京太郎「~♪」

京太郎「ま・いーたけー、ま・いーたけー!」

京太郎「まいーたけの株よー、モルダウよー!」

京太郎「ニンジン! オレンジになり続ける! 一本、届けたい根の栄養!」

京太郎「ココニオチル! カカロット、落とす! トング! トング! トング! Ready Go!!」

京太郎「……ああ」

京太郎「……やっぱり、最高だよな」


 エプロンを締めて、キッチンに立つ。

 まだこのエプロンが残されているとは思わなかった。嬉しい。

 歌を口ずさんでいる、そんな時だ。


憧「何が、最高なの?」


 キッチンに、新子憧か顔を出した。ワイシャツ姿の。

 ……念のためだが、ちゃんとスカートは履いている。ちゃんと。

 どうでもいいけど、女の子のワイシャツ姿って……そこはかとなくエロいよね。

 どうでもいいけど。


京太郎「……あ、憧」

京太郎「お前っ……」

憧「……そんなに怯えなくてもいいでしょ」

憧「何も、とって喰おうとしてるワケじゃないからさ……」

京太郎「お、お前……よくさっきみたいなことをして」

京太郎「そんな変な言い訳を言えたもんだな――ぃぃい、くぁっ!?」

憧「言い訳かと思ってたけど……」

憧「走ってきたのは、本当みたいね」

京太郎「っひゅぅ!?」


 ふにゅっと、足の付け根を揉まれる。

 体質改善や肉体改造・トレーニングの末、筋肉に疲労を溜め込まない身体になったものの、

 やっぱり、全力を振り絞った直後ではこうなる。


京太郎「や、やめろ……」

憧「やーだ」

憧「これはお返しよ、お返し」


 後退りながら、コンロを止めて包丁をしまう。

 どうするにしても、どうなるにしても、流石に危ないからである。


京太郎「お返しって、一体なんの……」

京太郎「ふきゅぅぅう」

憧「あはっ……♪」

憧「可愛い声、出すわね」

憧「京太郎の癖に、生意気……!」

京太郎「――ッ」

京太郎「や、やめろ……それ以上近付くな……!」

京太郎「あんまりふざけたことするんじゃねーぞ、憧」

京太郎「早くやめねーと――」


憧「――『舌入れてキスする』?」

京太郎「『舌入れてキスする』ぞッ!」

京太郎「――ハッ」


憧「あたしは別に構わないけど」

憧「……ふーん」

憧「京太郎はそういうことをしたいのかぁ……あたしと」

京太郎「すみません嘘ですやめてください」


憧「……へぇ」

憧「あたしとは、したくないんだ」

憧「あたしってそんなに女として魅力ないの?」

憧「……傷付くなぁ」

京太郎「い、いや……それは」

憧「……」

京太郎「……憧?」

憧「――隙あり♪」

京太郎「うひゅぁぁぁああ」


 俯いてしまった憧に近付いたらこのザマだよ。

 やっぱり女は信用できない。

 改めてそう思う。


京太郎「や、やめろよ……」

京太郎「あんまりだ……酷すぎる……」

京太郎「こんなのって、ないだろ……」

京太郎「こんなの絶対おかしいだろ……」

憧「なーに?」

京太郎「うりぃぃぃぃぃい」


 艶っぽく笑いながら、太股を握られる。

 また変な声でた。

 なんなのこれ。どんなテクニシャンなの。


憧「んふ」

憧「不思議そうな顔してるから、教えたげるけど……」

憧「聞きたい?」

京太郎「いや……」

憧「ん?」

京太郎「いっひゃぁぁぁぁあ」

京太郎「も、やめ……っ」

憧「どっちなの?」

京太郎「き、聞きたいです。聞かせて下さい!」

憧「よろしい」


憧「そーゆー素直な方が可愛いし、モテるわよ?」

京太郎「可愛いって言われても嬉しくねーし、誰彼構わずモテたいとも――」

京太郎「だにぃぃぃぃぃいい」

憧「なにか言った?」


憧「あんた、前も部室でこんな声出してたよね?」

京太郎「前って……」

京太郎「もしかして、憩さんとの――」

憧「ふん」

京太郎「――ぅぉらっぁぁぁあ」


 このままだと、お嫁にいけない身体にされてしまう。

 沸点が判らないけど。

 とりあえず、口を開かなければ――


憧「……」

憧「京太郎の可愛い声」

憧「もっと、聞かせてよ」

京太郎「うあぁぁあああぁあ」


 どないせーっちゅうんじゃ!

 酔っ払いは実際コワイ。何をするのか、全然予想できない。

 折れた膝を支えるように、壁に腕をつく。

 すると――


憧「そこ、してほしいの?」

京太郎「ん、おおぁぁぁあっ!?」

憧「……ほんっと、可愛い声♪」

憧「あたし、変になっちゃいそう」

京太郎「いやもう、既にお前変……んにゅぁぁぁあ」

憧「なーに?」


 空いた脇腹に滑り込むように収まる憧の身体と。

 繰り出された指閃。

 ツッコミは禁止らしい。

 これほど思わせ振りな(ボケ的な意味で)行動をしておいて、

 入れる(ツッコミを)のは禁止とは、中々どうして辛いものがある。

 サドだ。いや、ドSだ。


憧「まぁ、とにかく……」

憧「あんた、憩にマッサージされてるときに……可愛い声出してたでしょ?」

憧「その場所、覚えてたの」

京太郎「なんで、んなこと……」

憧「……」

憧「い・や・が・ら・せ♪」

京太郎「ぃぃぃいぃいい゛」

憧「かーわいっ♪」

京太郎「や、め……えぇぇえええ!?」


憧「……ま」

憧「あたしのときの方が、いい声だけど」

京太郎「だってお前のマッサージじゃなく――」

憧「ん♪」

京太郎「や、らぁぁぁぁぁあ」


 なんだよこれ。なんなんだよ。

 太股舐めたとき、穏乃は顔真っ赤にしながら泣いてたけど……。

 こういうことだったんだね――えぇぇぇええ!?


憧「なに考えてたの?」

京太郎「な、何も……」

憧「うーそっ♪」

京太郎「うええぇぇえええい!?」

憧「うりゃ」

京太郎「なぜぇぇぇぇぇぇえい」

憧「可愛い顔……♪」

京太郎「み、見るな……!」

憧「やーだ♪」


 顔を背けようとしても、見られる。

 憧さんコワイ。助けてハギヨシさん。


憧「だって、久しぶりだからさ」

京太郎「ひ、久しぶりって……」

京太郎「だからって……こんなの、ないだろ」

京太郎「俺とお前は、仲間じゃ……」

憧「うるさい」

京太郎「うぇぇぇぇぇぇい」


京太郎(流石に、これ以上は――)

京太郎(腰抜ける! そんで、いろんな意味でやばいッ!)

京太郎(飲み会に行って……)

京太郎(朝のOLや学生で賑わうコンビニでパンツ買わなきゃならんような惨めな思いは二度とゴメンだッ!)

京太郎(今の俺のテンションは、大学生時代に戻っている!)

京太郎(この須賀京太郎に、精神的動揺はないと思って貰うぜ……!)


 脇を指しに来た憧の手首を抑える。

 そのまま、もう片方もホールド。

 二度とふざけた真似ができんように、この手は放さない。


憧「え……ちょ」

京太郎「捕まえたぜ……やれやれ」

憧「や、ちょ……顔怖いって」

京太郎「そりゃあ、怒ってるからな」

憧「な、なんで……?」

京太郎「『なんで』ェ?」


京太郎「やれやれ……自覚なしっつーのか?」

京太郎「こいつは不味いよなぁ……?」

京太郎「実に、グレートだぜ……こいつは」

憧「や、近いよ……近いって」

京太郎「『覚悟』はいいか?」

京太郎「やっていいのは、やられる覚悟がある奴だけだぜ……レディ?」

憧「ひっ――」

憧「ふきぅぅぅぅぅぅう!?」

憧「ん、にゃ……ゃぁああああああ!」

憧「ちょ、耳……ぃぃぃぃいいいいい!」

憧「やめ……! も、これ以上は……あぁぁぁあああああ!?」

憧「ら、も、や、やら……や……ぁぁぁあああああ!?」

憧「あたっ、しぃ……! 耳、弱……っ」

憧「弱く、て――ぇぇええええ!?」

憧「ほんっ……本気、も、だめだから……あぁっ!」

憧「きょ、きょうたろ……ッ! 京太郎ぅぅぅぅう!?」

憧「本当に、これ以上……だ、だめだからぁ!」


 打ち上げられた魚のように肩を上下させて、

 両膝をペタンと広げて座り込む新子憧を見下ろしながら、溜め息を漏らす。

 京太郎の息も、絶え絶えだ。

 流石に、耳に向かってひたすら息を吐き続けるのは辛かった。

 前に『10分間息を吐き続けられるか』と、国広一と試してみた京太郎でもそうである。

 常人なら酸欠モードだ。

 ……ちなみに、どれだけ息を絞っても/搾っても1分半が限界だった。

 波紋の戦士ってやっぱりスゲー。改めてそう思った。


 立ち上がろうとして――


京太郎(勝ったッ!)

京太郎(……んで、勃った)


 立てなかった。

 たってるのに、たてないって何なんだろうね。


憧「ぅぅう」

憧「えぐっ……うぅ」

憧「ひっ……ううぅ」


 顔を近付けたら背ける憧の耳に、息を吹きかけ続けた。

 身体が跳ねようが、嫌々と首を振ろうが、必死に逃げようとしようが、

 構わず耳を空気責めしつづけた。

 ところどころ、吐息と一緒に言葉責めも混ぜた。


 『憧の声もっと聞きたい』とか『手が細くて色っぽい』とか、

 『その顔すごく可愛い』とか『もっと俺に色々見せろよ』とか、

 『泣きそうな憧の顔は堪らない』とか『いやらしい顔してるな』とか、

 仕返しのつもりだったが、いつのまにかちょっと愉しくなっていた。

 酒は飲んでないのに、軽く酔っているノリだった。場酔いか。


京太郎「あー」


 どうしよう。

 なんか、未経験の女の子陵辱したような罪悪感。 


京太郎「……その」


 はだけたワイシャツから、鎖骨が見えた。

 こういうとき、胸元ではなく鎖骨に注目してしまうあたり、我ながら罪深い。

 穢れてしまったんだろう。色々と。

 鎖骨付近にキスマーク付けたくなるのって、なんなんだろうねあれ。

 ……なに言ってんだろう。多分テンパってる。


京太郎「これはだな……あの」

京太郎「なんていうかさ……その」

京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「すみませんっしたぁぁあ――――――っ!」


 土下座しかない。

 責任取れと言われたら、全力で責任を取る所存だ。

 腹切り結納婿入り断髪エンコ詰め、なんでもござれである。


 正直、新子憧は美人である。水着姿も色っぽい。

 気が利くし、可愛いし、色々世話になってるし……。

 酒癖の悪さを除けば(前は悪ノリで唇を奪われた)、満点である。

 いや、胸は……もっと欲しいけど、ありである。

 責任取れって言われても、わりとメリットしかない気がする。

 どうかとも思うが。


憧「……いいよ、もう」

憧「元はと言えば……先にからかったの、あたしだから」

憧「頭、上げて」

京太郎「あ、ああ……」


 頭起こした瞬間になんかされるんじゃないか。

 そんな失礼なことを考えながら、顔を上げる。

 なんかしたのはこっちなのにね。おかしいね。


憧「……なーんて」

憧「ふぎゅ」

京太郎「そんなことだと思ったぜ」

京太郎「ムエタイ使い、ナメんな」


 人差し指と中指で、憧の唇を止める。

 やっぱりだった。

 謝ろうとしてたのが、馬鹿らしくなってくる。


憧「……たはは、バレた?」

京太郎「当たり前だろ」

京太郎「どんだけ長い付き合いだと思ってんだよ」

憧「だよね」

京太郎「……ああ」

京太郎「長い――――長い付き合いだよ」

京太郎「お前とはさ、本当」


京太郎「……本当」

京太郎「お前には、世話になりっぱなしだったよな」

京太郎「高校のときも……」

憧「……ッ」

京太郎「大学の、ときもさ」

憧「……」

憧「お相子でしょ?」

憧「あたしも大学のとき、あんたに色々助けて貰ったから」

京太郎「そうか?」

京太郎「それでも多分……お前からの恩の方が大きいよ」

憧「返してくれる?」

京太郎「返したいけどさ」

京太郎「どうだろうな……返しきれるかな」

京太郎「一生分って気がするしな」

憧「そっか」

京太郎「そうだよ」

京太郎「お前との大学生活なきゃ、今の俺はいないからな」

京太郎「そういう意味で……本当、一生分だよ。今の、俺のな」

憧「……ふーん」

京太郎「……」

憧「……」


京太郎「……」

憧「……」

京太郎「……さっきは悪い」

京太郎「彼氏でもない男が、やっていいことじゃなかった」

憧「別に……構わないわよ。そもそもあたしが悪いから」

憧「それとも……責任取って付き合えって言ったら、そうするの?」

京太郎「……お前さえ、よければ」

憧「……」


憧「……じゃあ、お断り」

憧「そんな、責任取るって付き合うのも――お互い、迷惑でしょ?」

憧「あたしも嫌よ、そんな関係」

憧「だからさっきのは、お互いさまってことにしよう?」

京太郎「そうだな」


憧「ねえ」

京太郎「なんだ?」

憧「……最近、忙しそうね」

憧「連絡、全然してくれないしさ」

京太郎「……悪いな」

京太郎「でもさ、あれはお前が原因だろ?」

京太郎「何度かメール、シカトしてくれたし……」

京太郎「『あー、連絡してくんなってことかなー』」

京太郎「なんて、思っちまうよ」

憧「うぐっ」

憧「だって、忙しかったから……」

京太郎「だよなー」

京太郎「社会人成り立てって、そんなもんだよ」

憧「そうなのよねー」

京太郎「俺ら、社会人なんだよな」

憧「……ね」

憧「あの頃は、もっと先の話だと思ってた」

京太郎「俺も、そうだったよ」


憧「……京太郎」

京太郎「なんだ?」

憧「改めて、プロになっておめでとう」

憧「仕事、順調そうだし……」

憧「よかったわね。本当に、さ」

京太郎「……ああ」

京太郎「ありがとうな、憧」

憧「……どう致しまして」


憧「……プロ、楽しい?」

憧「麻雀、楽しい?」

京太郎「ああ」

京太郎「ままならないことも多いけど……スッゲー楽しいよ」

憧「……そっか」

憧「ならよかった」

京太郎「……」

憧「……」


京太郎「……憧」

憧「なーに?」

京太郎「……」

京太郎「俺はさ――」

京太郎「俺は、お前らみたいになりたかったんだ」

憧「……どういうこと?」

京太郎「麻雀を通して、誰かと繋がりたかった」

京太郎「そういう人間に、なりたかったんだ」

憧「……」

京太郎「かっこいいんだよ、そういうの……なんつーか」

京太郎「皆と一緒に、大会に出たりさ」

京太郎「再会のために、麻雀打ったり……」

京太郎「そういうのが、凄く魅力的で……憧れてた」

憧「……そうなの?」

京太郎「そうなんだよ」


京太郎「中学の頃の俺、そういうのに縁があったけど……なんかな」

憧「……聞いちゃいけない系?」

京太郎「いや?」

京太郎「普通に、ハンドボール部で県決勝まではいったけど」

京太郎「特にこう……熱い気持ちでやってるって訳じゃなかったな。今思えば」

京太郎「楽しい事は楽しいけど、なんかここまで怒鳴られてやる事かよ……的な」

憧「あー」

憧「あんた、変にネガティブよね」

京太郎「そうか?」

憧「そうだって」


京太郎「あとは普通に……殆どダルかったな」

京太郎「だってさ、人生一度っきりで……中学生活って一度っきりだろ?」

憧「そうね」

京太郎「なにが嬉しくて、部活の先輩にへーこらして」

京太郎「怖い顧問に怒鳴られて、髪の毛をクッソ短くして」

京太郎「放課後どころか、昼休みや朝とかも部活に出なきゃならないんだ」

京太郎「なんて風に思ってた」

憧「あー」

憧「中学生ねぇ……」

京太郎「中学生だったなぁ……」


京太郎「んで、高校に入ったときさ」

京太郎「誘われたんだよ。生徒会長的な人に」

憧「……学生議会長だっけ?」

京太郎「そうそう。清澄だと、そんな感じだった」


京太郎「『あなた……』」

京太郎「『そうそう! そこの君!』」

京太郎「『てぃんと来たわ!』」

京太郎「『部活入ってる? ん、入ってないか』」

京太郎「『見たところ人当たりもいいし、人脈広そうでオッケーね』」

京太郎「『私は竹井久。見たところ、悩んでるみたいね……一年生くん』」

京太郎「『あなたの悩み、私が解決してあげるわ!』」

京太郎「『怪しい?』」

京太郎「『ふふーん、ちゃんと考える力はあるみたいね。善きかな善きかな』」

京太郎「『……ねえ、灰色の学生生活を送るつもりなのかしら?』」

京太郎「『面倒臭いとか、つまらないって逃げてたら……本当につまらない人間になるわよ?』」

京太郎「『多分あれね。大体、4・5年もしたら後悔するわ』」

京太郎「『もっと、人と関わっておけばよかった……って』」

京太郎「『まあ、あなたもそう思ってるんでしょう?』」

京太郎「『だから、それとなーく部活を吟味してた』」

京太郎「『違うかしら?』」

京太郎「『……なるほど。やっぱり図星ね』」

京太郎「『そこであなたに、お勧めの部活があるわ!』」


京太郎「……ってな具合に」

憧「なるほどねー」


憧「京太郎の師匠だっけ?」

京太郎「ああ、俺に麻雀の楽しさを教えてくれた人」

京太郎「そんで、この世界で戦う……武器をくれた人だ」

憧「あー」

憧「あたしと戦ってたあの人、そんな人だったんだ」

京太郎「そんな人なんだよ」

憧「へー」

京太郎「んで、こう言われた」


京太郎「『最初に謝っておくわ』」

京太郎「『あなたには、麻雀以外でお願いがあるの』」

京太郎「『人脈、広いって言ってたのはそれなんだけど……』」

京太郎「『見ての通り、女子が大会の団体戦人数に足りないのよ』」

京太郎「『数合わせでもいいから、何人か女の子を連れてきて貰える?』」

京太郎「『初心者でもいいわ。最初は皆初めてだから』」

京太郎「『何か光るものあれば、嬉しいんだけどねー』」


京太郎「ってな具合に、人数集めを頼まれた」

京太郎「そっから何人か連れてったけど……あんまり麻雀には興味ない感じだったな」

京太郎「なんでそれなのに、麻雀部に顔だしたのかね?」

憧「あー」

憧(それ、あんたに釣られたからだから)

憧(その頃から鈍感だったのね……こいつ)

京太郎「ま、そんで最後に……咲を連れてって」

京太郎「そっからの結果は、憧も知ってるだろ?」

憧「モチのロンよ」

憧「争った相手のこと、忘れるわけないでしょ?」


憧「……で」

憧「その話が、どうしたの?」

憧(京太郎の口から……あんま、他の女の話聞きたくないし)

京太郎「んでさ……」

京太郎「そっから、放置プレイで雑用な訳よ」

憧「どういうこと?」

憧(今のあたしにされてるのも、放置プレイみたいなものだけど)

京太郎「文字通りだよ」

京太郎「教えてくれるって言った麻雀教えてくれねーし」

京太郎「なんかやたら、雑用係とか荷物持ちだし」

憧「あー」

憧「なら、阿知賀に来たらよかったのに」

京太郎「女子校じゃなかったらな」


京太郎「……でもさ」

京太郎「あれほど中学の頃、なんか本当に面倒だなって思ってたことがさ」

京太郎「気分を変えてやってみたら、案外楽しかったんだ」

憧「楽しかった? 雑用が?」

京太郎「そうそう」

京太郎「皆が気持ちよく麻雀打つ為の、舞台を整えるってのも……悪くないなって」

京太郎「部長も、インターハイ終わったらちゃんと教えるって約束してくれたからな」

憧「ふーん」

京太郎「まあ、俺って恵まれてるなーって思った」

憧「なんで?」

京太郎「照さんから聞いたんだけどさ……」

京太郎「基本、麻雀ができる人間でも……最初はそういう雑用スタートらしいんだよ」

京太郎「淡みたいな、例外じゃないかぎりは」

憧(“照さん”……? “淡”……?)

京太郎「しかも、強豪ならレギュラーメンバーと会話すらできなかったりする」

憧「あたしらみたいな零細じゃあ、考えられないわね」

京太郎「麻雀打てるのに碌に打てないで……」

京太郎「自分がやってることがレギュラーの助けになってるか判らない」

京太郎「そういうところに比べたら、俺って幸せだったんだな……って」

憧「……強豪だからでしょ?」

京太郎「いや、普通はどこの部活もそんなもんだろ? ハンドのときもそうだったし」

京太郎「だから俺、本当に恵まれてるんだなーって思った」

憧「へー」


京太郎「だからさ……」

京太郎「やってみなきゃ判らなかったけど、そういう風にちゃんと思って人と繋がるのって……楽しいんだよ」

京太郎「それだけじゃない」

京太郎「麻雀に何かをかけたり、夢とか目標とか乗せるのって……なんつーか、いいんだ」

京太郎「上手くは言えないけど、スゲーんだ」

憧「……」

京太郎「そういう人間に……」

京太郎「お前らは――俺を人間にしてくれたんだ」

京太郎「特に夢とか目標とかなくて、色々漠然と適当に考えてるだけだったのに」

京太郎「今じゃ立派に俺、生きてる。スゲー、人生楽しんでる」

憧「……なにそれ」


京太郎「……ん、だからさ」

京太郎「俺は今――無理とかしてないんだ」

京太郎「心配、してくれてたんだろ?」

京太郎「お前には色々、弱っちいとこ見せちまったしさ」

京太郎「だから……テレビでの俺見て、ひょっとしたら心配かけちまってるかな」

京太郎「なんて、思ってた」

京太郎「……思っては、いたんだよ」

憧「……」


京太郎「だから、伝えたかったんだ。お前に会って」

京太郎「ありがとう」

京太郎「そんで俺、楽しんでるよ――って」


憧「……そっか」

憧「楽しめてる、んだ」

京太郎「ああ」

京太郎「色々、あったけどな」

京太郎「やっぱ麻雀、楽しいし――」

京太郎「麻雀を通じてできた縁も、人間関係も」

京太郎「全部ひっくるめて、大好きだよ」

京太郎「……照れ臭いし、色々と迷惑かけた手前、言えなかったけど」

京太郎「お前のことも、大好きだ」


京太郎「俺と出会ってくれてありがとう」

京太郎「俺のこと、支えてくれてありがとう」

京太郎「俺のこと心配してくれて、応援してくれて……ありがとう」

京太郎「ありがとうな――憧」



憧「ふきゅっ!?」



 ――この間。


憧(こここここここれ、プロポーズ!?)

憧(あ、あたし!? あたしに告白してるの!?)

憧(い、今髪とか乱れてるし汗すごいしお化粧もあんまりしてないしショーツ変えたいし)

憧(どどどどどどどどどどどどどうしよ!?)


 ――実に。


憧(しずに申し訳ないけどもう5年も経ってるから時効になるのかな)

憧(いやでもやっぱりそこらへんちゃんと話つけた方が京太郎らしいっていうかあたしも安心できるし)

憧(しずとはもう一回スタート位置からよーいドンしてフェアに始めたいっていうか)

憧(どうしよう人の家なのにあたしたちここでしちゃうんだ今日大丈夫な日だけど大丈夫じゃないよそれ)

憧(京太郎にすっごい攻められて腰とか抜けて恥ずかしい声だしてはしたない顔とかになっちゃって)


 ――〇.一秒の。


憧(それを京太郎に写真に撮られたりやだ録音されたりそれを理由にもっとエッチなこと強要されたり)

憧(目隠しされたり縛られたり服無理矢理脱がされたり一人でしろとか命令されたり)

憧(駄目って言ってるのに押しきられちゃったり色んなところにいっぱいキスマークつけられちゃったり)

憧(すごい色んな体勢とらされたり終わったあとの舐めろって掃除させられたり)

憧(裸エプロンとか裸ジャージとかメイド服とかチャイナドレスとか学生服とか水着とか)

憧(遊園地だったりプールだったり海だったり山だったりショッピングモールだったり学校だったり――)



京太郎「俺、お前と知り合えてよかったよ」

京太郎「お前と一緒の大学に来れてよかった」

京太郎「これからも応援して欲しいし――」

京太郎「連絡、とってくれよな」

京太郎「――親友!」


憧(――うん、知ってた!)


 ――早業である。


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最終更新:2015年01月04日 04:11