やえ「ど、どうも」

和「今日は部活には……?」

やえ「いや、予定があって……」

和「そうですか? 残念です……」

やえ「……」

京太郎「……」

和「……」

憧「……」


 気まずいんだよなぁ……この沈黙が。

 麻雀以外で交流するつもりはないのか、何となくこの人とは打ち解けない。

 時々、質問すれば教えてはくれるし、その受け答えは丁寧ではあるが、何となく壁を感じる。

 卒業したら、それっきりで終わりそうだ。

 非常に寂しい気がするが、四六時中否応なしに生活を共にする高校とは違い、大学というのはそんなものなのかもしれない。

 なんて――まだ、大学生一年目の夏で語るのは気が早いだろうか。


やえ「それじゃ……」

京太郎「あ、お疲れさまっす」

和「お疲れさまです、小走先輩」

憧「お疲れさまです」


 それに、外部から顔を出しているクチだから、あまり交流の機会もない。

 飲み会や打ち上げにも、呼び掛けても参加された覚えがないのだ。

 折角だから、もう少し友好を深めたいのだけれど……。


京太郎「お疲れさまですー」


 部室を開けるとそこは――。


智葉「だから、海でいいだろう。海で」

菫「いいや、山だ! 誰が何と言っても、山だ!」


 言い争う二人がいた。わりといつものことだ。

 しばしば、この手の事例は発生する。

 大体、二択を与えると意見が割れるのである。この二人は。

 二者択一で、彼女たちの意見が合致するというのは非常に稀である。

 例のあの、取っ手が折れる駄菓子とやたら粉ふく駄菓子比べでも、当然そうなる。

 どっちもたかがお菓子だと言ったら、殺されそうになった。


 ちなみに体感的には、たけのこよりきのこの方がポッキーゲームもどきをやりやすい。

 片方が持ち手を歯で挟んで、もう片方が柄を折らずにチョコレートを舐めとるというゲームだ。

 実際に以前、彼女とふとやってみたが、その長さ故に完全にキスの間合いというか、唇は合わさり、

 恥ずかしいを通り越して馬鹿馬鹿しい域にまで達していたので、以後はやっていない。

 首筋が痛むわ、舌の付け根が痛むわ……一体、あの頃の自分は何を考えていたのだろう。

 若さと言うより馬鹿さである。

 暫く恥ずかしくて、奇妙な沈黙が流れたというのは言うまでもない。


和「あのー、何があったんですか?」

仁美「ああ」

仁美「どっかに遊びに行くかちゆー話になって、そいで、例のごとく弘世とガイトが……」

憧「またかぁ……」


白望「……あ」

白望「丁度いいところに……」

京太郎「あー、今度はなんですか?」

白望「……」

白望「……」

白望「……」

京太郎「……小瀬川先輩?」

白望「シロでいいって……。ダルいなぁ」

京太郎「あ、す……すみません」

白望「そういうのも、ダル……」

京太郎「あ……いやその、ごめんなさい」

白望「……」

塞「こらこら、後輩を虐めるなって」

胡桃「須賀くんに悪いでしょ! シロ!」

白望「……塞。胡桃」


 椅子に気だるげに寄りかかっていた小瀬川白望は、叩かれた後頭部の方へ、頭を倒して視線をやる。

 椅子の背もたれから、天地が逆転した顔が覗く。

 額にかかっていた前髪が、重力に従って頭頂部へと垂れた。

 今ごろ向こうでは額が覗いてるのかなー……なんて、弓なりに反ったことで強調される白望のバストを眺めながら思う。


 手を伸ばせば、そこにある。届きそうだ。でも、届かないかもしれない。

 もしかしてここ、約束の場所だろうか。

 約束の場所だろうかなかろうが、オーバーフューチャーするだろう。刑務所に突っ込まれて。

 出てきたら何年立つんだろう。

 無職。猥褻罪。前科あり。多分、焦燥感しか生まれない。


憧「……」

京太郎「いてっ……な、なんだよ」

憧「……サイテー男。チラチラ見ちゃって、いやらしい」

京太郎「なっ」

憧「あんた、そーゆーところが残念よね。だから残念なイケメンとか呼ばれるのよ」

京太郎「ぐっ……な、何もそこまで言わなくてもいいだろ?」

憧「ふん」


京太郎「……あ」

京太郎「そーかそーか。悪かったな、憧。ごめんな」

京太郎「いや、悪い。本当に悪かった」

憧「……何よ?」

京太郎「あれだよな……その、さ……」

憧「だから、何よ?」

京太郎「小瀬川先輩への僻み、だろ? 気付かなくてごめん」

憧「はぁ!?」

憧「あ、あたしだって着痩せしてるだけでちゃんとあんたが思ってるよりも――じゃ、ないっ!」

憧「サイテー! あんた、本当の本当にサイテー!」

京太郎「じょ、冗談だって! 冗談! 痛っ、悪かった! 冗談だから!」

憧「うっさい、このセクハラ男!」


和「……はぁ」

和「憧も須賀くんも、本当に仲がいいですね」

憧「はぁ!? なに言ってるのよ、和!」

憧「こんな、間抜けのむっつりスケベとなんて別に仲がいい訳じゃないから!」

憧「馬鹿だし! 教授の言った課題聞き逃すし! 人がダイエットしてるってのに、カフェテリアに付き合わせるし!」

京太郎「そうだぞ、和」

京太郎「何だかんだ腐れ縁みたいになったから一緒にいるだけだからさ」

京太郎「男から話しかけられると、すぐにテンパって俺に助けを求めてくるんだから、しょうがなくだって」

憧「う……」

憧「別に、あんたに助けを求めてないっ! 迷惑だから、同じ男だしどうにかしてって思っただけだから!」

京太郎「……それを、助けを求めるって言うんだよなぁ」

和「……はぁ」


憩「どうしたんー?」

和「ああ、この二人のいつものです」

憩「そっかぁー」

憩「喧嘩はやめて、皆仲良くせんとあかんよー」

京太郎「……あ。荒川先輩」

憩「そうそう、荒川憩ちゃんやねー」

憩「はい、これ。ありがとうな、京太郎くん」

京太郎「あ、どうもっす。……どうでした、この漫画は?」

憩「んー、面白かったねー。特に最終決戦の盛り上がりがすっごくてなー!」

憩「少年漫画ってええなぁ……。うん、うちもな、男の子に生まれたくなったんよー」

京太郎「……いや、少年漫画は女性でも読めますって」

憩「んー、お堅いツッコミやねー」


憩「ツッコミもそうやけど……憩でええよーぅ、ってゆーたのに京太郎くんは意外とお固いなぁー」

京太郎「そうっすか?」

京太郎「そこの人見知りとかには、軽薄って言われるんですけど……」

憧「……事実でしょ」

憧「憩さんが優しいから、そう言ってるだけだってば」

京太郎「……お前に見る目がない、の間違いだろ?」

憧「はぁ!?」

憩「こらこら、喧嘩は駄目やって」

憧「……あ、その。ごめんなさい、うるさくして」

憩「なーんて、冗談やけどなー。二人が仲良しさんなんてのは、見てればわかるから」

憧「う……」


 ・
 ・
 ・


白望「須賀、お茶を……」

胡桃「ちょっと、シロ!」

京太郎「あ、はい。どうぞ」

京太郎「アイスティーのレモン二つシロップなしです」

白望「ん」

胡桃「と、当然のように用意してる……」

塞「は、早い……」

京太郎「あと、こちらっす」

京太郎「鹿倉先輩はミルクティーで、臼沢先輩はほうじ茶でよかったですよね?」

胡桃「あ、ごめん……」

塞「ごめんね、京太郎くん。君にばっかりやらせちゃって」

白望「須賀本人も喜んでるから……」

京太郎「ハハ……」

胡桃「こら、シロ!」


塞「……あー。それにしても、一年生だからって気にしないでいいよ?」

塞「飲みたくなったら自分で淹れるから、そんなにやらなくてもさ」

胡桃「私たちの方がお姉さんなんだから、別に気を使わないでいいから」

京太郎「いやー、丁度俺も飲みたかったんでついでっすよ」

京太郎「……っていうか、俺が勝手に淹れただけですし」

塞「そういうとこだよねぇ……」

胡桃「年下なのに、気にしすぎだから」

胡桃「京太郎はもっと、お姉さんたちを頼りにすること!」

塞「なんでも……って訳じゃないけど、気軽に言ってくれたらありがたいよ。うん」

胡桃「大丈夫だから、気軽な感じで……ほら」

白望「…………。なんか、アイス食べたい」

塞「……いや、シロにじゃないからね?」


京太郎「なんでもって……あー」

胡桃「何?」

塞「何かあったかな、京太郎くん」

京太郎「いやー、なんか、催促しちゃうみたいで悪いんですけど……」

塞「うんうん、何かな」

胡桃「ほら、早く!」

京太郎「いや……そのー」

京太郎「お茶がお口に合ってるかどうか聞きたいかなー、って感じっすけど……駄目ですか?」

胡桃「――」

塞「――」


胡桃「……塞」

塞「……胡桃」

胡桃「どうしよう。この子、いい子すぎる。いい子すぎて不憫だ……」

塞「あー、うん。正直年上の立場とかないよね」

胡桃「なんとか……休ませないと」

塞「……」

塞「あ、そうだ。丁度いいこと思いついたかも」

胡桃「なになに?」

塞「いやいや、これはさ――」


京太郎「……あ」

京太郎「荒川先輩、和、憧。お茶を」

憩「ありがとーなぁ」

和「ありがとうございます、須賀くん

憧「……ありがと」

憧「でも別に淹れなくていいって――っていうか、淹れんなってハッキリ言ったよね?」

憧「んなことする暇あったら、一局でも打ちなさい……って」

京太郎「……あー」

憧「弁解は?」

京太郎「ま、まだ部活始まってないからセーフってことでさ! な!」

京太郎「ほら、それに……あの先輩二人もちょうどティーブレイクって感じになるだろ! な?」

憧「……。……はぁ」

京太郎「え、江崎先輩ー! 弘世先輩ー! 辻垣内先輩ー!」


京太郎「あの、はい。どうぞ。お茶です」

仁美「おっ、ありがとう。これ、うちんは……」

京太郎「コーヒーに砂糖ミルクアリアリです。はい」

仁美「ん、よく覚えとるなー。麻雀と記憶力は無関係じゃなかとね」

京太郎「ハハ……」

仁美「それ、弘世たちにも?」

京太郎「ええ。たまに言い争うっつっても、ここまで続くのは珍しいですから……そろそろブレイクかなーって」

仁美「んー」

仁美「ま、狂犬に噛みつかれんようにな。骨は拾ってやるけん」

京太郎「骨になる前に拾ってくださいよ……」

仁美「そーゆーんは、高校ん頃で懲りた。大学まで来てぽんこつの面倒ば見んのは面倒やけん」

京太郎「それ、洒落っすか? 全然面白くないけど……」

仁美「……」

仁美「なんもかんも政治が悪い。はっきり判るとね」

京太郎「ギャグにならないギャグを政治の責任にするのはどうかと……」

仁美「今の国会中継自体、公共の電波使って全く笑えん話しとるだけやって」

京太郎「そういう各方面に喧嘩売るセリフはやめてください!」


京太郎「ちわーっす。三河屋です」

菫「……須賀か」

智葉「……須賀」

京太郎(目が怖い)

京太郎「お、お二人も喉乾いてるんじゃありませんか? ほら、夏ですし……」

菫「夏は関係ないと思うが……まあいいか」

智葉「ありがとう、京太郎」

京太郎「いやー、全然構わないですよ! むしろ、お二人に飲んでいただけるだけいいなーって」

菫「……須賀。だから、そういう言い方をよせと言ってるだろう」

菫「たとえ周りがどうだとしても、お前の力は立派に通用するものだ」

菫「インターハイ個人戦2位だったんだ。そう、卑屈になるものじゃない。お前は立派だ」

智葉「……弘世」

智葉「今のは深い考えがあって言ったわけじゃないから、そこまで目くじらを立てるものでもないだろ」

智葉「そういうのが京太郎の美点でもあり、欠点であることは私も認めるがな」


菫「……じゃあ別にいいだろ」

智葉「確かにな。お前が細かいことに拘るぐらいに、どうでもいいことだった」

菫「……」

智葉「……」

京太郎(怖い)

京太郎(普段は仲が悪くないのに、なんでか時々こうなるんだよなぁ……)

京太郎(二人とも悪い人じゃないのに。というか、コンビなのに)

京太郎(つうか、今回はやけに長いって言うか……なんだろう)

京太郎(なーんか、険悪すぎるっていうか……様子が変だよなぁ)


菫「というか、辻垣内。人の弟子をそういう風に貶めるな」

智葉「ならお前、そうしないように面倒見ろ。師匠なんだろ、須賀の」

菫「うるさい。どう言っても治らないんだから、仕方がないだろうが」

菫「というかそれを言い出したらな、お前も須賀に教えてるだろう? 私は知ってるんだぞ」

智葉「あれは……多少アドバイスをしただけだ」

菫「多少? 終わってからも雀荘に連れて行って教えてるのを多少というのか?」

智葉「ああ。お前や新子が面倒を見ている時間に比べたら、多少としか言いようがないな」

菫「フン。少しでも教えたらな、師匠なんだよ。師匠」

菫「認めろ、お前は須賀の師匠だ」

智葉「認めたとして、それでどうすればいいんだ? まさか須賀に、『先輩の前で丁寧な言葉を使うな』とでも言えばいいのか?」

菫「言ってみろ。それであいつがやめたら、お前は晴れて師匠だな」

智葉「……それで、どうするんだ」

菫「ただ、これだけは言っておく。須賀の第一の師匠は私だとな!」

智葉「……馬鹿か。馬鹿なのか」


京太郎(やばい。なんかこっちに飛び火した)

京太郎(順番的な意味での俺の師匠は、竹井先輩……部長なんだよなぁ)

京太郎(確かに、弘世先輩が教えてくれた力のおかげで大分やっていけるようになったから、そういう意味だと第一師匠だよなぁ……)

京太郎(でも、福路さんの力と組み合わせないと俺じゃあ使い切れないしな)

京太郎(迷うな……どっちが第一師匠なのか、そこらへんが)

京太郎(どっちも巨乳だしなぁ……うん)

京太郎(確かに福路さんがおしとやかさでは一歩上だけど、弘世先輩も面倒見がいいし)

京太郎(迷う)


白望「……須賀」

京太郎「あ、はい! なんですか?」

白望「あれ、どうにかしてきて」

京太郎「オレェ?」

白望「早く。……あんまり喋るとダルい」

京太郎「アッハイ」


京太郎(GW過ぎてから、小瀬川先輩係りなるものに任命されたけど……)

京太郎(この人、何を考えてるかマジでわかんねーよ)

京太郎(ご飯作っても「おいしい」って言ってくれないから……なんか作り甲斐がないっていうか、俺は都合のいい男なのかっていうか)

京太郎(……いや。違うだろ。俺はヒモにされてるキャバ嬢かよ。悩みはそこじゃない)

京太郎(なんとなく、なーに考えてるのか判らないんだよなぁ)

京太郎(まあ、実に巨乳さんだからそういう意味では、ご馳走様なんだけどさ)

京太郎(さて……)

京太郎(鹿倉先輩と臼沢先輩は何やら話し込んでるし……うーん)

京太郎(なんだってんだ? なんか、鹿倉先輩が慌ているよーな……なんだ?)


憧「ねえ、京太郎」

京太郎「なんだ?」

憧「どうしよう。あの二人」

京太郎「それは、俺も聞きたい」

憧「だよね……」

和「別に、あのままでいいんじゃないでしょうか」

和「いつものことですし」

京太郎「それは……」

憧「流石に……」


京太郎(なあ、和ってこういうとこやけにドライすぎないか?)

憧(ふきゅっ、み、耳弱いんだからやめてよっ)

京太郎(ん、ああ……悪い。ごめんな)

憧(別にいいけど……っていうか、高校に行ってからの和を良く知ってるのはあんたの方でしょ?)

京太郎(子供のころの和を知ってるのはお前の方だろ?)


京太郎(なあ、荒川先輩は?)

憧(あっちで、マンガ読んでるわよ)

京太郎(……あの人も大概マイペースだよなぁ)


 積み上げた、京太郎お勧めの少年漫画を読んでいる荒川憩。

 少年漫画だけど、中々どうして出血だの傷害だの体の各部位が吹っ飛ぶだのの描写が入っているが――。

 色々な意味で動じていない。いつもどこでも、朗らかに笑顔を浮かべている。

 それは麻雀のスタイルにしても同じである。


京太郎(……で、俺はどうしたらいい?)


 江崎仁美――あの二人を止める気なし。

 小瀬川白望――止めてほしいけどやる気なし。

 臼沢塞――鹿倉胡桃と何やら話し合っている。

 鹿倉胡桃――臼沢塞と話し合っている。心なしか慌てている。

 原村和――当人は、至って平然とパソコンを立ち上げている。

 荒川憩――漫画を楽しんでいる。本当なら一番頼りになる。


憧「……なら、あたしが行こうか?」

憧「いつもなんだかんだと仲がいい二人がああなってるの、なんか嫌だし」

憧「……あんたにばっかやらせるの、悪いし」


 憧はこう言ってくれているが――。


京太郎「いや、いいよ。俺がやっとくって」

憧「でも――」

京太郎「いいって。こーいうとき、お前ってなんだかんだ優しいのな」


 何の気なしに憧の頭の上に手を置いて笑いかける――。

 っと、危ない。女にこういう態度を表すのってのは、色々と無神経な気がする。ちょっと不味い。

 セクハラどうこうというのが、学生課の掲示板に貼られていた気がするし……。


京太郎「とりあえず、いい子で待ってろよ」

京太郎「ま、こーゆーのは清澄高校元部長にして雑用係長の俺に任せなさい……ってね」

憧「……う、うん」


 さて、こういうときは実に簡単だ。

 色々な策なんていらない。辻垣内智葉はそれを簡単に見破ってしまうから。

 だから、直球勝負だ。


京太郎(ありのままの俺で行く――!)


京太郎「先輩先輩、ところでさっきから何の話をしてるんですか?」

智葉「ん? ああ、今度はどこに遊びに行くかって話になっててな」

智葉「折角、夏だから――海にでも行こうかと言ってみたんだけど」

菫「いいや、山だ」

菫「夏なら海。誰がそう決めた? 私はそういう、ありきたりで短絡的な思考というのが嫌なんだ」

菫「夏で山に行っても別にいいだろ? 私はそう思う」

菫「むしろ避暑という意味では山の方が相応しいんじゃないか? 海なんて、どうせ人は多いしナンパする奴らもいる。女所帯でこれはよくないだろう」

菫「だから、山でいい。論理的じゃないか」

智葉「――ってぐらいに、どこかの頑固者が譲らないんだ」

菫「ふん。頑固者はお前だ。このイカ野郎」

智葉「私は女だから、野郎はないだろ?」

菫「……イカ女」


京太郎(論点違げぇ……)

京太郎(うーん。なんつーか、不自然だな、弘世先輩)

京太郎(いつもここまで変にムキになることなんてないのに……どうしたんだ?)

京太郎(それに、辻垣内先輩も引っ張られてる感じだし――なんだこれ?)

京太郎(よっぽど、弘世先輩は山に行きたいのか?)

京太郎(なんでなんだ……一体。理由が全く分からねーんだよなぁ)


京太郎「そのー、せ、先輩……?」

菫「なんだ?」

智葉「どうした?」

京太郎「遊びに行くのなら、って話……ですよね?」

菫「……まあ、折角だしな」

智葉「こうしてサークル単位で遊びに行くのって、大学生っぽい……ってところだろうな」

京太郎「うん、いいんじゃないですか?」

京太郎「そういう風に、みんなと遊びに行くっての……俺も憧れてました! 大学生っぽくて」

菫「ほう?」

菫「うんうん、そうだろう。そうだよな」

京太郎「はいっ! そらもう、ガンガンお供しちゃいますよ! 俺、そういうの楽しそうで好きです!」

菫「そうか、須賀は結構乗り気なんだなぁ」


菫「……うん」

菫「新子。お前はどうだ?」

憧「えっ、え、えーっと」

憧(あたしの方に話が飛んできた……びっくりした)

憧(うーん)

憧(ああいう顔してるときの京太郎の奴が、何にも考えなしにあーやって乗っかる訳ないよね?)

憧(あいつ、何考えてんだろ……うーん)

憧(……)

憧(……判んないわよ、いきなりあんたの考えを察しろなんて言われても)

憧(何とかしようとしてるんだから……察してあげたいけど)

憧(……)

憧(でもあいつが助け船出してこないってことは、あたしの好きに答えていいってことかな?)

憧(じゃあ――)


憧「あたしも……興味あるかなーって」

菫「そうか! うん、そうだな」

菫「折角だし皆で遊びに行くか……山に!」

憧「え゛っ」

菫「ん?」

憧「い、いや何でもないです……えっと」

菫「?」


憧(山、かぁ……)

憧(ちょっとこの時期虫が多いから、考えものよね……山って)

憧(あと……)

憧(それに……)

京太郎「?」

憧(山とか行って、あいつは思い出さないかな? その、色々と……)

憧(……)

憧(多分、山登り自体は好きなんだろうけど……好きなんだと思うけどさ)


智葉「察しろ、弘世」

菫「……何がだ?」

智葉「今、新子は山が嫌だと言いたそうだったんだ。先輩の手前言えなかったがな」

菫「……お前が、他人の気持ちを勝手に代弁するな」

智葉「どうかな」

菫「そうやって何でも分かった風にしてるが、お前の方こそ外れかもしれないだろう」

智葉「さあ」

憧「え、えっと……」

憧(なんか、ドンドン雰囲気が険悪になってるんだけど!?)

憧(えっ、どーすんのよコレ! ちょっと!)

憧(京太郎の奴、一体何を考えて――)


菫「新子、お前はどうなんだ? 山だよな? 山だろう?」

智葉「そういう、圧迫尋問みたいな顔はよせ。お前のその狂相で睨まれたら誰でも萎縮する」

菫「……それをお前に言われたくない」

菫「どうなんだ、新子。正直に答えてくれていいぞ?」

智葉「夏なら海がいいとか、夏なら山がいいとか……そんなのでもいい」

憧(完っ全に! あたしに飛び火してるし!)

憧(ねえ、考えあるのよね!? だからあたしも助け船出したのよ!?)

憧(ちょっと、京太郎――!)


京太郎「――先輩! どうせなら皆に聞きませんか?」

菫「ん?」

京太郎「多数決が絶対、なんてことは言いませんけど……折角全員で遊びに行くんだし、ほら」

菫「……いやな、須賀」

京太郎「って、元々全員に聞くつもりでしたよね? 弘世先輩が、そーゆーのおざなりにするつもりはないっすもんね!」

菫「あ、ああ……」

菫「いやな、須賀……別に私は……」

京太郎「鹿倉先輩! 臼沢先輩! 海と山のどっちがいいですかー!」

菫「あ。おい……!」


胡桃「えっと、強いて言うなら……海かな」

塞「海水浴とか懐かしいね。前に、永水の人たちと一緒に行ったっきりだったから」

京太郎「海に二票、っすね」

菫「……おい」

菫「なあ、須賀――」

京太郎「おーい、和! 海と山のどっちがいいー?」

和「のどっちで」

京太郎「……は?」

和「……」

京太郎「……」

和「……コホン。須賀君は何も聞いてない。いいですね?」

京太郎「アッハイ」


和(……思ったような反応じゃありませんでしたね)

和(……)

和(別に私がたまには冗談を言ってみてもいいじゃないですか)

和(今のはかなりの自信作だったと思うのですが……須賀君にはまだ早かったのかも……)

和(それとも、そんなに意外だったのでしょうか?)

和(うーん)

和(ちょっと、今のはタイミングが悪かったようですね。次は、気を付けます)


京太郎「……の、和?」

和「ああ、はい」

和「海か山か……の話でしたっけ?」

京太郎「そうそう」

京太郎「どうせなら、次に時間が空いてるときに皆で行かないかって……弘世先輩がな」

菫「えっ」

菫「いや、わ、私はそんな――」

和「そうですか」

和「私は、どちらでも構いませんよ」

京太郎「了ー解っ」

京太郎「和は、どっちでもいい……と」

和「む」


和「違います、須賀君」

京太郎「へっ?」

和「『どちらでも歓迎する』と『どっちでもいい』との間には、大きな差があります」

和「いいですか? たとえ結果として変わらなかったとしても、その言葉では大きく捉えられ方が変わります」

和「私は、『皆と遊びに行けるのならどこででも嬉しい』……そんなニュアンスで言ったんです」

和「ここまではいいですか?」

京太郎「お、おう……」

和「それなのに、須賀君の言い方じゃあまるで私が『興味がないから好きに決めてくれ』と言っているみたいじゃないですか」

和「これでは誤解が生まれます。私が言いたかったことの意図が、まるで180度反対向きになってます。本末転倒です」

和「これじゃあ、伝えた意味がありません。伝言の意味がまるでないです」

和「わかりましたか?」

京太郎「お、おう……。いやその、悪い……」

京太郎「つ、次からは気を付けるよ。悪かった……」


和「……なんて、冗談です。さすがにここまで変なこだわりもお説教もしませんよ」

京太郎「えっ」

和「えっ」

京太郎「……」

和「……須賀君、あなたは私をどういう目で見てるんですか?」

京太郎「いやー、ははは」


京太郎「ま、まあ……和は『皆に合わせる』ってとこだな」

和「ちょっと、須賀君。私の話はまだ――」

菫「……はっ」

菫(原村のあまりの冗談のセンスに、思わず硬直してしまった)

菫「す、須賀? 私はな、その――」

京太郎「荒川先輩。荒川先輩はどっちですかー?」

憩「んー? うち?」


憩「私はなぁー、みんなと遊びに行けるならどっちでもええけどー」

憩「んー」

憩「山もええかなーって、思うんよ」

菫「!」

菫「だ、だろう? そうだろう?」

菫「山はいいよな、山! 私は好きなんだ、山が!」

菫「うん、山だな! やっぱり山がいいんじゃないかな! うん!」

憩「でもなぁ……みんなと海に行くのもええかなーって思うんよ」

憩「ほら、山やと……虫さんが多いから、みんな気にするんやないかなーって」

憩「刺されて、お肌があれちゃったりしたら、みんな困ったりするでしょー?」

菫「……う」


菫「大丈夫だ! あまり、熱くない場所に行けばいい!」

菫「元々、避暑が目的だからな! 熱くない場所なら、大丈夫じゃないか? うん」

憩「そーぉ?」

菫「そうだ。そうそう、大丈夫だ。大丈夫だろう、うん」

憩「そっかぁー、大丈夫なんやなー」

憩「なら、海やなー」

菫「そうか、山か……って、オイ!?」


菫「い、今の流れは完全に山だっただろ! 山だったよな!」

憩「んー」

憩「山もええなぁー、とは思うんよーぅ?」

菫「な、なら――」

憩「でもなぁ、塞ちゃんと胡桃ちゃんが海に行きたいって言ってるんやろ?」

憩「だったら、海にしないとかわいそうやないかなーって」

菫「……ぐ」


京太郎(流石は“白衣の悪魔”“殺意の天使”こと荒川先輩だぜ)

京太郎(しつこいナンパをしようとしていた男を、サンボと柔術で鎮圧しただけのことはある……)

京太郎(俺からしたら、普通に笑顔でにこにこ可愛らしい先輩なんだけどなぁ)

京太郎(んー)

京太郎(そんなに山がいいのか? それとも海は何か嫌な思い出とかあるのかな……)

京太郎(足攣ったとか、そのあと水が怖いもんなぁ……)

京太郎(咲も小学校の頃プールで攣ったから、水泳嫌だとか中学の時言ってたし)

京太郎(懐かしいなぁ……そのあとあいつの、水克服特訓に付き合ったりしたっけ)


京太郎「弘世先輩、弘世先輩」

京太郎「俺は山がいいですよ?」

菫「! 本当か!?」

菫「須賀、そうだよ……お前はそういうやつだと信じてたぞ! やればできる子だってな!」

京太郎「は、はぁ」

菫「うん、持つべきものは弟子だな。いい弟子だ。うんうん、お前はいい後輩だ」

智葉「……遠慮してないのか?」

京太郎「遠慮? してませんよ? 俺、山好きですし……」

憧「……」

憧「京太郎が山でいいっていうなら、あたしも山でいいです」

菫「そうか? そうかぁ……!」

菫「聞いたか、辻垣内! この後輩たちを!」

菫「見ろ、ほら。こいつらがな、可愛い後輩がな、山がいいって言っているんだ」

菫「ここは先輩として、可愛い後輩の希望を聞いてやるべきなんじゃないのか? なあ」

智葉「……まあ。そこについては、確かにそうだと言っておくが」

菫「だろう? なら、これで決まり――」


京太郎「――でも俺、臼沢先輩たちのことも思って、考えたんですよ!」

京太郎「両方行けばいいんじゃないか、って!」


菫「――いいィ!?」


京太郎「時間あるんですよね?」

京太郎「ほら、大学生だし……そういう両面待ちも行けちゃうんじゃないかなって」

京太郎「どうせなら、両方行った方が楽しいじゃないでしょう! お金ないなら、日帰りとかで」

憧「あー、まあ、確かに」

憧「あたしは別に構わないけどさ」

京太郎「だろ?」

和「私も、皆がそれでいいというんなら構わないです」

和「というよりも、みんなで両方行ける方がもっともっと嬉しいですね」

京太郎「な、そう思うよな?」


菫(両面待ちだと……!?)

菫(くっ、こいつに最初に麻雀を教えた奴はなんて教えてるんだ……クソッ!)

菫(ここは辺張待ちでも嵌張待ちでもいいだろ!)

菫(くっ、なまじいい子などと言ってしまったものだがら……!)

菫(ぐぅ、す、須賀ができた後輩なだけに……ぐぐぐ)

菫(だ、だが……そう。まだだ! まだ終わらない!)

菫(両方に行くというのであれば……そう、順番を選べば……! まだ私には猶予が……!)


憩「んー、私は構わんよーぅ」

憩「皆で、仲良くできたらいいなーって」

胡桃「わ、私も……」

胡桃(ちょっと京太郎に水着を見せなきゃいけないのは……うん)

塞「う、うん……まあ、私も別にいいかな」

塞(そういえば男の子に水着を見せるというのはこれが初めてかもしれない……)

塞(なんだか緊張してきたな……)


智葉「――じゃあ、先に海でいいな」


菫「いいィ!?」

憧「ふきゅぅぅぅ!?」


智葉「ん? どうした、新子まで?」


憧「い、いや……その……」

憧「あの、えーっと、その……なんというか、あの」

憧「何でもないです……はい」

智葉「?」


憧(う、う、う、海ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?)

憧(先輩たちの雰囲気が悪いから、それを何とかしなきゃってすっかり忘れてたけど、海ぃぃぃ!?)

憧(う、海って言ったら……水着! 水着っ!)

憧(こ、このバカに……水着見せなくちゃならないじゃない!?)

京太郎「?」

憧(こ、こんなスケベで……スケベで、スケベな奴の前で水着?)

憧(あ、あたしはそのほら宥姉とか和とか玄とかみたいに胸がある訳でも別になんでもないけどでもこいつの射程距離に収まってそうだし)

憧(結構、自分でもスタイルいいんじゃないのかなっていうかなんだかんだ谷間出来るし着痩せする方だし結構いいとこ行ってるんじゃないかだし)

憧(水着ってすごく薄いからこいつの前にほとんど裸同然の姿をさらすことになるし……ふきゅぅ、今の違う違うさすがに裸じゃない)

憧(そう、下着同然! 裸は言い過ぎた! さすがになしなしそれはなし恥ずかしすぎるからっていうか恥ずかしすぎるってレベルじゃないけど)

憧(でもそんなの京太郎の目の前に出すって本当に恥ずかしいのよ! いや別にこんなスケベでくそ真面目っぽいくせにちゃらんぽらんな男のことなんてどうでもいいけ

ど!)

憧(でもこいつ気が利くやつだし生意気でこっちに張り合ってくるとこあるけどちゃんと抜け目がないっていうかタイミング外さないで頼りになるし)

憧(身長高いし顔も整っているって言えば整ってるし、正直子供のころに呼んだ漫画に出てくるようなイケメンって感じだけど……でもでもでも)

憧(こいつやっぱりスケベだしスケベだしなんかだらしないっていうか抜けてるしあたしにフォローさせるとことかあるしだから甲斐性ないし)

憧(でもいい奴で……って、相手は男! 男なの! 男なのよこいつ! しかも京太郎だから! 京太郎だし! 京太郎だもん!)

憧(こいつどうせスケベだし、シズがいたくせに和にデレデレしたりシロさんにニヤニヤしたりほんっとうにスケベでやらしいえっちな男なんだから!)

憧(京太郎の前なんかで水着見せるとかそんなのない! 絶対ない! 無理無理! こんなスケベな奴に見せらんない!)

憧(で、でもちょっとこいつに褒められたらそれはそれで悪い気しないっていうか、どうなんだろ。あたしの水着のセンスとか褒めてくれるのかな)

憧(……)

憧(……えへへ)

憧(でも、こいつに似合ってないって言われたらなぁ)

憧(……)

憧(結構、ショックかも――)

憧(――って違う! 今のなしなしなしなし! 別に京太郎に見られたくなんてないから! こいつにそういうのは早いし、あたし別に見せたくないからね!)

憧(ないないないない! なし! あたし、別にこいつのことなんて何とも思ってない!)


京太郎「……?」


憧(なによあたしの気も知らないでぼんやりした顔しちゃって! 京太郎の癖に!)

憧(元はと言えばあんたが海とかそんなこと言い出したからでしょ! おとなしく山にしときなさいよ!)

憧(……う)

憧(でも、こいつしずとのことで傷付いてるかもしんないし……元はと言えば、先輩たちの仲を取り持とうとしただけだから……)

憧(……)

憧(……うん、別に京太郎は悪くないのよね。だって、塞さんたちも海に行きたいって言ってただけなんだから)

憧(こいつは別に悪くないっていうか、だから、あたしもフォローしてあげないと……)

憧(……)

憧(……)

憧(……うぅぅぅ)

憧(うううぅぅぅううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………)


京太郎「いやー、でも楽しみですねー」

京太郎「俺、みんなとこうやって麻雀部で遊びに行けて嬉しいっすよ!」

智葉「そうか?」

智葉「実は、女どころに一人だから喜んでるんじゃないのか?」

智葉「何せ、美人が多いもんな」

京太郎「……うっ」

京太郎「べ、別に……そんなことはないですよ?」

京太郎「ええ、ないです。ないのですよ。ええ」

智葉「なんだ、そのキャラは……?」


憧(ほ、ほらやっぱり! やっぱりあんたはそんなやつなのよ! このどすけべ! えっち! へんたい男!)

憧(皆の仲を取り持つ風にしながら、そーやって自分にとっても都合がいい感じに話を進めようとしたんでしょ! 最低!)

憧(やっぱり男とか信用できない! ナンパしてくるやつとか声かけてくるやつとかみんなそう! 最低よ、最低!)

憧(こいつのことを信用しようとして損した! あたしがバカだった!)

憧(シロさんも弘世先輩もスタイルいいし、塞さんもそう。もちろん和も。絶対こいつ好み!)

憧(憩さんは可愛い系。辻垣内先輩はスレンダー系。胡桃さんは……正直しずのこと考えたらたぶんこいつ全然イケるはず)

憧(そうやって、みんなの水着を見ようとしてるんでしょ! このバカ! バカ男!)

憧(さいってー! ほんと、さいってー!)

憧(……)

憧(なんか、悔しいな……。こいつがそーやって、デレデレしてるとこ考えると)

憧(こいつ、ナンパ男と違って……外見だけで人との付き合いを選ばないし……なんだかんだ、悪くない奴だし)

憧(うー。そ、そう! これはあれよ! こいつに先輩に嫌らしい目を向けさせないようにするだけ! 高校からの知り合いだから、あたしの責任なだけ!)

憧(そう、別に他意なんてない! ないったら、ない!)

憧(つまり、こいつからあたしへの挑戦状なの! こいつとあたしの戦いなのよ、これは!)


京太郎(……さっきからスゲー眉間に皺寄せたりしてるけど、大丈夫か、憧の奴)

京太郎「なあ、憧……大丈夫か?」

憧「だ、大丈夫よ! 受けて立つわ! 見てなさい! あたしは、負けないんだからっ!」

京太郎「お、おう……」


菫「待て、辻垣内」

菫「なんだかすっかり海が先に行くことで決まったような顔をしてるが……まだそうと決まったわけじゃないだろう?」

菫「そうだろう? そのはずだ。まだ決まってないんだ」

智葉「……はぁ」

菫「な、なんだよ」

智葉「お前が、『海は人が多い』とか『ナンパとか面倒だ』って言ったんだろう?」

智葉「だったら、そういうのが集まる前に行く。早い段階で行く方が、いいに決まってるだろ」

智葉「お前が自分で言ったことだ」

菫「……うぅ」

憧「あたしも、その方が嬉しいかなーって」

憧「やっぱり、ナンパとか……怖いし」 チラッ

京太郎「?」


憧(うー)

憧(そこは、『俺が守ってやる』って言いなさいよ! 気が利かないんだからっ!)

憧(この、甲斐性なし!)


京太郎「あー」

京太郎「まあ、憧とか可愛いし……この部活は美人多いからなぁ」

憧「ふきゅっ」

京太郎「?」

憧「う、うっさいばか! このばか!」

京太郎「な、なんだよ……俺は別に事実を言っただけで……」

憧「うるさい! うっさい! 黙れ、このむっつりスケベっ!」

京太郎「は……?」

京太郎「いや、どうしてそうなるんだ? つーか、別に俺はただ褒めただけじゃ……」

憧「そーゆーとこが駄目なのよ! このバカ! バカ男! 嫌らしい目してんのよ!」

京太郎「はぁ!?」

京太郎「なんで俺がこの流れで罵倒されるんですかね……いや、マジ……」

憧「あんたが悪いんだってば! この鈍感男! 甲斐性なし! ぱーぷりん!」

京太郎「……お前。流石にそれ、言い過ぎだっていうか」

憧「う、うるさいのよ! みんなにデレデレ嫌らしい視線送っちゃって! 京太郎の癖に!」

京太郎「なんだよ!」

憧「何よ!」


塞「あー、また始まっちゃったかー」

胡桃「ふ、二人とも、仲良くしないと……」

和「ああ、発作みたいなものですから。大丈夫じゃないですか?」

胡桃「そうなの?」

和「ええ」

和「憧は、男子が苦手なのですが……ああいう風に接していられるというなら、つまりは大丈夫ということです」

和「打ち解けてるのじゃないでしょうか」

憩「んー、まあ、見ての通り仲良しこよしやねー」

塞「見ての……?」

胡桃「通り……?」

塞「確かに時々こんな風に言い争うけど……ねぇ」

胡桃「これは、どうなんだろ……?」

仁美「んー」

仁美「まあ、こん二人のことは放っとけば止まるけん、問題はなかよ」


菫(だ、大丈夫だ……まだ慌てるような時間じゃあない)

菫(落ち着くんだ弘世菫。クールになれ)

菫(まだゲームは始まったばかりだ……そうだろう?)

菫(そう。水着にもな、水着用のパッドというのがあるんだ……形を整えるためにな)

菫(そう、形を整えるため。だからなにも問題ない――)


白望「――てい」


菫「!?」

智葉「!?」

胡桃「!?」

塞「!?」

憧「見ちゃダメ!」

京太郎「ちょ、な、なんだよ……!?」


菫「い、いきなり……後ろから人の胸を掴むなんて……!」

菫「何するんだ! というかあ、何を考えてるんだ! お前は!」

白望「……」

塞「どうしよう……シロが同性に手を出した……というか、気が狂った」

胡桃「シロが……悪戯のために……自分から、動いた……!?」

仁美「驚くとこ、そこなん!?」


京太郎「ちょ、憧、飛び跳ねるな! 危ない!」

憧「う、うっさい! おとなしくしてなさいよ!」


菫「お前はいきなり何を考えてるんだ!?」

白望「……」

菫「元からほとほと常識ってものを疑っていたが、それでもお前のことを信じてたんだぞ!」

白望「……」

菫「いや……おかしいな」

菫「というか、調子は大丈夫か? 何か悪いこととか、お前を苛立たせることがあったのか?」

菫「そういうのは遠慮なく相談してくれ。私は部長で……」

菫「その……私たちは……その、友人……のつもりだ」

白望「……」

白望「……じゃあ、一ついい?」

菫「ああ。私でいいなら……私にできることなら、ちゃんと聞いてやる」

白望「……」

白望「じゃあ、聞きたいんだけど――」


和「……あの、私の見間違いでしょうか?」

塞「いや……私の目も……」

智葉「……」

仁美「……」

京太郎「なんだよ、憧! おい、何がどうなってんのか判らねーって!」

憧「ちょ、ちょっと静かにしてって! あたしにも見えないけど、あんたに見せない!」

憧「っていうか、座りなさいよ! あんた、無駄にでかいからそろそろあたしの足腰限界なの! 飛ぶのも、疲れる……!」

京太郎「いや、意味が……」

胡桃「うるさい、そこっ!」

憧「……はい」

京太郎「……はい」


和「これは……」

仁美「その……」

智葉「おいおい……」

塞「えっと……」

胡桃「いわゆる……」

憩「んー」


憩「――胸、ズレとるねー」


塞(容赦なくブッ込んだ――――――――!?)

胡桃(さ、さすが憩……!)

仁美(少しはオブラートに包んでやっても……)

和(……つまり、どういうことなんでしょうか?)

智葉(……そうか。南無)


憧「こ、こうして目隠しさせてもらうからね?」

京太郎「いや、いいけど……。お前、背中に……」

憧「?」

京太郎「いや、俺は構わないけどな。うん」

憧「――はっ」

憧「う、うぅぅぅ……このド変態男! 最っ低!」

京太郎「いや、俺は悪くないだろ! お前当ててきたから……!」

憧「や、やかましいわよ! このバカ男!」

胡桃「――うるさい、そこっ!」

京太郎「い、いや……今のはこいつが……」

憧「そ、そうよ……! あたしじゃなくてこいつが……」

胡桃「だから、うるさい!」

京太郎「あっはい」

憧「……はい」


菫(こいつには、こいつなりの悩みがあるんだな)

菫(白望も照と一緒で、あまり表情には現れないタイプだ……外からじゃ無表情にしか見えない)

菫(ただ、そうだとしてもこいつはこいつなりに考えてる。それは確かだ)

菫(だから、そこは……私たちが察してやるしかない。察せられないなら、情けないが、聞くしかない)

菫(私は……私なりに、照のことも、白望のことも仲間だと思っている)

菫(大切なチームメイトであり、友人であると)

菫(それは私の方だけかもしれないが――それでも、普段のこいつらのフォローは私たちがやらなきゃならない)

菫(いやむしろ、やりたい。友人として、何かをしてやりたい)

菫(だから――私が。私たちがちゃんと、お前たちの背中を守ってやる)

菫(……こっちでも、部長だからな)

菫(だから、遠慮なくその悩みを聞かせてくれ――)


白望「――なんで、PAD入れてるの?」

菫「――」


菫「……」

菫「……」

菫「……」


菫「……は?」


菫「えっ」

菫「いや、はは」

菫「えっ」

菫「な、なんのことだ?」

菫「ちょっとお前の言っている意味が……うん、判らないな。はは」

菫「何を言ってるんだ? なあ、うん」

白望「胸、ズレてる」

菫「――ッ」


菫(いや待て、弘世菫。待つんだ)

菫(そう……落ち着け。落ち着くんだ、私)

菫(これはきっと、白望の策略だ。私に鎌をかけているだけだ……!)

菫(きっと――)


菫(『「スタンド」使いに共通する見分け方を発見した』)

菫(『それは……スタンド使いはタバコの煙を少しでも吸うとだな……』)

菫(『鼻の頭に、血管が浮き出る』)

菫(『えっ』『うそだろ、承太郎!』)

菫(『ああ、嘘だぜ……だがマヌケは見つかったようだな』)


菫(――この流れだ)

菫(そうやって鎌をかけて、私に胸を触らせる……そしてPADのことを自分からバラさせるという寸法に違いない)

菫(……)

菫(ふふ……甘かったな、小瀬川白望)

菫(私は偽テニールほどに『マヌケ』じゃないということと、私はちゃんとジョジョを読み込んでいるということだ)

菫(わざわざ答える必要はないがな……)

菫(……ふふ。勝つのは私だ)

菫(だって私は何も悪いことをしていない。そうだろう?)

菫(これは……止むに稀ない事情があったからだ。そう、仕方ない事情が)

菫(元々の私の胸は、今の詰め物をしているときと同じくらいに大きかったのだ)

菫(だが、照に付き合って写真撮影をしなければならない……そんな時に)

菫(ダイエットしたら……縮んでしまったのだ。胸が)

菫(そんな私をみて、女性カメラマンは――『だったら戻るまでPADを入れておけばいいじゃないか』と、そう言った)

菫(そう、あくまでも戻るまで……私はそれを使うことにした)

菫(残念ながら……実に屈辱的ではあるが……まだ、それが治っていないんだ……)

菫(だからこれは、仕方がないのだ――)


憩「部長さん、胸に詰め物しとったんやなー」


菫(オイィィィィィィィィィィィイ――――!? なにをするだ――――!)


菫「え、い、いや……何の事だか……」

仁美「弘世、そういうんは……胸のズレば直してから言え。な?」

菫「――」

胡桃「えーっと、うん……大きく見せたいってのは仕方ないことじゃないかな。うん」

塞「そ、そうそう! 私も女だから、まあ、その、気持ちは判るよ! うん!」

菫「――」

憩「シリコン入れるよりは、健全やと思うよー」

和「それに……大きくても邪魔なだけですから」

菫「――」

智葉「あー、その、なんだ……私も似たようなことをしてるしな。うん」

菫「お、お前もPADを使っているのか……?」

智葉「いや……その……」

菫「正直に言え! 言うんだ! 私たちは仲間だろう!?」

智葉「あー」

菫「ためらわずに言うんだ! PADを使っている、と! 宣言しろ! 宣言するんだ!」

智葉「……逆だ」

菫「は?」

智葉「……悪いな。逆なんだ」

智葉「私は……サラシで、つぶしてる方だよ」

菫「えっ」


菫「いやいや、まさか……」

智葉「……」

菫「おい、うそだろ……? 嘘だよな……?」

智葉「……悪いな」

菫「……」

菫「待て! 確かめさせろ! お前も見栄を張りたいんだろ? そうに決まっている!」

智葉「ちょ……おい、や、やめろ!」

菫「うるさい! ここで引ん剥いて確かめてやる! 確かめさせろ!」


京太郎「――っ!」 ガタッ

憧「座ってなさい、この馬鹿男!」

京太郎「放してくれ……! 俺は……俺は……!」

憧「……最低男呼ばわりするけどいいの? あんた、そんな奴じゃないでしょ?」

京太郎「……」

京太郎「……確かに、俺らしくないよな」

憧「うん」

京太郎「座ってるよ。こういうの見るのは、自分でもどうかと思うから」

憧「よろしい♪」


菫「そうだ、そんなのは嘘に決まっている。嘘に違いない」

菫「海に行こうと言って、PADである私を追いつめている風に見せて実はお前も怯えていたんだろう? そうなんだろう?」

菫「そうだよな。私と張り合っていただけだよな」

智葉「……残念だが」

智葉「いや、お前の胸や頭のことじゃなくな?」

菫「うるさい!」

菫「私は信じない……! 信じないぞ……!」

菫「ここで、その服を引きちぎって確かめてやる! ははは! 大丈夫だ!」

菫「ほら、痛みはない! 私の握力なら容易いからな! 逃げるなよ!」

智葉「落ち着け。お前らしくない」

智葉「そんな、パッとしないようなことを言うような奴じゃ――」

菫「――誰がPADだ!」

菫「ああそうだよ! 私がPADだ! PADをつけて部長をやってたんだよ! すごいだろ!」

菫「お前もPADなんだろ? そうなんだろ、副部長!」

智葉「……落ち着け。そんなお前を見たくは……」

菫「落ち着けるか! これはな、私の進退をかけた瀬戸際なんだよ!」

菫「ほら、剥いてやる! 来い! 逃げるな!」

智葉「止めろ。いや、本当に……!」

菫「遠慮するなよ! お前も、私と悩みを共有するんだ! ああ、後輩に胸のサイズで負けたという痛みをな!」

菫「さあ――」


白望「――落ち着け、PAD長」


菫「――」

菫「――」

菫「――」


菫「……えっ」

菫「お前、今、何て……」

白望「PAD長」

白望「PADをつけた部長だから……PAD長」

白望「……二度も言うとか無駄。無駄なことはダルいから嫌いなんだ。…………無駄無駄」

菫「……うっ」

菫「お、お前……お前今、どれだけ残酷なことを言っているのかわかっているのか!?」


白望「……PADだかなんだか知らないけどさ」

白望「さっきから、後輩二人に気を遣わせてるのが……部長のやること?」

菫「……っ」

白望「須賀……京太郎と、憧は結構この雰囲気をどうにかしようとしてた」

白望「珍しく変に食い下がるから、智葉との落としどころが聞かないこの空気を……」

菫「わ、私は……」

白望「……」

白望「……菫は別に、そんなのがあってもなくても魅力的な人間だから」

白望「あんまり、くだらないことで騒ぎを起こして株を落とすのはどうかと思う」

菫「へっ?」

白望「だから、落ち着け。もうちょっと」

菫「あ、ああ……」



白望「……」

白望「……長文喋りすぎた。ダルい」

菫「シロ……!」

菫「お前は、私のことを……そこまで……!」

白望「……」

白望「……遊びに行くの、楽しみにしてるから」

白望「……ダルいけど。この面子なら、ダルくない」

菫「――あ、ああ!」

菫「任せろ! あんまり、お前の負担にならない計画を立てるからな!」


白望「プラン頼んだ、PAD長」

仁美「頼りにしとるけん、PAD長」

智葉「お前なら大丈夫だ、PAD長」

白望「信頼してるよ、PAD長」

仁美「水着選びだ、PAD長」

智葉「楽しく行こうな、PAD長」



菫「お前らァァァァァァァ――――――っ!」



和「……落ち着いたのでしょうか」

和「私は、別に気にするほどのことではないと思いますが……」

憧「そりゃあ、和にとってはどうでもいいでしょうね……」

塞「うーん」

塞「あれはシロなりの気遣い……なのか? どうなんだろう? うーん」

塞「それまでのギクシャクを……茶化して、冗談っぽく終わらせてるって言えばそうだし……どうなのかな?」

憩「皆仲良しさんでええなー」

憩「私も、こーゆー、この部活の空気が好きでなぁー」

胡桃「……仲、良し?」

京太郎「……ハハハ」


京太郎「じゃあ、話もまとまったところでお茶入れますね」

塞「胡桃!」

胡桃「うん!」

京太郎「へっ?」

京太郎「あの、これは何ですか? えーっと、なんで、俺の膝に……?」

胡桃「じゅ、充電……っ」

塞「放っておくと直に須賀君は自分からそういうことをやっちゃうから、その対策としてね!」

京太郎「は、はぁ……」

塞「流石に胡桃を膝から降ろしてまで、雑用はできまいって!」

京太郎「いや、まあ、俺はいいですけど……」

京太郎「鹿倉先輩?」


胡桃(別にこれに他意はない。ただ須賀君が雑用をやっちゃうから仕方ないことなんだって)

胡桃(うん、お姉さんだから仕方ない。これも後輩のためでしょ)

胡桃(思った以上に柔らかかったり体ががっしりしてたり結構息が近かったり汗臭くなかったりとかそんなの関係ない。関係ないから)

胡桃(は、恥ずかしくは……ないっ)


憧(うわー、京太郎の膝上に収まっちゃってるよ)

憧(うん)

憧(……大丈夫大丈夫、京太郎ならたぶん大丈夫。うん、大丈夫。きっと先輩には手出しなんかしないはずだよね。うん、そうそう)

憧(でも……あいつ、しずと……あんな、感じで……その、え、えっちなことを……)

憧(~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?)


京太郎(んー)

京太郎(まあ、いっか。結構ちんまくて可愛いし……先輩がそれでいいなら)

京太郎(俺が気にしても、しょうがないよな。うん)


 打ちひしがれる弘世菫は、すぐに立ち直りいつも通りの頼りになる部長に戻るだろう。

 辻垣内智葉は、そんな彼女と試合についての打ち合わせを始めるだろう。

 江崎仁美はそんな二人の様子を眺めながらも、なんのかんのとのらりくらりと立ち回るだろう。

 小瀬川白望は相変わらずで、面倒くさそうにしつつも、居心地は悪くないと椅子に寄りかかるだろう。


 荒川憩はのほほんと、朗らかな笑みで皆を見守る。

 臼沢塞は、やれやれ仕方ないなーと、皆の静かなまとめ役になる。

 鹿倉胡桃は張り切って、お姉さんとして振る舞う。


 原村和は冷静そうな振る舞いをしつつ、その実内心一番楽しんでいるはずだ。

 新子憧は相変わらずちゃっかりしてる。きっと自分と、喧嘩だかなんだかわからないやり取りを続けるはずだ。


京太郎(ああ――数か月しかいないけど、ここって居心地がいいなぁ)

京太郎(俺、この大学に来れて……本当によかったよ)


 お茶を入れる三人を見て、ちゃんと砂糖の数なんかは判っているのかなーと首を動かしてみる。

 まあ、心配なんていらないだろうが。

 ただ、どうにも手持無沙汰だ。麻雀で強くなるためにこの大学に来たと言っても、やはり、染みついた習慣というのは中々消えないらしい。


胡桃「どうしたの?」

京太郎「いやー……その」

京太郎「こういう日常が、ずーっと続いてくれるといいなーって」

胡桃「うん。そうだねー」


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【弘世菫の好感度が上昇しました!】

【新子憧の好感度が上昇しました!】

【原村和の好感度が上昇しました!】

【臼沢塞の好感度が上昇しました!】

【荒川憩の好感度が上昇しました!】

【江崎仁美の好感度が上昇しました!】

【鹿倉胡桃の好感度が上昇しました!】

【辻垣内智葉の好感度が上昇しました!】

【小瀬川白望の好感度が上昇しました!】

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最終更新:2013年12月31日 13:37